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2025.7.5

「絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ」(静嘉堂@丸の内)開幕レポート。本物を見て学ぼう、古典絵画のおもしろさ

東京・丸の内の静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で、古美術のなかの神仏や人の姿に注目する絵画の入門展「絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ」が開幕した。会期は9月23日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

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 東京・丸の内の静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で「絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ」が開幕した。会期は7月5日~9月23日まで。会場の様子をレポートする。担当は同館学芸員の藤田紗樹。

 本展は、知識がなければなかなか意味を理解することができない、古美術のなかの神仏や人の姿に注目する絵画の入門展。 「この人は誰?」「このポーズの意味は?」「何をしているところ?」など、神仏と人物が表されるときの約束事や背景にあるストーリーをやさしくひも解きながら、貴重なコレクションとともに紹介する展覧会となっている。

展示風景より、重要文化財 雪庵《羅漢図冊》(14世紀、元時代)

 会場は全3章構成で、各展示物にはイラストとともにわかりやすい解説が添えられており、またすべてを回ることでスタンプをもらえる「謎解きワークシート」も用意されるなど、夏休みの子供たちが鑑賞するにふさわしい展覧会が志向されている。

謎解きワークシート

 第1章「やまと絵と高貴な人の姿」では、天皇や貴族といった身分の高い人々を描くときに、どのようなルールがあったのかを紹介している。

 例えば、人物の顔を描くときの引目鉤鼻(目を細い線で、鼻はくの字で表す)は、貴族をはじめとした高貴な人を描くことに使われた。姫と貴族の青年が結ばれる『住吉物語』を絵巻にした《住吉物語絵巻》(16〜17世紀)でも、貴族たちの顔がみなこの様式で描かれていることがよくわかる。

展示風景より、《住吉物語絵巻》(16〜17世紀)

 天皇の表象も工夫がこらされていた。本来、天皇の姿は直接描かないことがルールではあり、平安時代の宮中の年中行事を描いた江戸時代の《大内図屛風》(18世紀)の後期展示(8月13日〜)の左隻では、竹の葉で顔が隠されており、このルールに則られていることがわかる。しかし、前期展示(〜8月11日)の右隻では、例外的に天皇の顔がはっきりと描かれている。これは建物の壁や屋根を省略し、室内の様子を描いた「吹抜屋台」だからだ。実際にあるものを省略するという、絵画表現におけるフィクションであるため、天皇の顔を描くことが許されていると考えられている。

展示風景より、《大内図屛風(右隻)》(18世紀)

 第2章「神さまと仏さまの姿」では、仏の姿や仏教の世界を描いた仏画や、日本の神々と仏との関連を示す垂迹画(すいじゃくが)、菅原道真や聖徳太子といった信仰の対象がどう描かれてきたのかをたどる。

 《当麻曼荼羅》(14世紀、鎌倉時代)は、阿弥陀如来の極楽浄土を表した曼荼羅だ。金色に光り輝く仏たちが、美しく、そして楽しげに描かれており、死後に浄土へと訪れることへの憧れが表れている。

展示風景より、右が《当麻曼荼羅》(14世紀、鎌倉時代)

 《聖徳太子絵伝》(14世紀、鎌倉時代)は、聖徳太子の功績を後世に伝えるためにその生涯を描いたものだ。年齢ごとに描かれた様々な場面の太子は、すべてオレンジ色の服で描かれており、どこに太子がいるのかが一目でわかるように工夫されている。

展示風景より、左が重要文化財《聖徳太子絵伝》(14世紀、鎌倉時代)

 第3章「道釈画と故事人物画」は、道教や仏教に関連する仙人、羅漢、観音を描いた道釈画と、中国や日本で親しまれてきた故事を題材にした画を紹介している。

 著名な禅僧を描いた禅機図としては、国宝の、因陀羅筆・楚石梵琦題詩の《禅機図断簡 智常禅師図》(14世紀、元時代)に注目したい。唐代の高僧・帰宗智常に張水部が教えを請うという場面を描いたもので、指をさしながら不敵な笑みを浮かべる智常の表情に、超越性が表れている。また、竹や石の壁に多くの詩を書いたという寒山を描いた重要文化財の虎巌浄状賛《寒山図》(13〜14世紀、元時代)も、そのぼさぼさの髪の毛などから世俗を離れた高僧の姿が見て取れる。

展示風景より、左から重要文化財 虎巌浄状賛《寒山図》(13〜14世紀、元時代)、国宝 因陀羅筆・楚石梵琦題詩《禅機図断簡 智常禅師図》(14世紀、元時代)

 狩野常信の《琴棋書画図屛風》(17〜18世紀、江戸時代)は、中国の賢人たちを描いた屛風だ。琴棋書画とは中国の知識人たちが身につけるべきとされた琴、囲碁、書、画のことで、本作ではこれらの教養を楽しむ人々の姿が、理想的なかたちで描かれている。

展示風景より、狩野常信《琴棋書画図屛風》(17〜18世紀、江戸時代)

 本展は静嘉堂文庫のコレクションにありながらも、これまであまり展示されてこなかった銘品を改めて見つめ直すことも企図されたものだという。親子や友人と訪れて、神仏や人物を描いた古美術の魅力にぜひ触れてみてはいかがだろうか。