2026.9.4

「フリーズ・ソウル2026」開幕レポート。間口を広げ、マーケットの底上げを目指す

ソウルのCOEXで、フリーズ・ソウル2026が9月2日に開幕した。会期は9月5日まで。5回目の開催となる本フェアには、30ヶ国から125以上のギャラリーが参加した。会場の初日の様子をレポートする。

文・撮影=安原真広(編集部)

ハウザー&ワースのブース、左奥壁面がリー・ロザーノ《Cram》(1965)、右壁面がラシッド・ジョンソン《Soul Painting “Interiors”》(2025)
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 フリーズ・ソウル2026が、Kiaf SEOUL(キアフ・ソウル)とのパートナーシップのもと、江南(カンナム)のCOEXで9月2日、開幕した。会期は9月5日まで。5回目の開催となる本フェアには、30ヶ国から125以上のギャラリーが集結。70パーセント超がアジア太平洋地域を拠点とし、50以上の出展者がソウル市内に常設スペースを構えている。

 アート・バーゼルとUBSが発表した「Art Market Report 2026」によれば、2024年に前年比15パーセント縮小した韓国のアート市場規模は、25年には前年比6パーセント増の成長を記録。復調の兆しを見せているものの、本フェアが始まった22年当時の勢いにはまだ及ばないのが現状だ。

フリーズ・ソウル2026の会場にて、「FRIEZE SEOUL ARTIST AWARD」を受賞したアーティスト・コレクティブ、ヤグァン(夜光)の《Facade Zone》(2026)

 とはいえ、ガゴシアン(Gagosian)、ハウザー&ワース(Hauser & Wirth)、ペース(Pace)、ホワイト・キューブ(White Cube)、デヴィッド・ツヴィルナー(David Zwirner)といったメガギャラリーの参加は引き続いており、フェアと韓国のマーケットへの期待値を感じさせるものだ。

メガギャラリーの動き

 ガゴシアンはダミアン・ハーストを中心にブースを構成。6月28日まで韓国国立現代美術館(MMCA)で開催されていたハーストの大規模個展「Damien Hirst: Nothing Is True But Everything Is Possible」は、動員50万人以上を記録しており、その出展作品も展示されていた。担当者は詳細の明言は控えたものの、これらの作品は初日にすでにアジアの主要な美術館に購入されたという。

ハウザー&ワースのブースより、左からジェニー・ホルツァー《PROFORMA》(2024)、《At the》(2025)、《Whisper》(2026)

 ハウザー&ワースは、ルイーズ・ブルジョワ、ローナ・シンプソン、ジェニー・ホルツァー、ジェフリー・ギブソン、アンヘル・オテロらの作品を、18万〜60万ドルの幅広い価格帯で出品。アジア各地から大きな関心が寄せられていることを明らかにした。グラッドストーンは、アニカ・イの海藻を使用したランプを12万5000ドル、同アーティストのレンチキュラープリントを4万ドルで売却。ウーゴ・ロンディノーネの彫刻複数点をそれぞれ11万ドル、絵画をそれぞれ7万ドルで売却している。

ペースのブース、左壁面が奈良美智、右壁面が岡﨑乾二郎の作品

 ホワイト・キューブは単色画(ダンセッファ)の代表的作家、パク・ソボ(朴棲甫)の主要なミクストメディア作品2点《Ecriture No.221121》を30万ドル、《Ecriture No. 070909》を19万ドルで売却。ペースはイ・ウーファン(李禹煥 、1936〜)の「風」シリーズの初期作品《風と共に》(1987)や、アニカ・イの新作絵画《HLKR£Kþ§†MLJ》(2026)を初日に販売。また、岡﨑乾二郎の絵画も8万5000ドルで販売されたという。

ヒョンデ・ギャラリーのブース、キム・チャンヨル《Recurrence SNM93016》(1991)
ジョヒュン・ギャラリーのブース、リー・ベーの平面と立体の作品

 韓国のギャラリーは、国内作家を海外のコレクターに向けて積極的に紹介していた。ヒョンデ・ギャラリーはキム・チャンヨルとイ・スンテクの2人の作品を出展しており、複数点を販売。クッチェ・ギャラリーは、ハ・チョンヒョンのミクストメディア《Post-Conjunction 21-512》(2021)を25万3000ドル~30万3600ドルで、パク・ソボの陶製にアクリルで描いた作品《Ecriture No. 220611》(2022)を25万ドル~30万ドルで販売したという。また、プサンを拠点とするジョヒュン・ギャラリーは、木炭やカーボンを素材とする黒い立体作品を制作するリー・ベー(李培、1956〜)をインスタレーション形式で紹介し、注目を集めていた。

日本のギャラリーの動向

 日本からもScai The Bathhouse、タカ・イシイギャラリー、東京画廊+BTAPをはじめ、多数のギャラリーが参加した。

KOSAKU KANECHIKAのブース、右壁面の上が平松典己《Sound of Waves》(2025)、下が武田龍《swarm / wattle》(2026)

 これまでのフリーズ・ソウルでは桑田卓郎や舘鼻則孝といった象徴的な作品を紹介してきたKOSAKU KANECHIKA。今回は平松典己(1987〜)と武田龍(1986〜)の平面作品を二人展形式で紹介。新たな作家とコレクターとの出会いを創出しようという意気込みが感じられた。

