2026.5.31

建築も楽しめる全国の美術館・アートスポットBEST35

全国には建築が特徴的な美術館やアートスポットが多数存在する。近年開館した注目の施設から、知る人ぞ知る地方の美術館の名建築まで、ぜひ訪れてみてほしい。※6月1日24時までどなたでも全文お読みいただけます

福岡市美術館 撮影:編集部
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北海道・東北

モエレ沼公園

 北海道でまず思い浮かぶアートスポットといえば、彫刻家イサム・ノグチの遺作ともいえる巨大プロジェクトによって生まれたモエレ沼公園だ。東京ドーム約40個分の広大な敷地には、モエレ山、プレイマウンテン、海の噴水などの15の施設が整然と配置され、自然とアートが融合した美しい景観を楽しむことができる。

モエレ沼公園のガラスのピラミッド「HIDAMARI」 撮影:編集部

 なかでもガラスのピラミッド「HIDAMARI」には、イサム・ノグチを紹介するギャラリーやレストラン、ショップなども備わっている。

弘前れんが倉庫美術館

 多くの意欲的な建築を持つ館がそろう青森県だが、まずは2020年に開館した弘前れんが倉庫美術館を取り上げたい。酒造工場として建てられ、戦後にシードル工場として使われていた築100年におよぶ煉瓦倉庫を気鋭の建築家・田根剛が「記憶の継承」をコンセプトに改修設計し、既存の煉瓦壁を可能な限り残しながら耐震補強を施した。シードルの色に着想を得た「シードル・ゴールド」のチタン屋根も、建物の歴史を現在へと接続する象徴となっている。

弘前れんが倉庫美術館  撮影:編集部

 煉瓦倉庫の面影が感じられる空間では、国内外のアート作品を紹介するとともに、弘前市と東北地域の歴史、文化と向き合う同時代の作品も展示している。ミュージアムとともにカフェ・レストランも楽しめる。

青森県立美術館

 同じ県内では、青森県立美術館も印象的な意匠を持つ館だ。青森県出身の美術家・奈良美智による巨大な立体作品《あおもり犬》(2005)《森の子/Miss Forest》(2016)や、マルク・シャガール(1887〜1985)によるバレエ「アレコ」の背景画(1942)は同館の見どころのひとつ。

青森県立美術館 撮影:編集部

 建築設計は、隣接する縄文遺跡・三内丸山遺跡から着想を得た青木淳が担当し、高床建物を思わせる迫力ある造形が魅力的だ。また、シンボルマークやサインはデザイナーの菊地敦己が手がけており、館内のちょっとしたサインの優れた視認性にも注目だ。

十和田市現代美術館

 十和田市現代美術館も青森県内では外せない。妹島和世とともにSANAAを設立した建築家・西沢立衛が設計した同館は、公園のように市街から入ることができる、ガラス張りの開かれた建築が特徴だ。

十和田市現代美術館 撮影:編集部

 草間彌生や塩田千春、奈良美智、ロン・ミュエクら世界で活躍するアーティストによるコミッションワークによって常設コレクションが構成されているのが最大の特徴。個々の展示室は「アートのための家」としてそれぞれ独立した空間となっており、作品とじっくりと対峙することができる。

秋田県立美術館

 1967年に平野政吉コレクションを展観する美術館として開館した秋田県立美術館。その後、2013年に安藤忠雄設計の建物に移転した。

秋田県立美術館のエントランス 写真提供:秋田県立美術館

 秋田の祭りと暮らしを描いた世界最大級の壁画である藤田嗣治《秋田の行事》(1937)をはじめとする平野政吉美術財団のコレクションを中心に展示。千秋公園を望む立地を生かした「ここにしかない魅力のある美術館」をコンセプトとしている。三角形をモチーフとしたエントランスホールや、柱のない螺旋階段、水庭越しに風景を望むラウンジ空間も見どころだ。 

せんだいメディアテーク

 建築家・伊東豊雄の設計による宮城県のせんだいメディアテークは、図書館、ギャラリー、映像メディアセンターなどを複合した文化施設。建物は13本の鉄骨独立シャフト「チューブ」と7枚の鉄骨フラットスラブで構成され、各階で異なる平面計画を可能にしている。

