2025.11.22

「つぐ minä perhonen」(世田谷美術館)開幕レポート。ミナ ペルホネンのなかにある様々な「つぐ」とは?

世田谷美術館で、ファッション・テキスタイルブランド「ミナ ペルホネン」の創設30周年を記念する展覧会「つぐ minä perhonen」展が開幕した。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より
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 1995年に設立以降、高い人気を誇るファッション・テキスタイルブランド「ミナ ペルホネン」。その創設30周年を記念する展覧会「つぐ minä perhonen」が、世田谷美術館で幕を開けた。

世田谷美術館

 皆川明が設立したミナ ペルホネン。そのブランド名はフィンランド語で「minä」=「私」、「perhonen 」=「ちょうちょ」を意味するものだ。ファッションを中心にしながらも、インテリアや陶器など多分野へ展開し、日常に長く寄り添うデザインを提案してきた。

 2019年からは、東京都現代美術館を皮切りに「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展が全国・海外で巡回開催されたことは記憶に新しい。その次なる展開となった本展は、創設30周年を迎えた節目に開催されるものである。

 皆川は開催に際し、「『つづく展』はブランドの継続性を紹介するものだったが、『つぐ』展はデザイン一つひとつが次へ派生したり、新しい開発に向かうこと、つまりデザインが継がれること、様々な『つぐ』がデザインのなかにあることをお伝えするものだ」と語る。

皆川明と株式会社ミナ社長の田中景子

冒頭を飾る圧巻のインスタレーション

 世田谷美術館の象徴的な円弧状の展示室。展覧会の冒頭を飾る「chorus」はひとつのハイライトと言える。

 窓ガラスから砧公園の自然が見えるこの展示室には、これまでつくられた1000を超えるテキスタイルのなかから、花や鳥、幾何学、プリズムなどをテーマにした約180種類がずらっと並ぶ。膨大なテキストを総覧することによって、ミナ ペルホネンのデザインがいかに別のデザインへと影響を与え、展開を見せてきたのかが実感できるだろう。

「chorus」の展示風景

 続く、本展でもっとも巨大な展示室は「score」。「tambourine」など、ミナ ペルホネンを代表する21の柄のデザインの成立過程と展開の様子を、原画や生地、様々なプロダクトから追うことができる。

「score」の展示風景
「score」の展示風景
「score」の展示風景
「score」の展示風景

手仕事を実感

「score」でそれぞれのデザインに込められた思いを確かめた後に待ち受けるのは「ensemble」。実際の製造過程を、道具・映像で詳しく紹介するパートだ。ここでは刺繍、プリント、織というミナ ペルホネンのプロダクトを生み出すのに欠かせない3つの技術にフォーカス。デザイナーと職人たちの緻密なコミュニケーションによって、ミナのプロダクトが私たちのもとに届くのだということが強く実感できるだろう。映像を駆使することで、よりその技術を間近に体感することが可能となっている。

「ensemble」の展示風景
「ensemble」の展示風景
「ensemble」の展示風景
プリント用スクリーン版と、プリント工場の製作風景が同時に鑑賞できる
刺繍工場製作風景が巨大な映像で投影

「つぐ」とは何か

 皆川をはじめ、様々な関係者のインタビューで構成された「voice」を抜けると、最後のセクションとして「remix」へとたどり着く。このセクションは、サステナビリティを重視するミナの姿勢が垣間見えるものだ。ここでは、実際に顧客が着て修繕が必要になった服を公募し、そこに新たなデザインを加えてリメイクしたものが並ぶ。まさに本展テーマでもある「つぐ」ことを体現していると言えるだろう。

「remix」の展示風景
「remix」の展示風景
「remix」の展示風景

 なお会場に設けられたアトリエでは、会期中、実際に皆川が作業することもあるという(その日程は12月以降に明らかにされる)。

ミナ ペルホネンのアトリエ

 皆川は本展に際し、「デザインを見ることだけでなく、その奥にどんな『つぐ』があるのかを感じてもらいたい」と語りかけた。またミナ社長の田中景子も「おのおのが私にとっての『つぐ』は何かと自分に問いかけてもらえたら」と期待を寄せる。

 サイクルの早いファッションの世界で、独自の世界を築いてきたミナ ペルホネン。“つぐ”という言葉はまさに、「せめて100年続くブランド」にしたいという皆川の思いを実現するための核となるものだろう。