2026.9.3

「Kiaf SEOUL 2026」開幕レポート。韓国現代美術の魅力を広く伝えるために

「韓国国際アートフェア」(Korea International Art Fair SEOUL、通称「Kiaf SEOUL」)が、今年も開幕した。会期は9月6日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=安原真広(編集部)

「Kiaf SEOUL 2026」の会場エントランス
前へ
次へ

 韓国を代表するアートフェア「韓国国際アートフェア」(Korea International Art Fair SEOUL、通称「Kiaf SEOUL」)が、9月3日に開幕した。会期は9月6日まで。会場の様子をレポートする。

 Kiafの会場となっているのは「フリーズ・ソウル2026」と同じソウルの大型展示場・COEX。1階がKiaf、3階がフリーズの会場となる。今年も例年と同規模の世界18の国と地域から175のギャラリーが集結。20のギャラリーが初参加となった。

サンギャラリーのイ・チェヨンの作品。工場や倉庫といった工業化の痕跡が残る場所を描く風景画家。今回のKiafは静的な風景画も目立った

 日本からはギャラリー椿(東京)、Hide Gallery(東京)、KAZE ART PLANNING(大阪)、SH GALLERY(東京)、Whitestone Gallery(東京ほか)、蔦屋書店(東京)に、初参加のEmpathy Gallery(東京)と水犀(東京)を加えた8ギャラリーが参加しており、昨年と同数となっている。

韓国の現代美術の資産を見せる

 今回のフェアの傾向として印象に残ったのが、パク・ソボ(朴栖甫)をはじめとする単色画(ダンセッファ)の作家や、メディア・アートの第一人者、ナムジュン・パイク(1932〜2006)といった、韓国の現代美術としてすでに市場から高い評価を得ている作家を推し出すギャラリーが目立ったことだ。

ナムジュン・パイク《My Faust: Arts》(1989-91)、ギャラリー・ヒョンデのブースにて
クッチェ・ギャラリーのブース、ジャン=ミシェル・オトニエを個展形式で紹介

 1970年代に創設され、韓国の現代美術を長年にわたって支えてきたギャラリー・ヒョンデは、ナムジュン・パイクの作品を多数出展。23年にはライアン・ガンダーによる実物のポルシェのEVを用いた作品で話題を集めた同ギャラリー。24年、25年は単色画とその系譜に連なるアーティストを中心に紹介しており、今回もパイクのマスターピースを出展することで、韓国美術史の系譜を前面に押し出した。なお、ギャラリー・ヒョンデはフリーズにも同時出店している。こちらでは韓国の現代美術として高い評価を得てきたキム・チャンヨル(1929〜2021)とイ・スンテク(1932〜)を展示しており、ギャラリーの姿勢を印象づけた。なお、ギャラリーヒュンダイと並んで韓国を代表する現代美術ギャラリーであるクッチェ・ギャラリーは、フランスのアーティスト、ジャン=ミシェル・オトニエル(1964〜)を個展形式で紹介していた。

ウェルサイドギャラリーのブース、ソン・サンギ《工業都市―蘭芝島─盛夏》(1985)
パク・ウンソンの石彫作品、ガナアートのブースにて

 ウェルサイドギャラリーはイ・ウーファン(李禹煥)(1936〜)の「Wind」シリーズや、朴栖甫の単色画を出展し、韓国出身の著名な作家を揃えたが、なかでも異彩を放っていたのはソン・サンギ(1949〜88)の幅3メートルの風景画《工業都市―蘭芝島─盛夏》(1985)だ。単色画の作家に続くかたちで、70〜80年代の韓国美術における重要作家として評価されるソン。描かれているのは70〜90年代にかけて、ゴミの埋立地だったソウルの漢江の中洲にある蘭芝島(ナンジド)のバラックだ。ゴミ拾いで生計を立てていた人々の住む家を慈しみを込めて描かれており、多くの人が足を止めて作品を見つめていた。また、ガナアートは、イタリア・ピエトラサンタを拠点に世界的な評価を得ているパク・ウンソン(1965〜)の大理石彫刻を出展し、注目を集めていた。

