2026.7.25

「いのちの未来+」(MoN Takanawa: The Museum of Narratives)開幕レポート。アンドロイドを用いて「いのちとは何か」を問いかける

東京・高輪ゲートウェイのMoN Takanawa: The Museum of Narrativesで、「いのちの未来+」が開幕した。会期は9月25日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=大橋ひな子(編集部)

ミレニアムヒューマンの「モモ」
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 東京・高輪ゲートウェイにあるMoN Takanawa: The Museum of Narrativesで、「いのちの未来+」が開幕した。会期は9月25日まで。

 2025年の大阪・関西万博で話題を集めたシグネチャーパビリオン「いのちの未来」が、アップデートを遂げて東京へと巡回した。本展は、ロボット工学・アンドロイド研究の第一人者である石黒浩(大阪大学教授/ATRいのちの未来研究所客員所長)の監修のもと、アンドロイドを用いて「いのちとは何か」を問いかけるプロジェクトだ。技術革新が加速する現代において、「われわれはいかに新しい技術を選択し、自らのいのちと向き合うのか」という思考の契機を提示することを目的としている。

 本展では、パビリオンでの展示内容をベースに、来館者自身が「いのちの未来」における選択と向き合う新たなシナリオを追加。MoN Takanawaの空間に合わせ、3つのセクションで再構成されている。

ZONE1 いのちの未来

 導入となるZONE1「いのちの未来」では、日本人が古くから事物に「いのち」を宿してきた歴史を紐解く。会場には土偶、埴輪、仏像、能面、文楽人形が並び、人間が歴史的に「人のかたち」をしたものに対し、いかにいのちの宿りを見出してきたかが示される。その系譜の最先端として位置づけられるのがアンドロイドだ。人間に極限まで接近した存在に、われわれは「いのち」を感じ取るのか──。本展は、この原初的な問いからスタートする。

「ZONE1 いのちの未来」の展示風景

ZONE2 50年後の未来

 来場者は専用ヘッドセットを装着し、音声ガイダンスに導かれながらZONE2「50年後の未来」へと足を踏み入れる。ここでは、高度な技術やプロダクトと人間が共生する「50年後の未来」が描かれる。

アバターアンドロイドの「ヤマトロイド」

 展示空間には、大阪・関西万博でも注目を集めたアバターアンドロイド「ヤマトロイド」が登場。約60ヶ所の可動部が生み出す滑らかな所作は、人間とアンドロイドが隣り合わせで暮らす50年後の日常をリアリティをもって体現している。

「ZONE2 50年後の未来」の展示風景

 本セクションの核心は、50年後の未来を生きる祖母と孫のストーリーを体験するプログラムにある。そこでは、人の寿命が尽きる際、「そのまま寿命をまっとうするか」、あるいは「アンドロイドに記憶や思い出を引き継ぐか」という選択を迫られる。アンドロイド化を選べば生命は永遠を得るが、同時に「アンドロイドとなった自分は、果たして『自分』と言えるのか」という新たな問いが浮かび上がる。万博では祖母の決断を想像する体験にとどまっていたが、本展ではこれをさらに深め、鑑賞者一人ひとりに「あなたならどうするか」を主体的に考えさせる構成へと進化している。

4体のアンドロイド。鑑賞者にも質問を投げかける

 会場では、4体のアンドロイドがこの問いを巡って議論を交わしている。その対話の矛先は鑑賞者にも向けられ、「自分はいかにありたいのか」「そもそも自分とは何か」といった自己の本質を揺さぶる体験をもたらす。

 石黒は次のように語る。 「万博から時間が経過した現在も、世界は刻々と変化している。50年先を想定して制作した内容だが、ここで描かれている事象は、わずか5年後の現実かもしれない。『未来はこうなる』と断定するのではなく、『未来はどう変わるのだろうか?』と問いかけ続けることこそが重要」。

 また、劇中で描かれる2人の日常を彩る「未来プロダクト」にも注目したい。これらは「共創プロジェクト2025」に参加した協賛企業7社が、2075年の暮らしを想像して考案したものだ。ライフスタイルに応じて住まいが自在に変幻・拡張する「Adjustension Home」や、体内を巡り健康モニタリングと免疫強化を行うナノロボット「イミュエール」など、実在企業の発想に基づいているからこそ強い現実味を帯びて迫ってくる。

ZONE3 1000年後のいのちまほろば

 続くZONE3「1000年後のいのちまほろば」では、アンドロイドと生身の人間の境界が消失した1000年以上先の未来が提示される。そこに現れるのは、進化を遂げた人間「ミレニアムヒューマン」の「モモ」だ。全身を覆うシリコンスキンが放つ有機的な質感、生き物特有の柔らかさや表情を備えたその躯体は、旋回・上下・前後を組みあわせた浮遊感のある動作を繰り返す。

ミレニアムヒューマンの「モモ」
漱石アンドロイド2.0

 さらに新たな試みとして、「漱石アンドロイド2.0」との対話体験が用意されている。夏目漱石を模したアンドロイドが最新AIによって進化を遂げ、自律的な対話が可能となった。来場者が話しかけることで、その場限りの対話がリアルタイムに紡がれていく。

左:石黒浩、右:ジェミノイド HI-6(通称:イシグロイド)

さ 開幕に先立ち開催された記者会見には、石黒の容姿・頭脳を模したアンドロイド「ジェミノイド HI-6(通称:イシグロイド)」が登壇。石黒の著書や発言データを学習しているため、その思考は基本的に本人と同期しているという。「イシグロイドは、石黒先生自身をどうとらえているか」という問いに対し、イシグロイドは「僕の身体の一部が拡張しているだけだと思っている」と回答した。技術によって身体が拡張されるとき、「いのち」や「人間」の定義はいかに書き換えられるのだろうか。

 50年後、あるいはそれ以上に早い段階で、かつては遠い世界だと思われていた事象が現実として目の前に現れるかもしれない。本展は、その到来する未来に向けて、わたしたち一人ひとりが当事者として「いのちのあり方」に深く向き合うための、示唆に富んだ機会となるはずだ。