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2026.8.31

なぜ東博はいま、レストランを刷新するのか? 「鑑賞の余韻」を食で味わう新空間を訪ねて

東京国立博物館の飲食施設が大きく生まれ変わる。8月28日に「THE RESTAURANT 東京国立博物館」と「ガーデンカフェ」がオープンし、9月30日には法隆寺宝物館に「鮨会席 おく乃」も誕生予定だ。展示を見るだけではない、新たな「博物館での過ごし方」を探るべく、その空間を訪ねた。

文・撮影:橋爪勇介(編集部)

「THE RESTAURANT 東京国立博物館」の内部
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 東京・上野の東京国立博物館。その広大な敷地には、本館や表慶館、東洋館、平成館、法隆寺宝物館など、それぞれ異なる時代の建築が点在している。ここに、新たな「食」の場が加わる。東京国立博物館では、館内にあった3つの飲食施設を刷新。8月28日には東洋館別棟1階の「THE RESTAURANT 東京国立博物館」と、その向かいに位置する「ガーデンカフェ」が営業を開始する。さらに9月30日には、法隆寺宝物館1階に「鮨会席 おく乃」が開業する予定だ。3店舗はいずれもオークス株式会社が運営し、空間デザイナー・料理研究家で東京国立博物館アンバサダーの行正り香が監修に携わった。

 今回のリニューアルで興味深いのは、飲食施設がただ休憩や食事のための付帯施設ではなく、展示鑑賞を含めた博物館体験そのものの一部として位置づけられている点だ。

「鑑賞の余韻」を受け止めるレストラン

 今回、報道陣に公開されたのが、東洋館別棟1階に位置する「THE RESTAURANT 東京国立博物館」だ。東洋館は、1968年に開館した谷口吉郎設計の建築。中国、朝鮮半島、東南アジア、インド、エジプトなどアジア各地の美術・工芸・考古遺物を展示するこの建物に隣接するかたちで、レストランが設けられている。

「THE RESTAURANT 東京国立博物館」が入る東洋館

 新しいレストランが掲げるコンセプトは、「観覧の余韻を感じる場所」。空間はグレーを基調とし、過度に装飾するのではなく、抑制の効いたミニマルな雰囲気でまとめられている。展示室から出たあと、次の予定へとすぐ移動するのではなく、いったん腰を落ち着け、見てきたものを思い返す。そんな時間を受け止める場として設計されていることがうかがえる。

「THE RESTAURANT 東京国立博物館」のエントランス部分

 座席は店内94席、テラス44席。東京国立博物館という場所柄、ひとりで展覧会を見に来た来館者から、家族連れ、海外からの観光客まで幅広い利用者を想定した規模だ。金曜・土曜などの夜間開館日には20時まで営業する。

 メニューにも、「東京国立博物館で食べる」という体験を意識したものが並ぶ。代表的なのが「東博御膳」(3800円)。このほか「東博カツサンド」(1500円)や「薬味冷やしうどん」(1500円)など、しっかりとした食事から比較的軽めのメニューまで用意されているのが嬉しい。

代表メニューである「東博御膳」
ボリューム感のある「東博カツサンド」

 重要なのは、料理の豪華さだけではないだろう。美術館や博物館では、作品を見る行為そのものに注目が集まりがちだ。しかし実際の鑑賞体験には、展示室に入るまでの移動や、鑑賞後に誰かと感想を話す時間、あるいはひとりで作品について考える時間までが含まれている。「観覧の余韻」という言葉は、そうした展示室の「外側」にある時間にも、博物館が意識的に目を向けようとしていることを示しているように思える。

建築のあいだで過ごす「ガーデンカフェ」

 レストランの前に広がるのが、同日オープンする「ガーデンカフェ」だ。こちらはテラス席とテイクアウトを中心とした、よりカジュアルな位置づけ。公式には「光や風、人々の気配が緩やかに交差するカフェ」とされており、トリュフ風味のフライドポテトやソフトクリームなどの軽食に加え、スパークリングワインなども提供される。

「ガーデンカフェ」の売店

 東京国立博物館の魅力のひとつは、ひとつの巨大な建物のなかですべてが完結するのではなく、展示館から展示館へと屋外を歩きながら巡ることにある。本館から東洋館へ、あるいは法隆寺宝物館へ。建物の外に出るたびに視界が開け、上野公園の緑や建築の外観が目に入る。

