2025.8.28

モネ没後100年。オルセー美術館から世界最高峰のモネ・コレクションが一挙来日

東京・京橋のアーティゾン美術館で、「クロード・モネ -風景への問いかけ」展が開催される。会期は2026年2月7日〜5月24日。

クロード・モネ 戸外の人物習作-日傘を持つ右向きの女 1886、油彩・カンヴァス、オルセー美術館蔵
Photo © GrandPalaisRmn (musée d’Orsay) / Stéphane Maréchalle / distributed by AMF
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 東京・京橋のアーティゾン美術館で、クロード・モネ(1840〜1926)の没後100年を記念する展覧会「クロード・モネ -風景への問いかけ」が開催される。会期は2026年2月7日〜5月24日。

 オルセー美術館が、モネの没後100年という国際的な記念の年の幕開けを飾る展覧会、と位置づける本展は、モネの創作を語るうえで重要とされる場所と時代から、その画業の発展をたどるものとなる。モネの作品41点を含む、オルセー美術館所蔵の約90点に、国内の美術館や個人所蔵作品を加えた合計約140点から、風景画としてのモネの魅力に迫る。

 また、同時代の絵画や写真、浮世絵、アール・ヌーヴォーの工芸作品などの表現との関わりや、現代の映像作家アンジュ・レッチアによるモネへのオマージュとして制作された没入型の映像作品の展示といった様々なジャンルの視覚表現を交錯させることで、モネの創作活動に新たな光を当てる、新しいモネの展覧会となる。

 全13章で構成される本展の、セクション1「モチーフに最も近い場所でーノルマンディーとフォンテーヌブローで制作した1860年代のモネ」では、ジャン=バティスト・カミーユ・コローやウジェーヌ・ブーダンら少し前の世代の絵画と関連づけながら、1850年代の終わりから60年代半ばにかけて、若きモネの自然主義的アプローチによる風景画が生まれた過程をたどる。

 セクション2「写真の部屋─モティーフと効果」では、1850年代以降の風景画の改革へとつながる、絵画と写真という2つの表現技法による自然活写に着目した内容となる。本章では、日本初公開となるギュスターヴ・ル・グル《フォンティーヌ・ブローの森、バ=ブレオの下草》が展示される。

 セクション3「《かささぎ》とその周辺─雪の色」では、モネが雪からインスピレーションを受けて描いた作品が登場する。浮世絵の雪景と同様に、繊細な色彩の面を重ねることで奥行きを表現したさまを間近で見ることが可能だ。

クロード・モネ かささぎ 1868-69、油彩・カンヴァス、オルセー美術館蔵
Photo © GrandPalaisRmn (musée d’Orsay) / Adrien Didierjean / distributed by AMF

 セクション4「風景画と近代生活ー『飾られた自然と、都市の情景』(テオドール・デュレ)」でも、日本初公開の作品が展覧される。パリの中心にあるサン=ラザール駅の近代建築を描いた作品が、11点ないし12点制作されたが、モネはそのうち8点を1877年の印象派展に出品し、印象派の風景画が担うべき現代的使命を打ち出した。

クロード・モネ 昼食 1873頃、油彩・カンヴァス、オルセー美術館蔵
Photo © GrandPalaisRmn (musée d’Orsay) / Franck Raux / distributed by AMF
クロード・モネ アルジャントゥイユのレガッタ 1872頃、油彩・カンヴァス、オルセー美術館蔵
Photo © Musée d’Orsay, Dist. GrandPalaisRmn / Patrice Schmidt / distributed by AMF
クロード・モネ パリ、モントルグイユ街、1878年6月30日の祝日 1878、油彩・カンヴァス、オルセー美術館蔵
Photo © Musée d’Orsay, Dist. GrandPalaisRmn / Patrice Schmidt / distributed by AMF
クロード・モネ サン=ラザール駅  1877、油彩・カンヴァス 、オルセー美術館蔵
Photo © GrandPalaisRmn (musée d’Orsay) / Benoît Touchard / distributed by AMF

 セクション5「四季の循環と動きのある風景─『ここが私のアトリエだ』(クロード・モネ)」では、1878年から81年までパリの北西、セーヌ川沿いにあるヴェトゥイユに住んでいたときの作品が紹介される。モネは庭の外れのセーヌ川の土手に画架を据え、移り変わる季節によって姿を変える自然を観察した。後年の睡蓮を予告するような同じ視点の繰り返しが、この時期の作品からうかがえる。

 セクション6「1880年代の風景探索ー『表現された感覚の驚くべき多様性と大胆な新しさ』(オクターヴ・ミラボー)」では、1880年代に外国を含めた各地へ出向き、自らの芸術を試していた時代の作品が展覧される。

