2026.7.1

国際美術展「TOKYO ATLAS」の全体像が発表。都市の歴史と景観に新たな視座を与える

東京湾岸で開催される国際美術展「TOKYO ATLAS」(10月10日~12月20日)。その全体像が発表された。

写真提供=国際美術展「TOKYO ATLAS」広報事務局

国際美術展「TOKYO ATLAS」記者発表会の様子 
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 東京湾岸エリアを舞台に開催される国際美術展「TOKYO ATLAS」(10月10日~12月20日)。その全体像が、開催を約3ヶ月後に控えたタイミングで発表された。アーティスティック・ディレクターを担当するのは、建畠晢(草間彌生美術館館長)と三木あき子(直島新美術館館長)。

 本展のタイトル「ATLAS」は、世界を支える神話上の巨人アトラスと「地図帳」を意味する言葉に由来する。街なかに点在する作品を巡る行為そのものを、新たな地図を描く体験へと転換させる構想だ。アートを都市の日常に挿入することで、既存の風景やインフラ、歴史の記憶に新たな視座を与えることを試みる。

 ここでは、主な会場となる台場、天王洲、青海の3エリアの特色と、参加アーティストのラインナップを紹介したい。

都市空間というインフラに現代美術を差し込む

台場エリア(台場公園・お台場海浜公園)

 台場エリアの会場となるのは、幕末に砲台として築かれた人工島であり、歴史の記憶を内包しながら現在は都立公園として開かれている台場公園、そして人工の砂浜を擁し、海へと広がるダイナミックな景観が特徴のお台場海浜公園だ。

台場公園(台場エリア)
お台場海浜公園(台場エリア)

 このエリアで展示を予定しているのは、草間彌生(1929〜)、イケムラレイコ(1951〜)、石毛健太(1994〜)、水木塁(1983〜)、趙要(ジャオ・ヤオ、1981〜)らだ。草間による《ナルシスの庭》(1966 / 2026)や、趙の《Something in the Air》(2019)、石毛による音響インスタレーションなどが配置される。さらに、イケムラによる高さ6メートルにおよぶ巨大なウサギの彫刻作品がお台場海浜公園の水上に設置されるほか、水木による雑草をモチーフにした3Dプリンター作品なども展示。鑑賞者は散策をしながら、作品を通じて自然・歴史・都市景観が交錯する場を体験できる。

趙要《Something in the Air》(2019) © Zhao Yao, Courtesy Ota Fine Arts

天王洲エリア(アイルしながわ、WHAT MUSEUM)

 かつて都市のごみ集積場として使用されていた施設「アイルしながわ」。再開発によって周辺には広場や遊歩道が整備され、現在はアート活動やパラスポーツの施設としても活用されている。

 人工的な構造物と天王洲アイルの運河、そしてかつての用途の名残が混ざり合うこの場所では、盛圭太(1981〜)のインスタレーションと、笹岡由梨子(1988〜)による映像インスタレーションが展開される予定だ。

アイルしながわ(天王洲エリア)

 また、同エリアのWHAT MUSEUMでは、関連企画展「座標|Coordinates 東京都による支援作家たちの現在地」も同時開催。これまで都が支援してきたアーティストやキュレーターを紹介・後押しすることで、国際展を舞台とした新たな座標を描くことを目指すという。

WHAT MUSEUM(天王洲エリア)

青海エリア(テレコムセンタービル、青海南ふ頭公園/地下駐車場)

 アートの国際取引の拠点としても関係性の深い保税地域を擁し、大型貨物コンテナや大型クレーンが並ぶ青海エリアは、お台場や天王洲とは雰囲気が異なり、普段は一般の人々が足を運ぶ機会が少ない場所だ。ここでは、テレコムセンタービルや青海南ふ頭公園、そして同公園内の地下駐車場がメイン会場となる。

草間彌生《宇宙へ行って見た愛の花束》(2021)。「Yayoi Kusama: A Retrospective」(グロピウス・バウ、ベルリン、ドイツ、2021)での展示風景 © YAYOI KUSAMA, Courtesy of Ota Fine Arts
テレコムセンタービル(青海エリア)

 テレコムセンタービルでは、草間によるバルーン作品《ヤヨイちゃん》(2012 / 2023)と、《宇宙へ行って見た愛の花束》(2021)を同一空間に展示。後者は日本初公開であり、この2作品を並置する試みは世界初となる。

青海南ふ頭公園(青海エリア)

 青海南ふ頭公園は、東京港の国際的な海運を見渡せる場所に位置する。ここでは、東京藝術大学小沢剛研究室らによる、ヤギの飼育をプラットフォームとしたアートプロジェクト「ヤギの目」が展開されるほか、巨大なボトルのなかで1週間生活するというアブラハム・ポワンシュヴァル(1972〜)によるパフォーマンス作品《Bouteille》(2015〜)を実施。また、デュッセルドルフを拠点とし、約30年ぶりに国際展へ参加する竹岡雄二(1946〜)は、公共彫刻の本質を捉え直す作品を発表する。

 さらに、同公園内の地下駐車場も会場となり、地上と地下の二層構造でのアプローチを行う。暗い空間を生かした映像作品や光を用いた作品が中心となり、潘逸舟(1987〜)、イペェ・ヌル(1993〜)、ケイティ・パターソン(1981〜)、ムハンナド・ショノ(1977〜)、カウィター・ワッタナチャヤンクーン(1987〜)らが、それぞれの表現手法を生かしたアプローチを行う。

キュレーター陣が語る選定基準と課題

 出展アーティストの選定について、建畠は「国内外の第一線で活躍するアーティストであり、ホワイトキューブとは異なる都市空間という場所性を積極的に活かせる人物を選んだ」と語る。

 また三木は、「円安の時代に国際展を開催することの難しさがあった」としつつ、「コミッションワークにこだわり、この場所に関心を持って、一過性を越えていくような作品のあり方をともに模索できる人物にお声がけした」と明かした。

土地と人の営みの変遷を示したビジュアル・アイデンティティ

 本展のビジュアル・アイデンティティ(VI)を手がけるのは、アーティストデュオ・Nerholとしても活動するデザイナーの田中義久(1980〜)だ。時代ごとに異なる役割を担い、独自の発展を遂げてきた東京湾岸エリアの土地利用データを年代別にリサーチ。土地と人の営みの変遷をグラフとしてビジュアル化した。

 このVIは会場のサインとして展開され、設置されるエリアごとに面積を再計算して制作されるという。場所性や文脈に応じてイメージが立ち上がる視覚的な装置として、展覧会全体のコンセプトを支えるものとなる。

記者発表会の資料より、田中義久による本展のビジュアル・アイデンティティ 撮影:編集部

 開催までおよそ3ヶ月に迫ったこの国際美術展。本展実行委員長の青柳正規によるコメントは次のとおり。「東京湾岸エリアは再開発都市であると同時に、歴史的な場所でもある。(中略)今回の試みが、若い世代の未来を切り開く地図にもなることを願う。ぜひ、ATLAS(地図帳)の上に自身の点を書き込み、自分の居場所を改めて確認する機会としてほしい」。