 そう考えると、この屋外のカフェはたんなる休憩所というより、異なる展示館をつなぐ「間」のような役割を担うことになるのかもしれない。

東博の緑を眺めながらゆったりと過ごすことができる

法隆寺宝物館で「鮨会席」 

 今回のリニューアルでもっとも意外性があるのが、9月30日に法隆寺宝物館1階で開業予定の「鮨会席 おく乃」だ。

 法隆寺宝物館は、法隆寺から皇室に献納された宝物を保存・展示する施設として1964年に開館した。その後、保存機能をさらに高めるとともに、作品を広く一般公開することを目的として、1999年に谷口吉生設計による新宝物館が開館した。大きなガラス面、水盤、細い柱と水平線によって構成される建築は、東京国立博物館の現代建築のなかでもとりわけ評価が高く、日本建築学会賞も受賞している。

 その一角につくられる「おく乃」は、「博物館の奥に佇む上質な和空間。匠の寿司と旬の食」がコンセプト。産地直送の食材や旬の味覚による会席料理と、職人が握る寿司が組み合わされる。カウンター8席と8席の個室1室という小規模なつくりで、昼営業に加え、予約制の夜の部も設けられる予定だ。

 ここで注目したいのは、「夜の東京国立博物館」という体験が生まれることだ。法隆寺宝物館は、日中には水盤が周囲の光や緑を映し込み、展示室へ向かうまでのアプローチそのものが印象的な建築である。その空間が夜にはどのような表情を見せるのか。展示を見る場所としてだけでなく、食事のためにこの建築を訪れるという、新しい使われ方も生まれることになる。

東博がレストランのリニューアルを必要とする理由

 東博はなぜこれほど思い切った食空間の刷新を必要としたのか。その構想の裏側と今後の展望について、今回の3店舗のリニューアルを主導した、同館総務部付部長兼総務課長の尾野浩康に話を聞いた。

──「東京国立博物館2038ビジョン」(本館竣工100周年を迎える2038年を見据え、「日本と世界をつなげる博物館」「みんなが来たくなる博物館」などの将来像を掲げるこの構想)の一環として今回のリニューアルが行われたと伺いました。背景にはどのような課題があったのでしょうか。

尾野 以前のレストランも長くお客様には受け入れられていましたが、内装や雰囲気に古さもありました。多様化する来館者のニーズや博物館に期待される役割の変化を踏まえると、これからは世界の人々にも喜んでもらい、認知・評価される博物館を目指す必要があります。ひいては、ビジョンを実現させるために思い切った刷新を行いました。

──法隆寺宝物館の「鮨会席 おく乃」はこれまでの国立博物館のレストランのイメージを覆す高級路線です。この狙いはどこにあるのでしょうか。

尾野 非常にチャレンジングな取り組みですが、日本の歴史や文化を「五感」を使って体験していただける場にしたいという思いがあります。海外からのお客様を含め、ただ「文化財を見る場所」というだけでなく、日本の食文化を通じて日本を知る一端を味わっていただき、優雅な時間を過ごせるラグジュアリーな空間を提供したいとも考えました。食事をしに行く場所にとどまらず、博物館全体を味わっていただくための施設にしたいと思っています。

──レストランが「付属物」ではなく、鑑賞体験と強く結びついているのですね。

尾野 そうですね。例えば、江戸時代の展示に合わせて江戸時代風の食べ物を特別に出してみて、昔のイメージを膨らませてもらうなど、何かしらの「驚き」をこの場で体験していただきたいですね。

──ミュージアムをこれから先も持続させていくための、重要な接点になりそうです。

尾野 小さなお子様から若い世代の方々に、どのようにミュージアムに親しんでいただけるかが重要です。若い世代に気軽に来ていただかないと、結果的に博物館は廃れてしまい、文化財を守れなくなってしまいます。「カフェの雰囲気が良さそうだから」と、散歩やデートの目的で寄っていただくだけでもいいので、まずは東博を認識し、少しでも我々に触れていただきたいですね。館内に入ったときに「外とは何か違うぞ」という空気感を演出し、展示室だけでなく館全体の環境整備を行うことで、皆さんがより来やすい場所になっていくと考えています。