2025.12.21

台中市立美術館開幕レポート。芸術都市・台中にSANAA設計の新たなランドマークが誕生

台湾・台中に、台中市立美術館と台中市立図書館を一体化した新たな文化施設「台中緑美図(Taichung Green Museumbrary)」が開館した。本施設の概要をレポートしたい。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

台中緑美図の台中市立美術館の屋上ガーデン
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 台湾中部の都市・台中に、新たな文化施設「台中緑美図(Taichung Green Museumbrary)」が12月13日、開館した。本施設の概要と、こけら落としとなる国際チームによる展覧会「A Call of All Beings: See you tomorrow, same time, same place」をレポートしたい。

台中緑美図の外観 Image courtesy of Taichung Art Museum. © Iwan Baan

 台中緑美図は、台中市立美術館と台中市立図書館を一体化した台湾初の複合型文化拠点だ。建築設計は、日本の建築ユニットSANAA(妹島和世+西沢立衛)が、台湾のリッキー・リウ・アソシエイツとの協働で手がけている。総床面積は約5万8000平方メートル、SANAAが手がける文化プロジェクトとしては、これまでで最大規模のものとなった。

台中市立美術館のファサード

 本施設は、中央公園に隣接する旧軍用空港跡地を活用しており、「公園の中の図書館、森の中の美術館」というコンセプトのもとで設計された。建物は大小8つのブロックで構成され、外装はガラスや金属で覆われたうえで、白いアルミメッシュのファサードが施され、外光を館内に積極的に取り入れる構造となっている。

台中市立美術館

 施設は高床構造となっており、1階のロビーは都市や公園とフラットにつながった、周囲の環境と調和した空間となっている。ここでは、コミッションとしてつくられた、土木建築家として経歴ももつアドリアン・ティルソの巨大な作品《Post-Museum Evidences(the Drill)》(2025)が来場者を迎える。水を湛えた皿状のオブジェクトから階上へと伸びるドリルのような本作は、1階部分だけでなく、その天井に突き刺さり、そのまま階上の2つの展示室を貫いている。その材料には美術館の建築で使用されたあらゆる素材が使われており、洗練されたSANAAの建築の内部に土地改良と建築という行為を生々しく露出させる。

展示風景より、右がアドリアン・ティルソ《Post-Museum Evidences(the Drill)》(2025)

 1階ロビーからは吹き抜けの螺旋状のスロープを登った階上からは、美術館と図書館の双方へとアクセスができる。外部の光をふんだんに取り込み、広く公園全体を臨むことができる開放的なこの空間には、天に向かっていくようにヤン・ヘギュの《Liquid Votive - Tree Shade Triad》(2025)がコミッションワークとして制作された。空に根を張りながら空中に浮かぶ巨大な樹木をイメージした本作は、日常的な装飾であるベネチアンブラインドを組み合わせて制作されており、東アジアの古木信仰に対するへギュの関心が投影されているという。

展示風景より、ヤン・ヘギュ《Liquid Votive - Tree Shade Triad》(2025)
展示風景より、ヤン・ヘギュ《Liquid Votive - Tree Shade Triad》(2025)

 ヘギュの作品を見ながらスロープを上がると、2階の展示室にたどり着く。ここからは本館のこけら落としとなる展覧会「A Call of All Beings: See you tomorrow, same time, same place」の会場となる。

 本展は台中市立美術館キュラトリアル・チームに加え、台湾のキュレーターであるリン・チー・チョウ、アメリカのキュレーター、アライナ・クレア・フェルドマン、そしてルーマニア系韓国人キュレーターのアンカ・ミフレツ=キムの共同キュレーションによって企画された。

 「A Call of All Beings: See you tomorrow, same time, same place」は相互に連関する5つの章を通して展開される。1つ目の章は「How to draw a coastline?」だ。この展示室では、アーティストたちが時間の推移のなかで変化する自然や世界のかたちと向き合い、作品をつくり上げた。

「How to draw a coastline?」展示風景

 本章では、アメリカ人作家のジョーン・ジョナスによる竹紙の凧により構築された集合的なエコシステム《By a Thread in the Wind》(2024)や、戦後台湾を代表する作家、チェン・シンワンの牛皮を支持体に硬化させた布を配置し砂漠における生と死の概念を表現した《The Song of the Earth No.1》(1997)などを展示。

展示風景より、ジョーン・ジョナス《By a Thread in the Wind》(2024)
チェン・シンワン《The Song of the Earth No.1》(1997)

 また、インドネシア・ジョグジャカルタで設立されたペーパームーン・パペットシアターによる《KALI―Stream Of Memory》(2022)は、持続可能な素材を用いて制作された、大型の人形や高足構造によって構成されるインスタレーション。近代化が生態系のバランスをいかに攪乱してきたかを、神話的な人物や家々の構成によって語りかける。

展示風景より、ペーパームーン・パペットシアター《KALI―Stream Of Memory》(2022)

 次の章「Recalling Fables」では、アーカイブや民間伝承、神話を手がかりに、世界との関係を再想像する試みがなされている。この展示室でまず目につくのは、1階部分から続いているアドリアン・ティルソ《Post-Museum Evidences(the Drill)》のドリル状の作品だ。床から天井までを貫き、本作が上下に続いていることが強烈に印象づけられる。