オオタファインアーツのブースの人だかり。草間彌生のアクリル作品1点と、シルクスクリーンやエッチングによるエディション作品が8点を展示

 オオタファインアーツのブースでは、去る8月14日に97歳で世を去った草間彌生のアクリル作品1点と、シルクスクリーンやエッチングによるエディション作品が8点を出展。写真を撮ろうとする人々の人だかりができていた。ギャラリーの担当者によれば、出展作品が決まった後の訃報だったとのことだが、会場での追悼の場となっていた。

夢工房のブース、四代田辺竹雲斎を個展形式で紹介

 京都を拠点とする夢工房は、フリーズがソウル市内に開設したアートスペース「フリーズ・ハウス・ソウル」で個展「INVISIBLE FOREST」(〜9月17日)を開催中の四代田辺竹雲斎(1973〜)を個展形式で紹介。竹工芸という文脈に依らず、純粋なその造形性に惹かれた海外のコレクターからの問い合わせが多いと担当者は語った。

4年目を迎えた「Focus」

 4年目を迎える「Focus」は、キュレーターのイ・ソルヒをアドバイザーに迎え、2014年以降に設立された16の新進ギャラリーを、世界各国から集結させた。各ギャラリーは単一のアーティストの作品を提示しており、それぞれの作家性と集中して向き合うことができるブースが並ぶ。

「Focus」のCON_のブース、キム・ミンヒの作品

 本企画で日本から唯一参加したのは、馬喰町に拠点を置くギャラリー・CON_だ。K-POP、アニメ、インターネットカルチャーにおける女性像を、油彩とアクリルを交えながら平面に表す韓国のアーティスト、キム・ミンヒ(1991〜)を紹介。

「Focus」のイェフディ・ホランダー・パッピのブース、ガブリエル・マッサンの作品

 サンパウロのイェフディ・ホランダー・パッピ(Yehudi Hollander-Pappi)は、黒人としてのアイデンティティ、植民地主義の記憶、クィア文化といった要素を「イマジナリーな生態系(Virtual Ecosystems)」として構築するガブリエル・マッサン(1996〜)の、インタラクティブなインスタレーションを出展。

「Focus」のN/Aのブース、キム・ムヨンの索引

 ソウルのオルタナティブ・スペース、N/Aはキム・ムヨン(1996〜)の作品を紹介していた。演劇の構造を引用しつつ、植民地支配や再教育などを行う学校という制度、あるいは傷病の患者を隔離する病院制度といった歴史の再確認を呼びかける。

「Focus」のホイッスルのブース、dpgp78の作品

 同じくソウルのオルタナティブ・スペースであるホイッスルは、ム・ジファン(1996〜)とミン・ソンシク(1991〜)によるアーティスト・デュオ、dpgp78をプレゼンテーション。ドローイング、発泡スチロールを用いた立体、マーカーやエアブラシ、ZINEの制作など、多様な媒体を用いて制作をしており、本フェアでも発泡スチロールを支持体としたドローイングシリーズが展示されていた。

マーケットの裾野を広げるための試み

 今年からの試みとして、20世紀を中心に活躍したアーティストを、個展形式でプレゼンテーションする「Spotlight」も開催されている。LINE文化財団のディレクターを務めるコ・ウンソクのキュレーションのもと、西洋中心の美術史観とは異なる作家をマーケットに紹介しようという試みだ。

「Spotlight」のYOD Galleryのブース、関根伸夫の作品
「Spotlight」のBaik Art Galleryのブース、ハン・ヨンスの作品

 大阪を拠点とするYOD Galleryは、「もの派」の源流をかたちづくったひとりである関根伸夫を出展。また、ソウルのBaik Art Galleryは、韓国初のリアリズム写真団体「新線会」のメンバーとして経済成長期の韓国の都市と人々を写したハン・ヨンス(韓栄洙)を紹介していた。

「Spotlight」のギャラリーマックのブース、キム・ジョンミョンの作品

 釜山のギャラリーマックは、50年以上にわたり、現代美術の分野で活動してきた美術家、キム・ジョンミョン(金正明、1945〜)を出展。本展では西洋美術史の巨匠たちのイメージや肖像と自らの色彩・絵の具の物質性を融合させた「彫刻的絵画(Sculptural Painting)」がインスタレーションとして展開された。

「Material Practice」のアルムジギ財団のブース

 「Material Practice」も新たに設けられたセクションだ。韓国工芸デザイン文化振興院の事務局長を務めていたチョ・ヘヨンのキュレーションにより、美術と工芸が交差する領域にある作品を紹介していた。例えば、韓国の伝統文化を現代の生活様式に合わせて継承することを目的としたアルムジギ財団のブースは、邸宅内の部屋を思わせる什器が用意され、実際の生活のなかで出展作品を使用するイメージを喚起させていた。

「Material Practice」のArt Space 3のブース

 「Spotlight」と「Material Practice」に、多くの人が集まっていたことも印象的だった。前者は美術史において確実に評価されていくであろう作家との出会いを、後者は生活のなかで表現されたものを愛用するイメージを喚起させる企画と言えるだろう。アートフェアで作品を購入するという体験の入り口づくりを、フリーズ・ソウルが強く意識していることがうかがえた。

 5年目の開催となり、ソウルのアートウィークを象徴するイベントして定着したフリーズ・ソウル。市場の動向を見つめながらも、マーケットの底上げをするために間口を広げることを決して怠らないようにしようという、明確な方向性を感じるフェアとなっていた。