序章「美意識としてのビーダーマイヤー」では、本展を象徴する存在として、アルベルト・バリス・ギュータースローの水彩画《アーダルベルト・シュティフターに捧ぐ―高みを目指して》(1937)を展示している。表題のアーダルベルト・シュティフター(1805-68)は、ビーダーマイヤー時代を代表する文学者であり、20世紀の入ってから描かれた本作は彼へのオマージュだ。花瓶の背景には気球、背の低い建物、音楽を表す楽譜など、技術を称え生活を眼差すというビーダーマイヤー時代の美意識が凝縮された1枚といえる。
展示風景より、アルベルト・バリス・ギュータースロー《アーダルベルト・シュティフターに捧ぐ―高みを目指して》(1937)アセンバウム・コレクション 第1章「ビーダーマイヤー ─ミニマルなかたちに宿る宇宙の雛形、日常を彩る劇場的な装飾」では、ビーダーマイヤー時代、つまり18世紀末から19世紀半ばにかけてのウィーンの生活文化と造形の展開を示す。
この時代は抑圧的な政治のもと、人々の意識は家庭での生活へと向かい、実用性・簡素さ・誠実さを備えた手工芸が称揚された。シンプルで幾何学的な、モダニズムにも通じるデザインの数々は、現代の価値観においても思わず所有欲をそそられるものだ。
展示風景より、ビーダーマイヤー時代のインテリア
展示風景より、ビーダーマイヤー時代の銀器 第2章 「総合芸術」、二つの時代―ビーダーマイヤーとウィーン・スタイル」では、19世紀前半のビーダーマイヤー銀器やガラス作品と、20世紀前半にデザインされたウィーン工房やロブマイヤー製の作品を相互に比較する。
展示風景より、左からヨーゼフ・ホフマン《センターピース》(1924-25)、《サモワール》(1838) とくに注目したいのは、ウィーン世紀末のデザイナーたちが、約100年前のビーダーマイヤーの造形を学び、巧みに同時代のデザインに取り入れていったことがわかる品々だ。例えば、アントン・ケル 《キャセロール鍋》(1807)とヨーゼフ・ホフマン 《グラーッシュ用の器》(1907)の制作年には100年という開きがあるが、そのシンプルな造形やデザインの根底には共通性が見られる。いっぽうで滑らかな曲線や装飾的な取っ手など、後者においてはより洗練への工夫がされていることもわかる。
展示風景より、奥左がアントン・ケル 《キャセロール鍋》(1807)、奥中央がヨーゼフ・ホフマン 《グラーッシュ用の器》(1907) 第3章「ウィーン世紀末とウィーン工房─暮らしと時代をリードした女性たち」では、帝国の近代化と急速な都市拡張のなかで、建築、デザイン、工芸の分野に革新が起きたウィーンの世紀転換期に焦点を当てる。
展示風景より、左からダゴベルト・ペッヒェ《箪笥(ウィーン工房チューリッヒ支店の家具の一部)》(1917)、《エドゥアルト・アストのためのアームチェア》(1922)、《センターピース》(1920) オットー・ヴァーグナーは(1841〜1918)は、世紀転換期のウィーンにおいて、近代的な美学のあり方を示し、その教え子であるヨーゼフ・ホフマン(1870〜1956)と画家のコロマン・モーザー(1868〜1918)は、1903年にウィーン工房を創設、総合芸術としての生活芸術を目指した。なお、工房では多くの女性アーティストやデザイナーたちが活躍したことも特筆できる。また、アドルフ・ロース(1870〜1933)もウィーン工房と対峙しつつ、自らの建築において同時代的な合理性を追求していった。会場ではこの時代の熱気を伝える展示品を見ることが可能だ。
展示風景より、左からヨーゼフ・ホフマン《サナトリウム・プルカースドルフの食堂の椅子》、コロモン・モーザー《アームチェア》(1903)、ヨーゼフ・ホフマン《ストンボロー夫妻のベルリンの住居の洗濯物チェスト(使用人部屋用)》(1905)