2025.4.26

特別展「日本国宝展」(大阪市立美術館)開幕レポート。135件の国宝でたどる日本美術の系譜

2025年の大阪・関西万博の開催と大阪市立美術館のリニューアルを記念し、135件すべてが国宝からなる特別展「日本国宝展」が開幕した。日本美術の名品を一堂に集め、大阪で初となる大規模な国宝展をレポートする。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 大阪市立美術館にて、「大阪・関西万博開催記念 大阪市立美術館リニューアル記念特別展『日本国宝展』」が開幕した。会期は6月15日まで(一部展示替えあり)。

 本展は、2025年の大阪・関西万博の開催と、リニューアルオープンを迎えた同館の記念企画として実施されるものであり、展示作品135件すべてが国宝(参考出品を除く)という、きわめて貴重な大規模国宝展だ。

「日本美術の巨匠たち」の展示風景より

 展覧会は2部構成となっており、第1部「ニッポンの国宝―美の歴史をたどる」では、絵画・彫刻・工芸・書跡など、多様なジャンルと幅広い時代にわたる国宝を通して、日本美術の精華を体系的に紹介する。全6章構成で、冒頭の「日本美術の巨匠たち」では、雪舟岩佐又兵衛狩野永徳長谷川等伯ら、日本美術史を代表する巨匠たちの名品が一堂に会する。

 岩佐又兵衛による《洛中洛外図屏風(舟木本)》(東京国立博物館蔵、展示期間:4月26日~5月18日)は、祇園祭に沸く京の町を緻密に描いた大作で、2500人を超える市井の人々を生き生きと表現している。伊藤若冲の《動植綵絵 群鶏図》(皇居三の丸尚蔵館収蔵、同期間)では、13羽の鶏を描いた精緻な筆致と構成が強烈な印象を残す。

「日本美術の巨匠たち」の展示風景より、右の3点は伊藤若冲筆《動植綵絵のうち秋塘群雀図・群鶏図・芦雁図》(30幅のうち3幅、江戸時代/18世紀、国(皇居三の丸尚蔵館収蔵))
展示風景より、長谷川久蔵筆《桜図》(桃山時代/天正20年(1592)頃、京都・智積院)

 また、会期後半には、豊臣秀吉が毛利輝元に贈ったとされる狩野永徳筆《唐獅子図屏風》(皇居三の丸尚蔵館蔵、5月20日~6月15日)や、圧倒的な筆力を誇る雪舟の傑作《四季山水図巻(山水長巻)》(山口・毛利博物館蔵、5月27日~6月15日)といった傑作も登場する。

 続く第2章「いにしえ文化きらきらし」では、縄文から弥生時代にかけての日本古代の造形文化に焦点を当てる。弥生時代における日本と中国との関係を象徴する最小の国宝である《金印「漢委奴國王」》(福岡市博物館蔵、4月26日~5月7日)や、豊穣の女神像として知られ、完璧なかたちで現存する極めて希少な土偶である《土偶(縄文のビーナス)》(茅野市尖石縄文考古館保管、5月20日~6月8日)など、古代の精神性と美的感覚の原点を示す品々が展示されている。

「いにしえ文化きらきらし」の展示風景より、《金印「漢委奴國王」》(弥生時代/1世紀、福岡市博物館)
「いにしえ文化きらきらし」の展示風景より、左から深鉢形土器「火焔型土器」と「王冠型土器」(縄文時代中期/約5400~4500年前、新潟・十日町市(十日町市博物館保管))

 第3章「祈りのかたち」では、神仏習合の歴史に根ざした祈りの美を取り上げる。《孔雀明王像》(東京国立博物館蔵、4月26日~5月18日)は、平安後期の仏画の到達点を示すもので、華やかな彩色と截金技法が際立つ。さらに、日本最古にして最高傑作とされる肖像彫刻《鑑真和上坐像》(奈良・唐招提寺蔵、5月13日~25日)も特別に公開され、信仰の力と芸術の精髄を体感できる展示空間が広がる。

「祈りのかたち」の展示風景より、中央は《孔雀明王像》(平安時代/12世紀、東京国立博物館)
「祈りのかたち」(第3会場)の展示風景より、《普賢菩薩騎象像》(平安時代/12世紀、東京・大倉集古館)

 第4章「優雅なる日本の書」では、漢字文化を取り入れつつ発展した日本の書の世界を紹介。平安時代に隆盛を極めた「和様」の書や、優美な仮名文字による「高野切」など、書に宿る美意識を堪能できる構成である。第5章「和と漢」では、やまと絵による肖像画や、足利将軍家に仕えた絵師たちの水墨画、さらには中国から渡来した唐物の絵画などが並び、中世日本における書画文化の多様性と洗練を示している。

展示風景より
展示風景より

 第6章「サムライ・アート」では、刀剣や甲冑をはじめとする武士の美意識が凝縮された品々が紹介。とりわけ《黒韋威胴丸》(広島・嚴島神社蔵、4月26日~5月18日)は、南北朝時代以前の遺品として非常に希少な作例であり、日本の職人技と武士道精神の象徴とも言える。

「サムライ・アート」の展示風景より
「サムライ・アート」の展示風景より

 続く第2部「おおさかゆかりの国宝―大阪の歴史と文化」では、古代より東アジアとの交易の要衝であった大阪の文化的背景に着目する。聖徳太子ゆかりの四天王寺所蔵の《七星剣》《丙子椒林剣》や、道明寺の本尊《十一面観音立像》、道明寺天満宮蔵の《伝菅公遺品》(いずれも通期展示)など、大阪ゆかりの国宝を通じて、地域に根差した宗教・政治・文化の厚みを浮き彫りにしている。

「おおさかゆかりの国宝―大阪の歴史と文化」の展示風景より、右は《伝菅公遺品のうち高士弾琴鏡、牙笏、白磁円硯》(中国・唐時代/平安時代/9世紀、大阪・道明寺天満宮)
「おおさかゆかりの国宝―大阪の歴史と文化」の展示風景より、《薬師如来坐像》(平安時代/9世紀、大阪・獅子窟寺)

 また、特集展示「皇居三の丸尚蔵館収蔵品にみる万博の時代」では、1900年パリ万博や明治期の内国勧業博覧会に出品された品々が紹介され、万博というグローバルな舞台で日本美術が果たした役割に光を当てる。さらに、映像体験コーナーでは、長谷川等伯一門による《桜図》《楓図》(智積院蔵)をCGで復元。失われた襖絵を含む障壁画を実寸に近いスケールで体感できる仕掛けとなっている。

 本展は、大阪で初めて開催される大規模な国宝展であり、同市の歴史的・文化的資源の豊かさとともに、日本美術の魅力をあらためて広く伝える重要な機会となっている。展示替え情報などに注意しながら、会期中何度でも足を運びたくなる展覧会だ。

「祈りのかたち」(第3会場)の展示風景より、《聖観音菩薩立像》(白鳳時代/7世紀後半~8世紀初、奈良・薬師寺)
「祈りのかたち」(第3会場)の展示風景より、《四天王立像のうち持国天立像》(平安時代/12世紀、京都・浄瑠璃寺)