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2025.6.21

「日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!」(大阪中之島美術館)開幕レポート。知られざる日本の美とその奥行きに触れる

大阪中之島美術館で日本美術における「知られざる鉱脈」を発掘し、従来の評価序列に風穴を開けようとする展覧会「日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!」がスタートした。会期は8月31日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、左から伊藤若冲《竹鶏図屏風》(寛政2年以前)、円山応挙《梅鯉図屏風》(天明7年)
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 大阪中之島美術館で、「日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!」がスタートした。会期は8月31日まで。担当学芸員は林野雅人(大阪中之島美術館 主任学芸員)、監修は山下裕二(明治学院大学教授)。

 日本美術には、いまだ世に知られていない作者・作品が数多く埋もれている。例えば、美術ファンの多くがその名を知っているであろう伊藤若冲は、2000年に京都国立博物館で開催された展覧会をきっかけに空前の若冲ブームが巻き起こったものの、それ以前は一般的には「知られざる鉱脈」であった。

 本展は、いまなお眠る日本美術の鉱脈を掘り起こし、鑑賞者自身が「未来の国宝」を発見していく機会を創出する野心的な取り組みとなっている。出展作品は重要文化財7点を含む合計81点。作品替えを行いながら、4期にわたって展示される。

展示風景より

 会場は全7章立ての構成。まず第1章では、先述した若冲や曾我蕭白長沢芦雪といった「奇想の画家」として知られる画家たちを取り上げる。本展のタイトルにもあるように、21世紀に入るまでは「知られざる鉱脈」であったその作品を紹介することで、展覧会の主旨を示すものとなっている。

展示風景より、伊藤若冲《乗興舟》(1767)
展示風景より、伝岩佐又兵衛《妖怪退治図屏風》(江戸時代17世紀)

 また、今回とくに注目されるのは、若冲と円山応挙が初めて合作したとされる新発見の屏風だ。それぞれが一隻ずつ手がけたとされる二曲一隻の屏風であり、同じ京都画壇のツートップとして活躍しつつも、これまで接点がなかったとされる若冲と応挙の交流を決定づける資料としても重要な作品となった。

展示風景より、左から伊藤若冲《竹鶏図屏風》(寛政2年以前)、円山応挙《梅鯉図屏風》(天明7年)

 ほかにも、現存するモノクロ写真からデジタル推定復元された伊藤若冲の《釈迦十六羅漢図屏風》(制作=TOPPAN株式会社)もここで展示されている。特殊な印刷技術によって再現された絵の具の盛り上がりなど、細やかな部分にも目を凝らして鑑賞してみてほしい。

展示風景より、伊藤若冲《釈迦十六羅漢図屏風》デジタル推定復元 制作=TOPPAN株式会社

 続く第2章には、室町時代に描かれた水墨画の傑作が並ぶ。臨済宗の画僧・明兆の弟子であり朝鮮に渡ったものの、その正体は謎に包まれている画僧・霊彩や、同じく伝記や出生が不明な謎の絵師・式部輝忠による作品を紹介。繊細さと大胆さを兼ね備えながら、見事なバランスで描き出されるその世界観に圧倒される。

展示風景より、霊彩《寒山図》(室町時代15世紀) 重要文化財 (展示期間:〜7月6日)
展示風景より

 第3章では、そのかわいらしさからも人気が高い「素朴絵」の数々を紹介している。例えば、白隠慧鶴(はくいん・えかく)は江戸時代の禅僧であり、独学で書画を学びながら生涯に1万点以上の作品を残したという。誰かに師事するという王道を歩まなかったからこそのオリジナリティに富んだ表現は、いまなお我々の心を掴んで離さない魅力がある。

展示風景より
展示風景より、《かるかや》(室町時代16世紀)

 第4章では、明治から大正にかけて描かれた「歴史画」をフィーチャーしている。明治時代、政府は日本に西洋画の技法を取り入れるために各国から要人を招き入れ、国内の美術は急速に西洋化へと向かった。この国策は、江戸時代までは浮世絵版画が流行していたことを考えると大きな変革であるように思われる。

 ここでは、日本の古代神話を重厚な油画で描いた原田直次郎や高橋由一、いっぽうで旧約聖書における物語を日本画で表現した落合朗風らの作品を紹介(落合朗風《エバ》は7月8日より展示)。この歴史画というジャンルに見られた時代特有のねじれにも着目してほしい。

展示風景より、左から原田直次郎《素戔嗚尊八岐大蛇退治画稿》(1895頃)、高橋由一《日本武尊》

 第5章では打って変わって「茶の空間」について思考を巡らせる。千利休が長次郎に依頼し焼かせたという黒楽茶碗「俊寛」(重要文化財)には、利休の侘びの思想が色濃く反映されており、ふたりが目指したコンセプチュアルアートとしての「茶の湯の世界」がひとつの茶碗を通じて表現されていると言える。さらに、この利休らの取り組みへの応答として、現代美術作家である加藤智大と山口晃による「もっとも重い茶室」と「もっとも軽い茶室」も、あわせて展示されている。

展示風景より、長次郎《黒楽茶碗 銘 俊寛》(桃山時代16世紀)
展示風景より、加藤智大《鉄茶室徹亭》(2013)
展示風景より、山口晃《携行折畳式喫 茶室》(2002)

 第6章では、狩野一信や牧島如鳩(まきしま・にょきゅう)といった、一度見たら忘れられないユニークな作品を選りすぐって展示。とくに山下が「もっとも重要な鉱脈のひとつ」であると語るのは牧島如鳩による《魚藍観音像》(1952)だ。イワシの豊漁を願って描かれたこの作品は元々福島の小名浜漁港に飾られていたが、2010年の漁業組合の解散に伴い、足利市立美術館へ所蔵されることとなったという。仏教とキリスト教といった異なるモチーフが画面上で渾然一体となっている点も鑑賞者に強烈なインパクトを与えている。

展示風景より、狩野一信《五百羅漢図 第二十一幅 六道・地獄》(1854-63)、《五百羅漢図 第二十二幅 六道・地獄》(1854-63)
展示風景より、牧島如鳩《魚藍観音像》(1952)
展示風景より、初代宮川香山《褐釉蟹貼付台付鉢》(1881)

 最終章では、縄文土器をはじめとする「縄文の造形」にフォーカスし、表現の原点に立ち返る。重要文化財である《深鉢型土器》を中央に据えながら、縄文の造形からインスピレーションを受けた現代作家として岡﨑龍之祐によるドレスや、西尾康之の巨大な彫刻作品など本展のための新作もあわせて展示。このユニークなコラボレーションでは、太古から現代にかけてつながりを見せる表現の在り方を目の当たりにすることができるだろう。

展示風景より
展示風景より、岡﨑龍之祐《JOMONJOMON ―Emotion Beat》(2025)
展示風景より、西尾康之《アルファ・オメガ》(2025)

 今回の展示作品は、国から指定を受けた作品はごく僅か。ぜひ「なぜこの作品が“未来の国宝”として選ばれたのか」といった視点でも鑑賞してみてほしい。「そもそも国宝に選ばれる基準とは何か」「自分だったらこの作品を国宝にしたい」などといった発想も、既存の概念を問い直す良い機会となるはずだ。

 なお、作品によって展示される期間が異なるものもあるため、足を運ぶ際には事前に公式ウェブサイトをチェックすることをおすすめしたい。