せんだいメディアテーク 写真提供:せんだいメディアテーク

 ガラス張りの外観と、壁に頼らない開放的な内部空間が、情報や人の流れを可視化するような建築となっている。目や耳が不自由な人々への情報提供サービスも積極的に実施し、多様な文化の活動拠点として幅広く利用されている。

北陸・甲信越

金沢21世紀美術館

 2004年にヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で金獅子賞を、2010年にはプリツカー賞を受賞した建築家ユニットSANAA(妹島和世+西沢立衛)の建築として知られる金沢21世紀美術館は、街と一体化するような、正面や裏口の区別がない円形のデザインと、ガラス張りの外壁が特徴。

金沢21世紀美術館 撮影:渡邉修 写真提供:金沢21世紀美術館

 明るく開放感あふれる建築は、様々な出会いや体験を可能とし、公園のような美術館として多くの人々に愛されている。恒久展示作品としては、レアンドロ・エルリッヒ《スイミング・プール》(2004)、オラファー・エリアソン《カラー・アクティヴィティ・ハウス》(2010)、アニッシュ・カプーア《L'Origine du monde》(2004)、ヤン・ファーブル《雲を測る男》(1998)などで広く知られる。

富山市ガラス美術館

 美しいガラスアートを紹介する富山市ガラス美術館は、隈研吾が設計を手がけた複合施設「TOYAMAキラリ」内にある美術館。御影石、ガラス、アルミを組み合わせた外観は立山連峰を想起させ、建物自体が光り輝いているようなファサードを持ち、内部では県産材のルーバーが柔らかな光をつくり出している。 

富山市ガラス美術館 写真提供:富山市ガラス美術館

 常設展では、富山市ガラス美術館所蔵の現代ガラス作品を展示するコレクション展をはじめ、展示室の壁面や図書館内に富山ゆかりの作家の作品を展示。また、6階「グラス・アート・ガーデン」では、現代ガラス美術の巨匠、デイル・チフーリの工房が制作したインスタレーション作品を鑑賞することができる。

清春芸術村・光の美術館

 山梨県からは、谷口吉生から安藤忠雄、藤森照信、杉本博司まで多数の名建築が集まる清春芸術村を紹介したい。谷口が設計したルオー礼拝堂は、打ちっ放しのコンクリートでできたモダンな空間となっており、ここではルオーが制作したステンドグラスやキリスト像などが展示されている。

光の美術館 (c)清春芸術村

 芸術村の中心部には、安藤が設計した箱型の美術館、光の美術館がある。同館は自然光のみで作品を鑑賞する美術館であり、その建築には、ガラスで切り取られた天井の一角や壁のスリットなど、人々の心に響く意匠が凝らされている。季節や時間によって変化する光そのものが鑑賞体験の一部となるだろう。また藤森設計の「茶室 徹」は樹齢八十年の檜に支えられており、赤瀬川源平、南伸坊、林丈二らの協力のもと建設されている。

関東

東京都庭園美術館

 東京からは、東京都庭園美術館をおすすめしたい。同館は、1933年に建設されたアール・デコ様式の旧朝香宮邸を活かした美術館として多くのファンを持つ美術館だ。

東京都庭園美術館 撮影:編集部

 主要な部屋の内装にはアンリ・ラパン(1873〜1979)やルネ・ラリック(1860〜1945)らが関わり、建築・室内装飾そのものが大きな見どころとなっている。当時の様子をそのままに伝える本館と、2018年に新たに誕生した新館のコントラストも同館の特徴だ。また、緑豊かな庭園もゆったりと楽しむことができる。

21_21 DESIGN SIGHT

 六本木の東京ミッドタウン内にある21_21 DESIGN SIGHTは、安藤忠雄が設計したリサーチセンター。三宅一生の服づくりのコンセプト「一枚の布」に着想を得て、一枚の鉄板を折り曲げたような屋根を持つ低層建築として構想された。

21_21 DESIGN SIGHT館内(「The Original」展) 撮影:編集部

 安藤のシグニチャーであるコンクリート打ちっぱなしによるデザインで大部分が地下に埋め込まれており、外観のシャープさと、内部に広がるギャラリー空間の対比も印象的だ。2007年の開館以来、訪問者がデザインの楽しさに触れ、新鮮な驚きに満ちた体験ができるような展覧会が数々開催されてきた。

