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2025.11.8

寺田倉庫が京都の芸術系4大学と連携。若手アーティストによる滞在制作・展示プロジェクト「Unis in Unison 2025: Kyoto Rising Artists Project」が始動

寺田倉庫株式会社は、京都市内の芸術系4大学と連携し、各大学出身の若手アーティストを対象とした滞在制作・展示プロジェクト「Unis in Unison 2025: Kyoto Rising Artists Project」を開催。京都駅から徒歩圏内にあるレンタルアトリエ「TERRADA ART STUDIO 京都」での制作の様子をレポートする。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

「TERRADA ART STUDIO 京都」内のオープンタイプのアトリエ
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 寺田倉庫株式会社は、京都市内の芸術系4大学と連携し、各大学出身の若手アーティストを対象とした滞在制作・展示プロジェクト「Unis in Unison 2025: Kyoto Rising Artists Project」を開催している。

 プロジェクトの会場となる「TERRADA ART STUDIO 京都」は、京都駅から徒歩圏内の京都市立芸術大学のキャンパス内にあるレンタルアトリエだ。施設内には、個室・オープンタイプの全31室の制作区画が備わっており、入居者は自身の制作スタイルに合わせて選ぶことができる。同じフロアには美術品保管庫とコミュニティスペースも併設されているため、入居アーティスト同士の交流のほかに、コレクターやアート関係者との出会いの機会創出を期待された空間づくりとなっている。

「TERRADA ART STUDIO 京都」が入っている京都市立芸術大学のキャンパス 外観
「TERRADA ART STUDIO 京都」とストレージ機能を持った「TERRADA ART STORAGE 京都」のフロア図

 そんな「TERRADA ART STUDIO 京都」で開催される本プロジェクトは、京都にある4つの芸術大学、京都芸術大学、京都市立芸術大学、京都精華大学、嵯峨美術大学・嵯峨美術短期大学出身のアーティスト19名が2期に分かれて、約3ヶ月間のアトリエ滞在で制作を行い、それぞれの成果をアトリエ内で展示公開するもの。アトリエを展示会場にすることで、来場者は完成された作品や展示だけでなく、制作過程におけるアーティストの試行錯誤も感じ取ることができる。

 若手アーティストの活動支援を継続して行ってきた寺田倉庫は、「制作環境の確保と発表機会の創出は、若手アーティストが活動を継続するうえで重要な課題」だととらえている。そこで京都という伝統が息づく土地で、つくり手を支援するための活動の一環として展開されたのが、本プロジェクトだ。参加アーティストは「TERRADA ART STUDIO 京都」にあるアトリエ(1人1区画)を無償で利用することができるのも、この課題感に対する取り組みのひとつである。

「TERRADA ART STUDIO 京都」内のオープンタイプのアトリエ
「TERRADA ART STUDIO 京都」内の個室タイプのアトリエ

 第1期の制作期間は8月25日〜11月6日、展示期間は11月7日〜16日。各大学からの推薦をもとに、大谷花、北村友海、竹田朋葉、橘葉月、西田彩乃、ニルセン・テア・ラーセン、松浦陽、的野哲子、山渕瑞穂の9名が参加している。京都市立芸術大学大学院美術研究科油画専攻を卒業した橘葉月は、大学院卒業後の作品発表機会を得るためという理由のほかに、他大学の同世代との交流を求めて本プロジェクトの参加を決めたという。在学中、他大学の学生との交流機会がほぼなかったことから、オープンな環境で他大学出身のアーティストとアトリエをシェアしながら制作するのは新鮮だという。

「TERRADA ART STUDIO 京都」内のオープンタイプのアトリエ。オープンな状態にしたり、布で仕切ったりなど、使い方は様々
アーティスト・橘葉月のアトリエ内の様子
アーティスト・橘葉月のアトリエ内の様子
アーティスト・橘葉月の制作風景

 本プロジェクトには、キュレーターやアドバイザーとの座談会も設けられており、作品だけでなく展示プランなどについても幅広く第3者に相談できる。実際、座談会をきっかけに当初想定していた展示内容を変更し、より自由に自身の表現に向き合えたという声もあがっている。

 嵯峨美術短期大学専攻科出身の竹田朋葉も、座談会でのアドバイスに価値を感じたひとりだ。卒業から本プログラムに参加するまでの半年ほど、フリーで制作を続けていた竹田は、制作過程で第3者からのアドバイスがもらえない状況に不安を感じていたという。卒業した途端ひとりで制作を続けていかなくてはいけないことへの不安感を払拭するためにも、アトリエでの交流機会を設ける意味はありそうだ。

アーティスト・竹田朋葉のアトリエ内の様子
アーティスト・竹田朋葉のアトリエ内の様子
アーティスト・竹田朋葉の制作風景

 「TERRADA ART STUDIO 京都」のシニアディレクターを務める阿食裕子は、こうしたアーティストたちの声から、大学を横断したアーティスト同士、キュレーター、アドバイザーとの交流に意義を感じるという。いっぽう、ストレージを利用するコレクターといったアートの受け手側との交流はまだ多くはないため、今後きっかけとなるような機会は増やしていくつもりだという。2026年度以降についても、本プロジェクトは継続して続けていく意向だ。

 阿食は今後の展開について語るなかで、京都というものづくりに取り組みやすい土地自体にポテンシャルを感じるからこそ、「TERRADA ART STUDIO 京都」という場所にこだわる必要もないという。それよりも、本プロジェクトが体現する「アーティストの制作現場や制作過程をシェアする行為によって交流を生み、アーティストの活動を支援する仕組み」自体を、広く展開していきたいという意向を示す。実際、現在の場所では設備的な側面による制作への制限があることからも、今後のプロジェクトの展開には、そうした広い視野でのアップデートが鍵となるに違いない。

 卒業したばかりの参加アーティストの声からも、若手アーティストが活動を続けていくうえで乗り越えるべき課題はいまだ多くあることがわかる。交流を通じながらその生の声を聞き、様々な角度から解決への糸口を探していくことは重要なことだと言えるだろう。京都という土地を舞台に、アーティストの活動支援に挑戦する本プロジェクトの、今後の展開に注目したい。