 セクション7は「ジャポニスム」。モネが自然と風景に対するアプローチを日本の美術、特に浮世絵から学んだことはよく知られている。20代半ばの1864〜65年頃から浮世絵に親しんでいたモネは、ジヴェルニーの家に浮世絵をコレクションしていた。本章は、日本の浮世絵とモネの風景画との関わりについて紐解く内容となる。

 セクション8「連作ー反復ー屋内風景」では、1890年代以降の連作に着目する。同じモチーフに対して、曇った日や晴れた日、夕べや朝など、光の具合によって色が変わるさまを描き出し始めた頃の作品が並ぶ。

クロード・モネ ロンドン国会議事堂、霧の中に差す陽光 1904、油彩・カンヴァス、オルセー美術館蔵
Photo © GrandPalaisRmn (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 セクション9「ピクトリアリズムの風景写真」では、写真の芸術性を高めようとした試み、ピクトリアリズムの写真家たちの作品が紹介される。 エマーソンの《睡蓮摘み》は、モネが同主題の作品を描いたのとほぼ同時代の作品だ。

ピーター・ヘンリー・エマーソン 睡蓮の採取 1886、プラチナ・プリント、ガラス乾板より、オルセー美術館蔵
Photo © GrandPalaisRmn (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 セクション10は、「写真の部屋2:ジヴェルニーの庭のモネーエティエンヌ・クレメンテルのオートクローム」。本章では、エティエンヌ・クレメンテルが制作したカラー写真・オートクロームが紹介される。当時の通産大臣クレメンテルは、若い頃自身も画家であり、当時はアマチュアとして写真を撮っていた。政治家のクレマンソーの紹介で1916年にモネと出会い、1920年頃にはモネのもとを訪れ様々な画家の姿を撮っている。

クロード・モネ ジヴェルニーのモネの庭 1900、油彩・カンヴァス、オルセー美術館蔵
Photo © GrandPalaisRmn (musée d’Orsay) / Adrien Didierjean / distributed by AMF

 セクション11「池の中の世界─睡蓮」では、モネの終の住処となるジヴェルニーでの生活以降の作品が紹介される。庭のプランニングも自身で行っていたモネは、自らの意思によりつくられた庭を描く、という新たな創造活動を始めた。1911年に妻のアリスを、1914年2月には息子ジャンを亡くした後、1914年に制作を再開したモネは、《睡蓮》の大作に着手。本章では、様々に展開した睡蓮の作品を展示するとともに、同時期に同主題を工芸作品で表現しようと試みたエミール・ガレや、ドーム兄弟によるアール・ヌーヴォーの工芸作品もあわせて展示される。

クロード・モネ ノルウェー型の舟で 1887頃、油彩・カンヴァス、オルセー美術館蔵
Photo © GrandPalaisRmn (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF
クロード・モネ 睡蓮の池 1907、油彩・カンヴァス、石橋財団アーティゾン美術館蔵
クロード・モネ 睡蓮の池、緑のハーモニー 1899、油彩・カンヴァス、オルセー美術館蔵
Photo © GrandPalaisRmn (musée d’Orsay) / Stéphane Maréchalle / distributed by AMF
エミール・ガレ 静淵 1889-90、蓋付壺、オルセー美術館蔵
Photo © Musée d’Orsay, Dist. GrandPalaisRmn / Jim Purcell / distributed by AMF

 セクション12「映画の中の風景ー動きのある風景」では、現代作家アンジュ・レッチアがモネにオマージュを捧げる映像作品が展示される。 1952年生まれのアンジュ・レッチアは、パリとコルシカ島を拠点に活動する映像作家兼美術作家であり、1986年にはヴェネツィア・ビエンナーレのフランス館においてフランス代表として出展経験をもつ。睡蓮の池が着想源となる《(D’) après Monet(モネに倣って)》は、モネ自身、彼の家、睡蓮、そして「水と反射の風景」が、自然の観察と幻想のあいだで、見る者の心に残る連なりを形づくる、没入型の映像作品。日本では初公開となる。 キュレーションは、オランジュリー美術館のセシル・ドゥブレ元館長(現、パリ国立ピカソ美術館館長)。

アンジュ・レッチア (D’) après Monet(モネに倣って) 2020  © ADAGP, Paris 2022 © Ange Leccia

 最後のセクション13では「『風景のなかの生』 ーモネの生涯」と題され、ピエール=オーギュスト・ルノワールによる《クロード・モネ》も展覧される。

 なお、本展を記念して、シルヴィー・パトリ(オルセー美術館学芸員、本展監修者)による土曜講座や、新畑泰秀(アーティゾン美術館学芸員)によるカンファレンスといった関連プログラムも開催される予定だ。