国立新美術館

 同じく六本木の国立新美術館は、黒川紀章(1934〜2007)が設計した「森の中の美術館」。南側には波のようにうねるガラスのカーテンウォールが広がり、館内の吹き抜け空間に柔らかな光を取り込んでいる。

国立新美術館 撮影:編集部

 国立の美術館でありながらコレクションを持たず、展覧会開催のための場として機能する点も特徴だ。

大倉集古館

 東京・虎ノ門のホテルオークラに隣接する大倉集古館は、明治から大正時代にかけて活躍した実業家・大倉喜八郎(1837〜1928)が1917年に設立した日本で最初の財団法人の私立美術館。

大倉集古館 撮影:編集部

 設立当初の建物は1923年の関東大震災で焼失しており、現在の建物は東京帝国大学教授・伊東忠太(1867〜1954)の建築設計によって1927年に竣工したもので、中国古典様式を取り入れた意匠が特徴となっている。建物自体が国の登録有形文化財であり、日本・東洋の古美術を中心とするコレクションとともに、重要な鑑賞対象となっている。 

小田原文化財団 江之浦測候所

 関東圏では、神奈川県・小田原市にある「小田原文化財団 江之浦測候所」も必見。ここは、現代美術家・杉本博司が構想から竣工まで20年以上の歳月をかけた巨大施設であり、杉本の「作品」だ。ギャラリー棟、石舞台、光学硝子舞台、茶室、庭園、門などで構成され、「光学硝子舞台と古代ローマ円形劇場写し観客席」をはじめ、杉本のこだわりが至る所に見られる。

光学硝子舞台 撮影:編集部

 日本の建築様式や伝統工法を通観する場としても設計されており、相模湾を望む立地と、太陽の運行を意識した建築群によって、自然・時間・建築・美術が重なり合う体験が生まれている。

東海

クレマチスの丘(ベルナール・ビュフェ美術館・井上靖文学館)

 静岡・長泉町の愛鷹山中腹にあるクレマチスの丘は、美術館や文学館、レストラン、自然公園などによって構成される複合文化施設。

ベルナール・ビュフェ美術館 撮影:山本糾 写真提供:ベルナール・ビュフェ美術館

 敷地内には、フランスの巨匠ベルナール・ビュフェ(1928〜1999)の世界最大のコレクションを誇るベルナール・ビュフェ美術館や、幼少期を伊豆で過ごした井上靖(1907〜1991)を記念して設立された井上靖文学館などが点在する。自然のなかで作品鑑賞と散策をあわせて楽しめる。 

MOA美術館

 熱海のMOA美術館は、国宝3点を含む約3500点の作品を所蔵する施設。2017年、現代美術作家・杉本博司と建築家・榊田倫之が主宰する「新素材研究所」によってリニューアル。

MOA美術館 写真提供:MOA美術館

 黒漆喰の壁や無反射ガラスを配するなど、日本の伝統的な素材を用いることで、作品鑑賞のための静謐な空間がつくられている。国宝を含む東洋美術・日本美術のコレクションと、相模灘を望む立地も大きな魅力だ。 

豊田市美術館

 1995年に愛知県豊田市に開館した豊田市美術館。その建築は、美術館建築で名高い谷口吉生が設計した、乳白色のガラスと緑のスレートが特徴的なもの。庭園はランドスケープ・アーキテクトのピーター・ウォーカーが手がけた。

豊田市美術館 撮影:編集部

 建築と庭園を含めた全体が、作品との出会いへと鑑賞者を導く装置として構成されている。街中にありながら自然豊かな庭園では彫刻作品を鑑賞できるほか、見晴らしの良い高台から豊田市街地を一望でき、館内外で現代美術と建築、ランドスケープが連続する体験を楽しめる。 また、隣接する坂茂設計の豊田市博物館も24年に開館し、互いに共鳴し合う空間をつくり出している。

岐阜現代美術館

 墨象作家・篠田桃紅(1913〜2021)の作品を中心とした美術品を展示するために、2007年に開館した岐阜現代美術館。同館では、桃紅の初期から新作まで800点あまりの作品と資料を所蔵し、桃紅作品の調査研究を行う。

