2026.8.25

ベーコン、ホックニー、クリムトら巨匠が集結。台湾の台中市立美術館でYAGEO財団のコレクション展が開催へ

台中市立美術館で、台湾を代表するYAGEO財団のコレクション展「The Scorpion and the Frog」が11月20日〜2027年4月4日に開催される。ベーコン、ブルジョワ、クリムト、ホックニー、リヒターらによる66点を通じ、約5世紀にわたる美術史を「理性と本能」「精神と身体」という視点から読み直す。

デイヴィッド・ホックニー《Christopher Isherwood and Don Bachardy》(1968) © David Hockney. Photo by Jonathan Wilkinson
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 台湾・台中市立美術館で、YAGEO財団(国巨基金会)のコレクションを紹介する展覧会「The Scorpion and the Frog: Masterworks from the YAGEO Foundation Collection」が開催される。会期は11月20日〜2027年4月4日。

 YAGEO財団は1999年、台湾の実業家ピエール・チェン(陳泰銘)によって設立。西洋と東洋の古典から近現代美術まで、絵画、彫刻、写真を中心とする幅広いコレクションを形成するとともに、世界各地の美術館への作品貸出や文化・教育事業への支援を行ってきた。2018年、デイヴィッド・ホックニーの代表作《芸術家の肖像画―プールと2人の人物―》(1972)を約9000万ドル(当時の為替レートでは約102億円)で落札しており、23年〜24年にかけてはイギリスのテート・モダンや台湾の高雄市立美術館でそのコレクションの一部を紹介する巡回展を開催した。

 会場となる台中市立美術館は、妹島和世と西沢立衛によるSANAAが設計し昨年オープンした複合文化施設「台中緑美図」を構成する施設のひとつ。8つの建築ボリュームが交差し、美術館と図書館を動線によってつなぐ透明性と流動性の高い空間を特徴とする。

妹島和世と西沢立衛によるSANAAが設計した複合文化施設「台中緑美図」の外観 Image courtesy of Taichung Art Museum. © Iwan Baan

ルネサンスから現代まで、66点が交差する

 今回の展覧会は、ルネサンスから現代まで約5世紀にわたる同財団のコレクションから66点を紹介するもの。このうち55点が台湾初公開となり、台湾で開催された同財団の展覧会のなかでも、もっとも包括的なコレクション展となる。出展作家には、アルテミジア・ジェンティレスキ、ヤコポ・ティントレット、グスタフ・クリムトパブロ・ピカソマーク・ロスコフランシス・ベーコン、ルイーズ・ブルジョワ、アンディ・ウォーホルゲルハルト・リヒターデイヴィッド・ホックニー杉本博司ジェフ・クーンズ、常玉(サンユー)らが名を連ねる。

 キュレーションを手がけるのは、ニューヨークを拠点とするライター、キュレーターのフィリップ・ララット=スミス。2019年からルイーズ・ブルジョワのエステートを管理するイーストン財団のキュレーターを務め、21年にはニューヨークのジューイッシュ・ミュージアムで「Louise Bourgeois, Freud’s Daughter」を企画した。

「理性」と「本能」のあいだで美術史を読み直す

 展覧会タイトルの「The Scorpion and the Frog(サソリとカエル)」は、ともに川を渡ろうとするサソリとカエルをめぐる寓話に由来する。理性的な判断と抑えがたい本能との衝突を象徴するこの物語を手がかりに、本展では「精神と身体」を中心的なテーマとして、「抽象と具象」「聖と俗」「知性と感覚」といった様々な二項のあいだを行き来しながら作品を構成する。年代や地域による従来型の美術史的な物語ではなく、異なる時代や文化圏の作品を直感的に組み合わせることで、新たな対話を生み出すことを試みる。

 その象徴的な組み合わせが、16世紀ヴェネツィア派を代表するティントレットの《Portrait of Cardinal Marcantonio da Mula》(1562-63頃)と、ベーコンの《Study for a Pope VI》(1961)だ。前者が枢機卿の威厳と教会の制度的権威を描き出すいっぽう、ベーコンは歪められた教皇像を通じ、その権威を脆弱さや本能、実存的不安へと反転させる。約400年のときを隔てた2作品の並置によって、社会的・精神的秩序と人間の内面との緊張関係を浮かび上がらせる。

ヤコポ・ティントレット《Portrait of Cardinal Marcantonio da Mula》(1562-63頃)
フランシス・ベーコン《Study for a Pope VI》(1961) © 2026 The Estate of Francis Bacon. All rights reserved. DACS

 また、今年死去したホックニーによる代表的なダブル・ポートレートのひとつ《Christopher Isherwood and Don Bachardy》(1968)も台湾で初公開される。描かれているのは、イギリスの作家クリストファー・イシャーウッドと、その長年のパートナーであった画家ドン・バチャーディ。室内で距離を置いて座るふたりの視線や関係性を通じ、個々の人物像を超えた「ふたりの関係そのもの」を描き出した作品となっている。

 会場ではさらに、ジェンティレスキ、ロスコ、リヒター、杉本らの作品を、精神性や形而上学的探究、コンセプチュアルな思考という観点から紹介。対してブルジョワ、クリムト、ホックニーらの作品からは、欲望や脆弱性、親密さ、身体をめぐる心理的な緊張を読み解く。さらにウォーホル、クーンズ、ピカソ、常玉らがその両極をつなぎ、抽象化や反復、様式化といった手法を通じて、アイデンティティや欲望、歴史、知覚を問い直す。

 時代や地域を横断して作品同士を結び直す本展は、SANAAによる建築空間を舞台に、約5世紀にわたる美術史を「精神と身体」「理性と本能」という普遍的な問いから再考する機会となりそうだ。