2025.7.15

「GO FOR KOGEI 2025」が開催。「工芸的なるもの」をテーマに現代美術の領域を拡張

工芸をテーマに現代美術の領域拡大を目指す「GO FOR KOGEI 2025」が、金沢市と富山市で開催される。会期は9月13日〜10月19日。

「GO FOR KOGEI 2024」展示風景より、「桝田酒造店 満寿泉」の舘鼻則孝《ディセンディングペインティング“雲⿓図”》(2024) 撮影=編集部
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 工芸をテーマに現代美術の領域拡大を目指すフェア「GO FOR KOGEI 2025」が、金沢市と富山市で開催される。会期は9月13日〜10月19日。

 「GO FOR KOGEI」はものづくりが古くから受け継がれる北陸から、ジャンルにとらわれない新たな工芸の見方を発信すプロジェクト。2020年より毎年開催され、今年で5年目の開催となる。会期中には、地域の歴史・風土を体現する町並みや社寺を会場にした展覧会やイベントのほか、工芸を巡る今日的な課題と可能性について議論を深めるシンポジウムなどが展開されている。

「GO FOR KOGEI 2024」展示風景より、サリーナー・サッタポン《バレン(シアガ)アイビロング:富⼭》(2024)パフォーマンス

 今年のテーマは「工芸的なるもの」。作家や職人が素材・技法と向き合う態度から生まれるさまざまな実践を通して、それらがつくり出す多様な暮らしの姿を提案する。

  アーティスティック・ディレクターは東京藝術大学名誉教授の秋元雄史が務める。秋元は本展のテーマについて、次のように説明した。

 「『工芸的なるもの』とは、民藝運動の主唱者として知られる柳宗悦(1889〜1961)による論考『工芸的なるもの』から取られている。柳は車内アナウンスの抑揚や理髪師の鋏さばきを『工芸的なやり方』だと記し、人の行為あるいは態度にさえ工芸性を見出した。柳にとって工芸的なものとは、個人の自由な表現というよりも、社会と美意識や様式の接点であり、そこに美や価値が宿ると考えていた。いっぽうで、社会全体が共有してきたものが現代において失われていたとしたら、柳の提唱した『工芸的なるもの』という概念は通用しなくなっているともいえる。今回のテーマは、ものごとを『工芸的』ととらえることで、現代社会とのつながりや、オルタナティブな領域への広がりを意識するという志向を表現したものとなる」。

記者発表にて、左から秋元雄史(アーティスティック・ディレクター)、山下茜里(アーティスト)、中川周士(アーティスト)

 展示エリアは大きく岩瀬エリア(富山市)と東山エリア(金沢市)に分かれる。

 岩瀬エリアは富山市街地の北にあり、北前船の寄港地として栄える。いまも廻船問屋の建物が並び、近年は日本酒の酒蔵「桝田酒造店」を中心に、伝統を礎とした新たな街づくりが行われている。

岩瀬エリアの町並み 撮影=編集部

 このエリアではアリ・バユアジ、桑田卓郎、サエボーグ、坂本森海、清水千秋、清水徳子+清水美帆+オィヴン・レンバーグ、髙知子、舘鼻則孝、葉山有樹、松本勇馬、吉積彩乃が展示を行う。

 東山エリアは金沢を代表する観光地である「ひがし茶屋街」のあるエリアで、茶屋様式の町家が多く残されている。表通りの裏手には、かつて様々な職人が工房の軒を連ねており、いまもカフェやギャラリーが点在している、工芸と親しめるエリアだ。

ひがし茶屋街の町並み 撮影=編集部

 このエリアでは上出惠悟、コレクティブアクション、相良育弥、寺澤季恵、中川周士、三浦史朗+宴KAIプロジェクト、やまなみ工房が作品を展開する。

 また、工芸を深く知るためのイベントも多数実施される。「うつわと楽しむ蕎麦屋の新しいスタイル」では、桑田卓郎と「酒蕎楽 くちいわ」によるコラボレーションとなる。岩瀬の蕎麦店「酒蕎楽 くちいわ」で、桑田の器による新しいスタイルの蕎麦のコースを予約制で楽しむことができる。

[参考画像]展示風景 桑田卓郎+く「揚げうどん」(Gallery & Restaurant舞台裏、2025年) Photo by Kumi Nishitan

 坂本森海の「能登の土から生まれた七輪でふるまうバーベキュー」は、坂本が土砂災害に見舞われた能登・珠洲市の土を使い制作した七輪によって、バーベキューをするイベントだ。10月19日に岩瀬のNew An 蔵で、能登の塩を添えた旬の野菜やきのこを焼き、来場者にふるまいながら坂本が制作の背景や作品について語る。

[参考画像]「能登の土から生まれた七輪でふるまうバーベキュー」

 ほかにも、岩瀬と東山の両エリアで10種程度のイベントの開催を予定している。

 加えて、プロジェクトとしての「GO FOR KOGEI」は、海外での展開も積極的に行う。7月24日にロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)と共同でシンポジウムを行い、工芸の領域横断的な可能性についての議論を展開。

 また台湾・台南の台南市美術館の招待を受け、「皮膚と内蔵―自己、世界、時間」展も開催する。同展は、皮膚と内臓の感覚を起点に自己のあり方や世界との向き合い方を探求するもので、日本の10名の女性アーティストを紹介。キュレーターは秋元が務める。参加作家は小林万里子、佐合道子、佐々木類、中田真裕、三嶋りつ惠、宮田彩加、牟田陽日、山下茜里、留守玲、綿結。会期は10月3日〜26年1月18日。