岐阜現代美術館 写真提供:岐阜現代美術館

 円筒形ドームの美術館建築は、1993年度「日経ニューオフィス推進賞<通商産業大臣賞>」を受賞。カスケードとプールが配され、周囲の自然と造形が調和した空間を堪能してほしい。また、2024年には新たに桃紅館が開館し、篠田作品の特徴である墨と銀を建物の意匠に取り入れた外観が採用されている。 

岐阜県現代陶芸美術館

 岐阜県多治見市の広大な自然公園「セラミックパークMINO」内にある岐阜県現代陶芸美術館。建築家・磯崎新が設計を手がけた建物は、周囲の山並みや地形の起伏に寄り添うように建てられており、自然環境と建築が見事に調和している。

岐阜県現代陶芸美術館 撮影:編集部

 アプローチに配された陶板の壁やカスケード、そして茶室など、美濃の地が育んできた陶磁器文化を随所に感じさせる意匠が特徴だ。19世紀後半以降の近現代の陶芸作品を中心に、国内外の優れたコレクションを独自の切り口で展示。現代の多様な陶芸表現と、磯崎建築が織りなす静謐な空間をあわせて堪能できる。

関西

京都市京セラ美術館

 関西でまず注目したいのは、京都市美術館を大規模改修して2020年にリニューアル開館した京都市京セラ美術館だ。洋風建築に和風の屋根をかぶせた、和洋折衷のいわゆる「帝冠様式」を代表する建築として知られる美術館が、建築家・青木淳、西澤徹夫らの手によって生まれ変わった。

京都市京セラ美術館 撮影:編集部

 本館中心の旧大陳列室である中央ホールを通り、展示室として機能するようになった南北の回廊や、ガラスの大屋根をかけることで室内化した中庭などには、近代建築の記憶と現代の展示機能が共存している。

アサヒビール大山崎山荘美術館

 京都・大山崎にあるアサヒビール大山崎山荘美術館は、関西の実業家・加賀正太郎が大正から昭和にかけて建てた「大山崎山荘」を修復したもの。1996年に、安藤忠雄氏設計の新棟「地中の宝石箱」などを加えて、美術館として開館した。

​アサヒビール大山崎山荘美術館 写真提供=アサヒビール大山崎山荘美術館

 イギリスのチューダー・ゴシック様式に特徴的な木骨を見せるハーフティンバー方式を取り入れた本館は、館内各所の意匠も注目だ。また2階のテラスからは、桂川、宇治川、木津川の三川が合流する雄大なパノラマを楽しむことができる。また、地中館「地中の宝石箱」は周囲の景観と調和する半地下構造で、円柱形の展示空間にモネ《睡蓮》連作(1907、1914-1917)を常設展示している。本館の歴史的な意匠と安藤建築のコンクリート空間をあわせて楽しめる点が特徴だ。 

MIHO MUSEUM

 滋賀のMIHO MUSEUMは、パリ・ルーヴル美術館の「ガラスピラミッド」で知られる世界的建築家のI.M.ペイが設計を手がけている。中国・東晋の詩人、陶淵明が漢詩『桃花源記』(421頃)に描いた「桃源郷」の世界をモチーフに、枝垂れ桜の並木道、銀色に輝くトンネル、深い谷を渡る吊り橋を経て美術館棟へと続く。

MIHO MUSEUM (c)MIHO MUSEUM 写真提供=MIHO MUSEUM

 常設展示としては、同館の南館で、エジプト、西アジア、南アジア、中国・西域と、地域別に4つの展示室が設けられ、日本美術やシルクロードに沿った世界の古代美術のコレクションを展示している。

モリムラ@ミュージアム

 大阪・住之江の北加賀屋は、大阪湾にほど近く、かつては多くの造船所があって賑わいを見せた地域。2009年に「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想」がスタートし、アーティストやクリエイターたちの活動拠点となっている。ここにあるのが、平面作品から映像作品まで、美術家・森村泰昌の作品を展示するモリムラ@ミュージアムだ。

モリムラ@ミュージアム 写真提供:モリムラ@ミュージアム

 歴史上の人物や名画の登場人物に扮するセルフポートレイトで知られる森村の作品世界を、展覧会ごとに異なる構成で見ることができる。それぞれ雰囲気が違う空間となるよう工夫された5つの部屋に加え、千古材バンクから提供された材料を使うなど、古いものと新しいものが融合している。

