2026.5.23

「イラストレーター 安西水丸展 ぼくのあそび I DRAW TO PLAY」(PLAY! MUSEUM)開幕レポート。10年前の巡回展に新たな要素を加え、再始動

東京・立川のPLAY! MUSEUMで、イラストレーター・安西水丸の魅力をその仕事から振り返る展覧会「イラストレーター 安西水丸展 ぼくのあそび I DRAW TO PLAY」が開幕した。会期は7月12日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=三澤麦(編集部)

安西水丸がマンガを連載していた雑誌『ガロ』。壁面には、その表紙画や連載作品『青の時代』が並ぶ
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 東京・立川のPLAY! MUSEUMで、イラストレーター・安西水丸(1942〜2014)作品の魅力をその仕事から振り返る展覧会「イラストレーター 安西水丸展 ぼくのあそび I DRAW TO PLAY」が開幕した。会期は7月12日まで。本展のアートディレクションは土居裕彰(クレヴィス)が担当した。

展示室冒頭には、安西の仕事場や使用した道具が展示される

 安西は1970年代から、小説やマンガ、絵本、エッセイ、広告など、多方面で活躍し、没後もなお多くの人々を魅了し続けている。広告会社や出版社でデザインの仕事に携わりながら、雑誌『ガロ』に掲載したマンガ『青の時代』が高い評価を受けるなど、徐々に頭角を現した。独立後は、村上春樹をはじめとする作家の装丁や、『がたん ごとん がたん ごとん』(福音館書店、1987)などの絵本の創作・執筆など、いっそう活動の幅を広げていった。

「第一部 ぼくの仕事」の展示風景。右の壁面には安西が表紙を手がけた書籍が並ぶ

 本展は、2016年から各地を巡回した回顧展「イラストレーター 安西水丸展」にPLAY! MUSEUMならではの視点を新たに追加し、再始動させたものだ。「仕事」と「あそび」を行き来しながら続けた安西の創作スタイルに着目。会場では、描くことの原点であった「あそび」の感覚をたどりながら、その「全仕事」を印刷物、原画、版画、関連資料など500点以上の膨大な資料とともに紹介している。

安西水丸の全貌を「仕事」を通じて紐解く

 多岐にわたる領域で足跡を残してきた安西。そのイラストは、誰もが一度は目にしたことがあるだろう。「ヘタウマ」とも評された独特かつ肩の力の抜けたタッチは、安西の作品が長く親しまれる理由のひとつだ。

中央は、安西水丸の定番とも言えるワークジャケットとチノパンのスタイル
安西が手がけた絵本の数々。壁面には、作家であり安西の編集者時代の盟友でもある嵐山光三郎との共作「ピッキーとポッキー」シリーズや、安西の代表作のひとつ『がたん ごとん がたん ごとん』(福音館書店、1987)がある

 展示室の入り口から奥へと広がる「第一部 ぼくの仕事」では、その名の通り安西の仕事の全貌を見ることができる。「ぼくはイラストレーターです」と自らの肩書きを定義しつつも、領域を軽やかに横断したその活動には「あそび」の心が通底している。

村上春樹『中国行きのスロウ・ボート』(中央公論新社、1983)の装丁をはじめ、様々な共著を出版。その仕事の数々からは親交の深さもうかがえる

 また、安西と親交があった小説家・村上春樹やイラストレーター・和田誠との仕事や取り組みも紹介されている。村上春樹の『中国行きのスロウ・ボート』(中央公論新社、1983)をはじめとする共著の事例に加え、村上の初期短編『午後の最後の芝生』(スイッチ・パブリッシング、2024)のために安西が描いたイメージ画も、今回初めて出展された。

安西による雑誌やポスター、広告などの仕事を通覧できるスペース
安西によるポスター作品の数々

 さらに展示室の奥では、雑誌、ポスター、広告などの仕事を通覧できる。絵本を手がけるいっぽうで、週刊誌やブランド広告といった大人向けのコンテンツにも自身の絵柄を適応させる。その懐の深さもまた、安西作品の魅力と言えるだろう。

安西水丸の「ホリゾン」

 安西の作品には、しばしば画面を横切る一本の線が描かれる。それは卓上の境界であり、人が立つ床であり、あるいは地平線であった。このトレードマークともいえる線を、本人は「ホリゾン(水平線)」と呼んでいた。

「第二部 ぼくの水平線」では、「ホリゾン」作品およそ70点に加え、作品に登場する安西の雑貨コレクション、そして安西の原風景でありホリゾンの由来でもある千葉県千倉の海の映像や写真のスライドショーも上映されている

 PLAY! MUSEUMの象徴である大きな楕円の空間では、「第二部 ぼくの水平線」として、このホリゾンが描かれた作品を展示。近年アトリエで発見された原画や、それをもとに制作されたジークレー版画(高精細デジタル版画)を含む約70点が、文字通り水平に並ぶ。

 同空間では、安西の原風景でありホリゾンの由来でもある千葉県千倉の海の映像も上映されている。刻々と変化する海と空の表情、波の音、動物の鳴き声。豊かな自然以外「何もなかった」というこの場所で、安西がどのように美意識を育んできたのか。その一端に触れることができるだろう。

安西による「ホリゾン」作品の原画
安西による「ホリゾン」作品の原画(部分)。モチーフには安西が好んで収集していたスノードームが描かれる

 また、PLAY! MUSEUM名物のワークショップも見逃せない。作家の嵐山光三郎に「雪舟は上手すぎて真似られないが、水丸は下手すぎて真似られない」と称された安西のイラストレーション。その独自のタッチや余白の妙を体感できる「スノードームイラスト」(無料)や「水丸る記念缶バッジ」(500円)といった企画が用意されている。安西作品の魅力を、実際に手を動かして味わってみるのも一興だ。

「スノードームイラスト」のワークショップスペース