2026.3.20

ヴェネチア・ビエンナーレ日本館、荒川ナッシュ医「草の赤ちゃん、月の赤ちゃん」の展示詳細が明らかに。200体の赤ちゃん人形と「ケア」を問う空間へ

国際交流基金は、第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館展示「草の赤ちゃん、月の赤ちゃん」(作家:荒川ナッシュ医)の展覧会ロゴおよび展示詳細を発表した。

「草の赤ちゃん、月の赤ちゃん」ロゴ デザイン=森大志郎、小池俊起
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 国際交流基金は5月9日に開幕する「第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」の日本館展示「草の赤ちゃん、月の赤ちゃん」(作家:荒川ナッシュ医、共同キュレーター:⾼橋瑞⽊(CHAT紡織⽂化芸術館館⻑兼チーフ・キュレーター)、堀川理沙(シンガポール国⽴美術館シニア・キュレーター兼キュレトリアル&コレクション部⾨部⻑))の展覧会ロゴおよび展示詳細を発表した。

左から、堀川理沙、荒川ナッシュ医、⾼橋瑞⽊。イサム・ノグチ《オクテトラ》のあるこどもの国(横浜市)にて撮影 撮影=細川葉子

 荒川ナッシュ医は1977年福島県生まれ。現在はロサンゼルスを拠点に活動するクィア・パフォーマンス作家で、テート・モダン(ロンドン)やMoMA(ニューヨーク)など世界各地の美術館で作品を発表してきた。2024年には東京・国立新美術館で大規模な個展を開催した。

 タイトル「草の赤ちゃん、月の赤ちゃん」は、日本館の建築を手がけた吉阪隆正が提唱した庭と建物の「回遊性」に由来する。庭を象徴する「草」と、時間や心に関わる「月」を組み合わせ、さらに荒川ナッシュがニューヨークでの学生時代に影響を受けた草月アートセンターへのオマージュでもある。展覧会ロゴは、グラフィックデザイナーの森大志郎と小池俊起が共同でデザインした。

日本館全景 ©Andrea Martiradonna.

 来館者はまず、ミラーレンズのサングラスをかけ、色とりどりのベビー服を着た様々な肌の色の赤ちゃん人形200体に迎えられる。本展は、来館者が赤ちゃんをケアしながら多彩なコラボレーターの作品を鑑賞する、観客参加型の作品だ。

 1階のピロティエリアでは57体の人形が来館者を待つ。希望者は生後3〜4ヶ月の乳児と同程度の重さ(約5キロ)の人形を預かり、抱きながら展示を巡ることで、「重みを通じた身体感覚を伴う体験」をする。人形たちのベビー服は、荒川ナッシュ医の母親である荒川美和子と福島の友人たちが手縫いで仕立てたもので、作家自身の家族の物語が展示に織り込まれている。

荒川ナッシュ医 LGBTQIA+ ベイビー・シャワー・イベント 2024 パフォーマンス⾵景 国⽴新美術館、東京、撮影=中川周 Courtesy of the artists and The National Art Center, Tokyo

 館内へ進むと、荒川ナッシュが自身の双子の赤ちゃんの声をもとにサージ・チェレプニンが作曲したサウンドが空間全体に響く。1995年の日本館代表・崔在銀(チェ・ジェウン)の映像作品、イサム・ノグチの作品とそれに触発された子供たちの作品なども展示され、世代を超えた共鳴が生まれる。

 展示の締めくくりには、来館者が抱いてきた赤ちゃんのおむつを替えるという具体的な「ケア」の行為が待つ。おむつに印刷されたQRコードをスキャンすると、占星術師でライターの石井ゆかりがその赤ちゃんの誕生日に合わせて書き下ろした「オムツの詩」が届く。また赤ちゃん人形には、荒川ナッシュが自身の子供たちに伝えたい20世紀の歴史的な日付が誕生日として設定されるという。私たちは、過去とどのように向き合い、その先にある新しい命をどう祝福できるのか──来館者はケアという個⼈的な⾏為を通じて、世代を超えて受け継がれる責任と希望の問いに直⾯することとなるだろう。

 また本展で荒川ナッシュは、日本国籍を有しない作家として初めて日本館で個展を開催するという点でも注目される。「多文化的な背景を持つ作家が選出される近年の国際的な動向とも呼応しており、現在の『日本の多様性』をヴェネチアという国際舞台で提示する機会となる」と主催者は述べている。

 本展ではさらに、隣接する韓国館(代表作家:チェ・ゴウン、ノ・ヘリ、キュレーター:チェ・ビンナ)との史上初の公式連携として、互いの作品が⾏き来する仕掛けやイベントの共同開催も予定されている。

 なおヴェネチアでの実践は、荒川ナッシュ医がプロデュースし、作家・映像作家の中村佑⼦と社会学者の佐伯栄⼦とコラボレーションして制作する映像作品として2027年に東京で公開予定だという。