大阪中之島美術館

 大阪からは、構想から約40年という異例の時間を経て2022年に開館した大阪中之島美術館も注目だ。「ブラックキューブ」の外観が目を引くこのミュージアムは、遠藤克彦建築研究所による設計。大きな特徴は、全フロアを貫く巨大な吹き抜け「パッサージュ」だ。パッサージュは、展覧会の入場者だけでなく誰もが訪れることのできる開かれた屋内空間として構想された。

大阪中之島美術館 撮影:編集部

 巨大なブラックキューブの内部に、都市の通路のような公共性を組み込んだ建築となっている。館内には展示スペースだけでなく、1〜2階に様々な人が自由に行き来することができるショップやカフェも入居。外観とは裏腹に、開放感あふれるデザインとなっている。

中国・四国

島根県立石見美術館

 島根県益田市にある島根県立石見美術館は、美術館と劇場が一体となった複合文化施設「島根県芸術文化センター グラントワ」内に位置する。建築家・内藤廣が設計を手がけた建物は、島根県西部の伝統的な建築素材である「石州瓦(せきしゅうがわら)」を外壁と屋根に合計約28万枚も使用。光の角度によって表情を変える独特の赤黒い瓦が、見る者に圧倒的な存在感を与える。

島根県立石見美術館 撮影:編集部

 中庭を囲む回廊型の構造が特徴で、水盤が配された広場は地域の人々の憩いの場としても機能している。コレクションは、浜田市出身のファッションデザイナー・森英恵の作品や、島根ゆかりの美術、さらには国内外の優れた絵画や工芸など多岐にわたる。「美と表現」の多様性を地域から発信する拠点として、五感に響く美しい建築とともに独自の存在感を放っている。

下瀬美術館

 広島県大竹市の沿岸部に2023年に開館した下瀬美術館は、世界的な建築家・坂茂の設計による革新的な美術館だ。瀬戸内海の多島美にインスピレーションを得てデザインされた最大の特徴は、水盤に浮かぶ8つの「可動展示室」。

下瀬美術館 撮影:編集部

 大竹市の地場産業である造船技術を応用したこの展示室は、色の異なるキューブが水面に並び、夜にはライトアップされて幻想的な景観をつくり出す。エントランスや管理棟を支える伝統的な木造のトラス構造、瀬戸内の植物が植えられた「エミール・ガレの庭」、そして展望テラスから望む宮島の景色など、建築とアート、そして瀬戸内の自然が一体となった、これまでにない鑑賞体験を提示している。

奈義町現代美術館

 また、建築作品として必見なのが、磯崎新が手がけた岡山県の奈義町現代美術館だ。同館は荒川修作+マドリン・ギンズ、岡崎和郎、宮脇愛子に巨大作品をあらかじめ制作依頼し、それぞれの作品空間を建築化するという発想でつくられた。

奈義町現代美術館 展示室「大地」 写真提供:奈義町現代美術館

 展示室は「太陽」「月」「大地」と名づけられ、 作品が建築化したような空間を楽しむことができる。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館は、谷口吉生設計による美術館。丸亀市ゆかりの画家・猪熊弦一郎の全面的な協力のもと1991年に開館。

丸亀市猪熊弦一郎美術館 撮影:編集部

 猪熊本人から寄贈された約2万点の作品を所蔵している。自然光を取り込んだ明るく広々とした空間は、猪熊が美術館に求めた理念と谷口の建築が結びついたものだ。 

広島市現代美術館

 1989年5月、日本初の公立現代美術館として開館した広島市現代美術館は、黒川紀章による設計。

広島市現代美術館 撮影=編集部

 2023年、開館以来初となる大規模改修工事を終えた同館は、比治山公園の自然環境と調和しながら、古代ヨーロッパの広場を思わせるアプローチプラザや、日本の蔵を想起させる三角屋根を備える。円形屋根の切れ目が爆心地の方角を指すなど、広島という土地の記憶とも深く結びついた建築だ。 

大塚国際美術館

 徳島県の大塚国際美術館は、2018年の紅白歌合戦で米津玄師が中継出演する際の舞台にもなった美術館だ。

スクロヴェーニ礼拝堂(大塚国際美術館の展示作品を撮影) 写真提供=大塚国際美術館

 同館は、世界中の名画を陶器の板に原寸で焼き付けて展示する「陶板名画美術館」。修復前の《最後の晩餐》(1495〜1498)の再現のほか、システィーナ礼拝堂、スクロヴェーニ礼拝堂などの壁画空間を環境ごと再現する展示により、通常は現地でしか体験できない作品空間を立体的に味わうことができる。日本最大級の常設展示スペースを有する点も特徴で、その質・量から、1日で回ることは難しいと言われるほどだ。