展示風景より、アドリアン・ティルソ《Post-Museum Evidences(the Drill)》(2025)

 シュー・チアウェイは、オランダ植民地支配下にあったインドネシアにおけるゴム産業の搾取の歴史を主題とする、3チャンネルの映像インスタレーション《Rubber Balls》(2025)を制作。インドネシア産ゴムシートによって構成された3チャンネルの映像インスタレーションは、美術館コレクションに含まれるオリジナルのドキュメンタリー映像、オランダ人とインドネシア人の子供たちを描いたAI生成イメージ、そして高次元空間におけるAIの思考のあり方という3つの位相を映し出す。

展示風景より、シュー・チアウェイ《Rubber Balls》(2025)

 本展唯一の日本人作家である鈴木悠哉は札幌を拠点とするアーティスト。インスタレーション《In the Realm of Last Things》(2025)は、展示室の外の廊下で展開されており、本作は台北および台中での滞在中に収集された海洋ゴミや都市の廃材を使用して制作された。当地の海水を利用した独自のエコシステムを館内に構築。光をふんだんに取り込む館の建築と調和した空間をつくりあげた。

展示風景より、鈴木悠哉《In the Realm of Last Things》(2025)

 「The Troubling of Natural Histories」は、博物館学や自然史を支えてきた分類体系や知のシステムが揺さぶられ、再編される章だ。

「The Troubling of Natural Histories」の展示風景

 本章を象徴する作品は、ヨーゼフ・ボイスの《Bathtub》(1986)だろう。錆びついた浸透式の加熱装置がバスタブ状のオブジェに入っており、そこには無機的ながらも温もりの存在が認められる。太古の遺物と、現代の文明のなかでつねに忘れ去られているものを組み合わせ、そこに奇妙な類似を見せる、ボイスならではの考古的発想を楽しみたい。

展示風景より、ヨーゼフ・ボイス《Bathtub》(1986)

 「Folds and Flows」は、空間、時間、風景、アイデンティティ、記憶など、我々が生きる現在がいかに多層的かつ相互的に成り立っているかを考察する章だ。この展示室では、アドリアン・ティルソ《Post-Museum Evidences(the Drill)》(2025)のドリル状の作品の最終部分を見ることができる。その素材は木材やアルミなど、本館を建築した資材の物質性がより強調されたものとなっている。

展示風景より、左がアドリアン・ティルソ《Post-Museum Evidences(the Drill)》(2025)

 最後となる章が最上部の展示室で展開されている「When the World Begins to Speak」だ。ここでは傷ついた身体や引き裂かれた記憶、抑圧された感情、人間のコミュニケーションを超えた生命の声などを表現した作品が展示されている。

 脳性麻痺をもって生まれ、身体に対して不親切な建築構造と向き合ってきたムン・スンヒョン(文勝鉉)の《On Thin and Transparent Things》(2025)は、本館を舞台にした映像作品だ。作家自身を含む3人のパフォーマーが、美術館の展示室のなかで波や振動を体現する。残留する埃、解体後に残された足場、開放された展示空間のなかで展開していく身体の反響や変容が記録されている。

展示風景より、ムン・スンヒョン(文勝鉉)《On Thin and Transparent Things》(2025)

 チョン・インチェン(鄭尹真)とコー・チュンイオウ(高俊羅)によって設立されたアプローチング・シアターは、社会的な課題と呼応する演劇作品を制作している。2チャンネルのビデオと手紙などからなる《From Y to X》(2025)は、日本統治時代の台湾で、第二次世界大戦中に神風特攻隊の訓練が行われていた水湳飛行場の歴史に向き合った作品だ。台湾は、当時の空写真、現代の戦場イメージ、そして書き記された証言を織り交ぜながら、そこにあったであろう身体的経験を会場で体現させた。

展示風景より、アプローチング・シアター《From Y to X》(2025)

 建物の屋上には「屋上ガーデン」が設けられており、外に出ることができる。ここは図書館とのあいだを行き来できるハブとしても機能し、太陽光や風を感じながら広大な公園を見下ろすことができる憩いのスポットにもなっている。

屋上ガーデン

 最後に、台中緑美図を台中市立美術館とともに構成する、台中市立図書館についても紹介しておきたい。同図書館は約46万冊の本を所蔵し、さらに図書館内のデジタル資料や電子的な情報コンテンツにアクセスし体験できる専用スペース「デジタルハブ」も設けられている。美術の蔵書も豊富に取り揃えられており、美術館との相乗効果を高めているといえるだろう。

台中市立図書館
台中市立図書館のデジタルハブ

 台中市には同館のほかにも、台湾唯一の国立美術館である国立台湾美術館や、安藤忠雄の設計による亞洲現代美術館があり、さらにフランク・ゲーリーの設計による中国医薬大学美術館の開館も控えている。台湾における美術の中心地として存在感を増す台中市のランドマークとして、台中緑美図は大きな役割を果たすことになるだろう。

台中緑美図の外観 Image courtesy of Taichung Art Museum. © Iwan Baan