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2025.10.25

「天空のアトラス イタリア館の至宝」が大阪市立美術館で開幕。万博イタリア館から《ファルネーゼのアトラス》など展示

10月13日に閉幕した大阪・関西万博のイタリア館で、目玉のひとつとなっていた《ファルネーゼのアトラス》。同作を含む特別展が、大阪市立美術館で開幕を迎えた。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、《ファルネーゼのアトラス》(紀元150年頃)
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 数々の美術品を展示し、大きな話題を集めた大阪・関西万博のイタリア館。同館で目玉のひとつとなっていた《ファルネーゼのアトラス》(2世紀)を含む作品を展覧する特別展「天空のアトラス イタリア館の至宝」が、大阪市立美術館で始まった。

 本展は、今年7月頃にイタリア館側からオファーがあり、大阪市立美術館の特別展室の半分が空いていたことから実現したもの。目玉となるのは、展覧会名にもある《ファルネーゼのアトラス》(紀元150年頃)だ。

《ファルネーゼのアトラス》(紀元150年頃)

 同作は1546年頃にローマのカラカラ浴場跡で発見され、名門貴族のアレッサンドロ・ファルネーゼ枢機卿が収集。そのことから本作は《ファルネーゼのアトラス》と呼ばれるようになった。高さ約2メートル、重さ約2トンという大作であり、古代彫刻の最高傑作のひとつとされる。発掘時に残っていたのは天球と胴体、顔の一部のみであり、手足などは16世紀に補われたものだ。

 重い天球を抱える巨神アトラスが象られ、その天球には42の星座や黄道十二宮が精緻に刻まれている。通常はナポリ国立考古学博物館が所蔵しており、今回の万博においてアジア初公開となった。

 本展監修を務めた美術史家・宮下規久朗(神戸大学)は、同作について「天文学上も貴重な作品。アトラスの姿はその後の作品にも大きな影響を与えた。ほかに例のない貴重な彫刻」と評する。

 イタリア館のレガシーを引き継ぐのは「アトラス」だけではない。ラファエロの師・ピエトロ・ヴァンヌッチ(通称ペルジーノ、1450頃〜1523)による《正義の旗》(1496)も目玉のひとつだ。

展示風景より、ピエトロ・ヴァンヌッチ《正義の旗》(1496)

 《正義の旗》の画面は上下2段で構成されており、上部にはセラフィムと踊る天使たちに囲まれた聖母子が、下部には祈りを捧げる聖フランチェスコと聖ベルナルディーノ・ダ・シエナ、そして頭巾を被った信者を含む群衆が描かれている。ウンブリア国立美術館(ペルージャ)が所蔵する本作はもともと聖ベルナルディーノ信徒会が行列用の旗(ゴンファローネ)として依頼したものであり、そのため地域的なアイデンティティが強く込められている。

 加えて、アンブロジアーナ図書館が所蔵するレオナルド・ダ・ヴィンチの『アトランティコ手稿』(1478〜1518)は、イタリア館で展示されたものとは異なる紙葉が日本初公開される。デッサンと注釈で構成されたこの手稿は、精神、科学、芸術、工学に対するダ・ヴィンチのユニークな洞察が1119枚にわたって収められたもの。

展示風景より

 今回出品されているのは、第156紙葉 表《水を汲み上げ、ネジを切る装置》(1480〜82頃)と第1112紙葉 表《巻き上げ機と油圧ポンプ》(1478頃)の2点で、いずれも本展のために、水の都・大阪と関連性を持つものとして選ばれた。宮下はこれらの手稿について、「ともに実用化されたものと考えられる。レオナルドの軍事技師・土木技師としての実践や構想を物語るもの」と語る。

展示風景より、『アトランティコ手稿』のうち第156紙葉 表《水を汲み上げ、ネジを切る装置》(1480〜82頃)
展示風景より、『アトランティコ手稿』のうち第1112紙葉 表《巻き上げ機と油圧ポンプ》(1478頃)

 なお本展は日時指定予約優先制だが、すでに予約枠は完売。当日券の取り扱いなどは今後検討するという。