 瀬戸内エリアからは、アートの聖地「直島」より、李禹煥美術館とヴァレーギャラリーをピックアップしたい。

李禹煥美術館

 李禹煥美術館は、2010年に開館。「もの派」を代表するアーティストとして現代美術の中核を担ってきた李禹煥(リ・ウファン)と建築家・安藤忠雄のコラボレーションによる美術館だ。

李禹煥美術館 撮影:編集部

 半地下構造の館内には1970年代から現在に到るまでの絵画・彫刻を、広場では、自然石と鉄板を組み合わせ、極力つくることを抑制した彫刻作品を展示。海と山に囲まれた谷間の環境のなかで、自然、建築、作品が響き合う静謐な空間を味わうことができる。

ヴァレーギャラリー

 いっぽう、この李禹煥美術館の向かいの山間に整備されたヴァレーギャラリーは、22年3月にオープンしたばかりの施設。祠をイメージした建築は安藤忠雄による設計で、半屋外に開かれたデザインが特徴だ。

ヴァレーギャラリーの展示風景より、草間彌生《ナルシスの庭》(1966/2022) Copyright of Yayoi Kusama

 建築の屋外には小沢剛の《スラグブッダ88―豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏》(2006)が、また屋内外には草間彌生のインスタレーション《ナルシスの庭》(1966/2022)が設置されている。

九州

福岡市美術館

 福岡市美術館は、ル・コルビュジエに学んだ日本近代建築の巨匠、前川國男(1905〜1986)の設計だ。「エスプラナード」と呼ばれる広場とロビーを中心とした展示室等の配置が特徴で、前川の思想が反映された建築となっている。

福岡市美術館 撮影:編集部

 2019年にはリニューアルオープンし、前川が遺した建築意匠を尊重しつつ、西側に新しいアプローチを設け、大濠公園でくつろぐ人々を館内に誘う機能を強化している。

長崎県美術館

 長崎県美術館は隈研吾の設計。運河を挟み西側と東側のふたつの棟によって構成されるユニークな建築で、日本建築家協会賞を受賞している。「ギャラリー棟」と呼ばれる西側の棟にはエントランスロビーや県民ギャラリーなどが、「橋の廊下」でつながった「美術館棟」と呼ばれる東側の棟には企画展示室や常設展示室などを設置。

長崎県美術館 撮影:編集部

 2つの棟で「開く」機能と「守る」機能を建築的に分節している。運河を望むカフェや屋上庭園など、水辺の環境と一体化した鑑賞体験を楽しむことができる。 主な収蔵作品は、長崎ゆかりの美術とスペイン美術。ピカソ、ダリなどスペイン美術のコレクションは東洋有数の規模を誇る。

大分県立美術館

 大分県立美術館は、2015年に大分市の中心部に誕生した美術館だ。大分が誇る伝統工芸の竹工芸をイメージさせる外観とガラス張りの開放感あふれる建物は、坂茂の設計によるもの。

大分県立美術館 (c)Hiroyuki Hirai 写真提供:大分県立美術館

 入館無料でミュージアムショップやカフェに立ち寄ることができる館内1階には街に開かれた大きなアトリウム空間が広がる。アトリウムでは、マルセル・ワンダースによる巨大な卵形バルーン《ユーラシアン・ガーデン・スピリット》(2015)など、展示室外でもアートに触れられる作品が展開されている。 

鹿児島県霧島アートの森

 鹿児島県霧島アートの森は、霧島連山の自然に囲まれた野外美術館。野外展示では、草間彌生《赤い靴》(2002)をはじめ、ジョナサン・ボロフスキー《男と女》(1999)、ジェニー・ホルツァー《ブルー》(1998)など、国内外の作家による作品が自然の地形や景観と呼応するように設置されている。

鹿児島県霧島アートの森 写真提供:鹿児島県霧島アートの森

 四季や天候によって作品の見え方が変わり、美術館建築の内部だけでは得られない、自然のなかでの現代美術体験ができる。