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2025.10.4

「『数寄者』の現代―即翁と杉本博司、その伝統と創造」(荏原 畠山美術館)レポート。時代を超えた数寄者の共演

白金台にある荏原 畠山美術館で、新館開館一周年記念展として「『数寄者』の現代―即翁と杉本博司、その伝統と創造」が開幕を迎えた。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、中央は杉本博司《春日大社藤棚図屏風》(2022)
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 昨年、杉本博司と榊田倫之が主宰する「新素材研究所」の手によってリニューアルし、名称も新たにオープンした白金台の荏原 畠山美術館。ここで、新館開館一周年記念展として「『数寄者』の現代―即翁と杉本博司、その伝統と創造」が開幕を迎えた。会期は12月14日まで。

本館の展示風景

 同館はもともと「畠山記念館」として1964年10月に開館。能登国主畠山氏の後裔であり、荏原製作所の創設者でもある実業家・茶人の畠山一清(1881〜1971、号 即翁)が創設した美術館であり、茶道具を中心に、書画、陶磁、漆芸、能装束など、日本、中国、朝鮮の古美術品約1300件(うち国宝6件、重要文化財33件)が収蔵されている。

 本展は、同館コレクションと杉本博司の作品およびそのコレクションで構成するものだ。

 展示は同館コレクションで構成する「数寄者」の現代Ⅰ―即翁 畠山一清の茶事風流」(本館2階展示室)から始まる。

 美術館としては非常に珍しく、柔らかな自然光が入る本館の展示室。ここに並ぶのは、畠山一清が1954年秋に催した新築披きの茶会の道具組を軸にした茶道具や軸物などだ。

重要文化財《割高台茶碗》(朝鮮時代)

 例えば古田織部が所持していたとされる重要文化財《割高台茶碗》(朝鮮時代)は、即翁が大阪の豪商・鴻池家の売立の際に入手したもの。同じく重要文化財としては、後期に《清滝権現像》(鎌倉時代)も見ることができる。同作は仏法とその信徒を守る護法神・清滝権現を描いたもので、水神であることから即翁が本業である荏原製作所との機縁を感じて入手したとされている。醍醐寺に伝来し、近代に原三渓が所有、その後即翁が譲り受けた。

 そのほか、一休宗純が60歳のときに書いた墨蹟《尊林号》(室町時代)、重要文化財《宗峰妙超墨蹟 孤桂号》(鎌倉時代)など、見事なコレクションが目を楽しませてくれる。

左が一休宗純墨蹟《尊林号》(室町時代)、中央は重要文化財の宗峰妙超墨蹟《孤桂号》(鎌倉時代)
展示風景より
展示風景より、《志野茶碗》(桃山時代)

 いっぽうの新館は、杉本の作品・コレクションを紹介する「数寄者」の現代Ⅱ―杉本博司 茶道具」(新館展示室1〜3)で構成。

 まず来場者を迎えるのは、これまでの杉本博司個展でも出品された来歴がある、杉本による屏風の大作《春日大社藤棚図屏風》(2022)だ。本作は、春日大社でデジタル撮影したものを和紙にプリントした作品。藤棚が満開になる直前の朝日が昇った直後に撮影されており、杉本が「鎌倉時代のような状況が出現し、ご神託が下ったような感じがした」と語ったものだ。

展示風景より、左が杉本博司《埴輪鹿親子》(2025)、中央が《春日大社藤棚図屏風》(2022)

 そのほか、マルセル・デュシャンの《泉》を本歌取りしたような《ガラス茶碗 銘 泉》(2014)をはじめとする数々な茶碗、本展で初披露となった杉本手捻りの《阿蘭陀手鹿香合》(2025)、開幕前日に運び込まれた最新作の《埴輪鹿親子》など杉本の写真以外の作品が、古美術と同列に並ぶ。

展示風景より、村野藤六(杉本博司)《ガラス茶碗 銘 泉》(2014)
展示風景より、杉本博司《阿蘭陀手鹿香合》(2025)

 その古美術コレクションとしては、紀州徳川家伝来の千利休の《竹一重切花入 銘「江之浦」》(桃山時代)が、須田悦弘の木彫《椿 蕾》(2024)と組み合わせて展示。なお須田の作品はこれのみならず、室町時代の《春日神鹿像》のほか、随所に見ることができる。

千利休の《竹一重切花入 銘「江之浦」》(桃山時代)と須田悦弘の木彫《椿 蕾》(2024)
展示風景より、《春日神鹿像》(室町時代)。海景五輪塔は杉本博司、蓮台・鞍の補作は須田悦弘が手がけた

 古美術コレクションで白眉となるのは、法隆寺金堂釈迦三尊像の旧部材とされるものだ。これは杉本の古美術コレクションから新たに発見されたもので、釈迦三尊像の脇侍菩薩立像の台座蓮弁とみられる。杉本は大茶人・益田鈍翁(1848〜1938)旧蔵の「法隆寺金堂金具」を所有していたが、今回の展覧会に際して日本彫刻史の専門家による調査を実施。台座蓮弁である可能性が極めて高いことが確認されたという。調査を担当した瀬谷貴之・金沢文庫主任学芸員は、これを「日本美術史上画期的な発見」と評価している。

展示風景より、《法隆寺釈迦三尊 脇侍菩薩立像 台座旧蓮弁》(奈良時代)と杉本博司臨書《無準師範 墨蹟 東西蔵》(2022)

 近代最後の数寄者とも言える畠山即翁と、まごうとこなき現代の数寄者・杉本博司。時代を超えた数寄者の共演を見逃す手はない。

展示風景より、《十一面観音立像》(平安時代)と《二十五菩薩来迎図》(鎌倉時代)
展示風景より、中央の軸は白髪一雄《墨筆抽象画》(1960年代前半)
展示風景より