韓国美術のレガシーの発展的展開

 上述したように、韓国現代美術の伝統に目を向けつつも、それを発展的に昇華しようと試みる作家を紹介するギャラリーも多かった。

GALLERY YEHのブースにて、チャン・スンテクの作品
チ・グヌク「Space Engine」シリーズ(ともに2026)、ハッコジェ・ギャラリーのブースにて

 GALLERY YEHのチャン・スンテク(1959〜)は「ポスト単色画」といえる絵画を制作する画家で、アクリル絵具を幾度も重ねることでキャンバス上に立体的な色相をつくりだし、より現代的な印象を生み出す作品群を出展。また、ハッコジェ・ギャラリーは、色鉛筆を用いて円を反復させ、光が反射しているかのような立体感を平面上につくり出す中堅のアーティスト、チ・グヌク(1985〜)を紹介していた。いずれも、すでに美術史における評価が定まった単色画の先行作家を参照しながら、韓国美術の新たな文脈を創出する試みといえる。

gallery NoWのブース、キム・ソンの作品
ドンウォンギャラリーのブース、ヤン・ソンフンの作品

 韓国の伝統を下敷きにしているという観点では、会場の各ブースにおいて、朝鮮時代後期の官窯で焼かれた白磁の大壺「月壺」を平面に描いた作品が、過去にも増して多く見られた。gallery NoWが出展しているキム・ソン(1980〜)は、平面のキャンバス上に月壺を貫入まで含めて細密に描く画家だ。また、ドンウォン・ギャラリーのヤン・ソンフン(1967〜)も油彩の表現でやわらかな月壺を描いている。

キャラクターをモチーフとする作品の減少

 本アートフェアをここ数年毎年取材してきて、明確な傾向として感じられるのがキャラクターを用いたアートが目に見えて減っていることだ。2020年前後にアートマーケットを賑わせたマンガやアニメのキャラクターをモチーフにした平面作品は、かつて韓国のギャラリーからも数多く出展されていたが、今年はその多くが日本のギャラリーからの出展だった。例えば今回、SH GALLERYは、アニメキャラクターの要素を取り入れた女性像を描いてきたBackside works.の新作を出展しているが、先に紹介した月壺をモチーフとする作品であるチェ・ヨンウク(1964〜)と並べて紹介されており、アートマーケットの潮流が交わる象徴的な空間となっていた。

SH GALLERYのブース、左壁面がBackside works.、右壁面がチェ・ヨンウクの作品

 キャラクターをモチーフとした作品の盛り上がりが一段落したと考えることもできるが、同時に今回のアートフェアではこれらの作品群が日本のギャラリーのひとつの特色のようにも感じられた。

 kiafの会場では 「Kiaf HIGHLIGHTS」の表示があるギャラリーに注目するここともおすすめしたい。本企画は各ギャラリーが応募した新進アーティストを特集するもので、Kiaf委員会が作品を精査し、生態系や物質性、東洋哲学などを探求する10名のセミファイナリストの作品を各ギャラリーの専用スペースにて展示。多くのアーティストが紹介されるアートフェアのなかで、注目すべき作品を定めるためのひとつの指標となるだろう。

CHOI&CHOI Galleryのブース、マシュー・ストーンの作品
水犀のブース、鈴木由衣の作品

 CHOI&CHOI Galleryからは、マシュー・ストーンが「Kiaf HIGHLIGHTS」に選出。手作業で描いた絵具のストロークを撮影し、コンピューター上でそれらを切り貼りし、再構成してイメージをつくり出している。日本からはKiafに初出展した水犀(みずさい)の鈴木由衣が唯一選出された。本フェアでは目にすることが少なかった陶製作品を中心に個展形式で出展し、その作風は前述した月壺との接続も感じさせた。

 フリーズ・ソウルという国際的なアートフェアとの棲み分けをつねに模索してきたKiaf SEOULは、韓国の現代美術の歴史との接続を明確に打ち出すことで、差別化に成功したように見える。多様な価値が共存する時代において、韓国の風土に根ざしたアートフェアを国際的に開きながら展開するその手腕は、日本としても参照すべき点が多いといえるだろう。