2025.11.15

国宝「源氏物語絵巻」、徳川美術館で10年ぶりに全点公開

名古屋にある徳川美術館が開館90周年を記念し、国宝「源氏物語絵巻」の全点一挙公開をスタートさせた。

展示風景より、国宝「源氏物語絵巻 柏木(三)」(徳川美術館蔵)
前へ
次へ

 愛知県名古屋市の徳川美術館が開館90周年を記念し、平安時代に描かれた現存最古の物語絵巻である国宝「源氏物語絵巻」を10年ぶりに全点一挙公開した。会期中展示替えなし。担当学芸員は吉川美穂(同館学芸部部長代理)。

会場風景

 「源氏物語絵巻」とは、紫式部が著した『源氏物語』を文章(詞書)と絵で表した五十四帖からなる巻物のこと。四代の天皇に渡る約70年の物語で、その登場人物は500人近くにのぼる。

 平安時代から現代まで、物語の人気とともに何度も絵画化され、様々な「源氏物語絵巻」がつくられてきた。なかでも本文・絵ともに現存最古にして最高傑作とされるのが、この徳川美術館と五島美術館(東京)が所蔵する国宝「源氏物語絵巻」だ。数ある源氏物語絵巻のなかで、国宝に指定されているのはこれらの作品だけとなる。

 現存する国宝「源氏物語絵巻」は、江戸時代に尾張徳川家と阿波蜂須賀家を経て伝わった。両家への伝来経路は不明だが、昭和に入り尾張徳川家の伝来品は徳川美術館、蜂須賀家の伝来品は五島美術館で所蔵されたという(それぞれを徳川本、五島本と呼ぶ)。そのほかに断簡として9点が現存するが、うち2点は所在不明で、これらは国宝には指定されていない。

展示風景より、国宝「源氏物語絵巻 柏木(二)」

 本展では、徳川美術館所蔵のものだけでなく、五島美術館、書芸文化院、そして個人のものを含む巻子装(かんすそう)、額装、断簡によって、10年ぶりに、国宝「源氏物語絵巻」が一挙に展覧。とくに徳川本は平成24年から令和元年にかけての修理によって額装から巻子装となっており、それらが一斉に公開されるのはこれが初めて。つまり、巻子装(徳川本)と額装(五島本)という異なる姿の国宝を同時に鑑賞できる機会となっている。

展示風景より、国宝「源氏物語絵巻 柏木(三)」(徳川美術館蔵)
展示風景より、国宝「源氏物語絵巻 鈴虫(一)」(五島美術館蔵)

 流麗な筆跡の詞書、屋根や天井がない吹抜屋台、鑑賞者が感情移入しやすいように引目鉤鼻で描かれた人物たちなどによって、見るものを魅了する国宝「源氏物語絵巻」。その姿をじっくり楽しんでほしい。

左から、「源氏物語絵巻 柏木(一) 詞書 断簡」「源氏物語絵巻 柏木(一) 常夏 断簡」「源氏物語絵巻 末摘花 詞書 断簡」(すべて書芸文化院「春敬記書道文庫」蔵)

 なお、本展では復元模写の数々も見どころだ。

 国宝「源氏物語絵巻」は、900年の時を経て、変色や褪色、絵具の剥落などが見られる。そうしたなかで、平安時代の本来の姿を甦らせるべく行われのが、平成復元模写事業だ。平成復元模写の国宝「源氏物語絵巻」は、科学技術分析と学術調査を踏まえ、現代の画家たちが緻密な作業を重ねて描いたもの。平安時代の人々が目にしたであろう鮮やかな姿に目を凝らしてほしい。

加藤純子筆「源氏物語絵巻 関屋」(復元模写、徳川美術館蔵)
林功筆「源氏物語絵巻 柏木(三)」(復元模写、徳川美術館蔵)
加藤純子筆「源氏物語絵巻 鈴虫(一)」(復元模写、五島美術館蔵)