2026.3.4

「生誕100周年記念 安野光雅展」(PLAY! MUSEUM)開幕レポート。安野光雅の遊び心と創造の軌跡に出会う

東京・立川のPLAY! MUSEUMで、「生誕100周年記念 安野光雅展」が開幕した。会期は5月10日まで。会場をレポートする。

文・撮影=三澤麦(編集部)

安野光雅の代表作『おおきなもののすきなおうさま』の原画
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 東京・立川のPLAY! MUSEUMで、絵本作家・安野光雅(1926〜2020)の生誕100周年を記念した展覧会「生誕100周年記念 安野光雅展」が開幕した。会期は5月10日まで。担当はキュレーターの林綾野。

 安野は島根県津和野町生まれ。1950年に上京後、小学校教員を務めた。61年に画家として独立し、68年に絵本作家としてデビュー。国際アンデルセン賞や紫綬褒章、文化功労者選出など、国内外で数多くの賞を受賞した。

左から、林綾野(本展キュレーター)、大矢鞆音(津和野町立安野光雅美術館 館長)、草刈大介(PLAY! プロデューサー)

 本展では、『ふしぎなえ』『旅の絵本』『天動説の絵本』『おおきなもののすきなおうさま』など、代表作の原画がおよそ130点展示されている。安野作品の世界観に深く入り込める体験型の展示や、1枚1枚の絵をじっくりと鑑賞できるよう工夫された構成も、本展ならではの特徴だ。

「生誕100周年記念 安野光雅展」の展示風景

 会場の冒頭を飾るのは、デビュー作『ふしぎなえ』や『さかさま』『ふしぎな さーかす』といった初期三部作の原画だ。幼少期より、望遠鏡を反対から覗いたり、鏡を床に置いて部屋が逆さまに映る様子を楽しんだりと、日常のなかに不思議な空想を見出していたという安野。その経験が原点となり誕生した、ユーモアあふれる作品群が紹介されている。

『ふしぎなえ』の原画。各作品には錯視と空想が織り交ぜられたような不思議な空間が広がり、目線を変えることで新たな発見がある

 代表作のひとつ『おおきなもののすきなおうさま』は、大きなものを愛する王様が、家来たちにありとあらゆる巨大な道具をつくらせる物語だ。王様の無理難題を必死に実現しようとする家来たちの姿や、スケール感のちぐはぐさに、思わず笑みがこぼれる。

 会場では、その世界観を味わえるようなフォトスポットも登場。来場者自らが絵本の登場人物になったかのような気分で記念撮影を楽しむことができる。

『おおきなもののすきなおうさま』の原画と絵本
『おおきなもののすきなおうさま』の世界観を再現したようなフォトスポットも

 もうひとつの代表作『天動説の絵本』は、天動説が信じられていた時代から地動説が受け入れられるまでの険しい道のりを描いた作品だ。物語が進むにつれて大地が徐々に丸みを帯びていく描写は、安野ならではの秀逸な演出といえる。

 また、会場では同作の朗読映像も上映されている。当時、天動説を信じていた人々が地動説を耳にして何を思ったのか。安野が描き出した緻密な世界観とともに、じっくりと思いを馳せてみてほしい。

『天動説の絵本』の原画
『天動説の絵本』の朗読映像(約13分) 

 さらに、館内でもっとも広い中央展示スペースには、絵本の世界を体感できる空間が広がる。壁面には「旅の絵本」シリーズや『野の花と小人たち』から厳選された8つの場面が大きくプリントされ、まるで絵本の世界に入り込んでいるかのような体験ができる。囲いには様々な形の窓が開けられており、上空から覗き込むような視点で鑑賞できる仕掛けもユニークだ。

中央展示スペースの足元にあるモニターでは、安野作品をモチーフとしたアニメーションも上映されている
囲いには様々な形の窓が開けられている

 ほかにも、安野が描いてきた「風景」や「歴史」といった普遍的なテーマを再構成した「絵画館」と称する空間も登場。ここでは、シェイクスピア作品をはじめ、『三國志』『平家物語』などの歴史画、世界各国の風景画までが幅広く紹介されている。空間の密度や色彩、モチーフの静と動の関係など、あらゆる点において完成度の高い作品群は非常に見応えがあった。

「絵画館」の展示風景。手前は『平家物語』より《巻第十一 壇浦合戦》
世界各地の風景を描いた一枚絵も多数展示

 「ぼくはなんでも描いてきた」。生前そう語ったという安野は、自身が自己表現に重きをおく「画家」ではなく、なんでも描く「絵描き」であると自認していた。制限をつけず、創作の幅を広げてきたその自由で旺盛な好奇心は、現代を生きる私たちの想像力を刺激し続けてくれる。

展示スペースの外には、安野光雅に影響を受けた現代のクリエイターたちによるインタビュー映像『先生へ』も展示されている