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2025.7.11

「喜如嘉の芭蕉布展」(国立工芸館)開幕レポート。沖縄の織物「芭蕉布」と、復興の立役者・平良敏子の歩みをたどる

国立工芸館で「移転開館5周年記念 重要無形文化財指定50周年記念 喜如嘉(きじょか)の芭蕉布(芭蕉布)展」がスタートした。会期は8月24日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 石川・金沢の国立工芸館で「移転開館5周年記念 重要無形文化財指定50周年記念 喜如嘉(きじょか)の芭蕉布(ばしょうふ)展」がスタートした。会期は8月24日まで。担当学芸員は唐澤昌宏(国立工芸館館長)。

 芭蕉布は、糸芭蕉(バナナの仲間)の繊維を糸にして織られた「沖縄の風土が生んだ最も沖縄らしい織物」であり、琉球王国時代から現在に至るまでつくり続けられている。しかしその製法は、沖縄本島の大宜味村(おおぎみそん)喜如嘉で伝承されるのみとなっている。

 今年は沖縄工芸を広く周知するきっかけにもなった「民藝運動」(1925)から100年を迎える年であり、戦後80年という節目でもある。本展は、ここに沖縄と芭蕉布の復興を重ね合わせ、芭蕉布の技術復興に尽力した染色家で人間国宝の故・平良敏子とその工房の作品を中心に、芭蕉布の歴史的名品12点(国宝5点を含む)と関連資料を含めた計73点を展示。会期中に出展作品を替えながらその魅力を紹介するものとなっている。

展示風景より

 会場は全3章の構成。第1章では、芭蕉布の歴史的な名品と、平良敏子が開いた「芭蕉布織物工房」による多彩な作品を紹介している。

展示風景より

 芭蕉布は高温多湿の沖縄の気候に適した布であり、さらりとした風合いと適度な張りから、王族から庶民まで広く愛用されてきた。糸芭蕉を育てるところから、収穫後の糸づくり、染め、織りまで、すべてが天然の材料と手仕事によって製作されており、絣(かすり)の技法を用いた独特な文様も特徴のひとつだ。

展示風景より、国宝《黄色地枡形文様絣芭蕉衣裳》(琉球国王尚家関係資料、18-19世紀)
展示風景より、手前は国宝《桃色地経縞絹芭蕉衣裳》(琉球国王尚家関係資料、18-19世紀)

 続く第2章では、平良敏子がいかに芭蕉布に制作技術を確立し、展開していったかに焦点を当てている。

 沖縄県国頭郡大宜味村喜如嘉に生まれた平良敏子は、岡山県倉敷市で染織に関する基礎的な技術を学んだのち、戦後、故郷に帰り芭蕉布の制作に取り組んだ。しかし、マラリアの蔓延防止を理由に米軍によって糸芭蕉の畑は焼き払われており、苗を育てるところからスタート。3年かけて育て上げることに成功した。

平良敏子
展示風景より

 その後、平良による真摯な姿勢と高い技術と表現力が周囲に受け入れられ、1963年には「芭蕉布織物工房」を開設した。74年には仲間たちと喜如嘉の芭蕉布保存会を立ち上げ会長に就任。そして同年には、喜如嘉の芭蕉布が国の重要無形文化財に指定され、平良がその保持者として認定された。

 展示室では、古典の研究を重ねた平良による確かな技とその作品、そして、既存の芭蕉布のイメージを一新するようなデザイン性の高い芭蕉布もあわせて展示されている。

展示風景より
展示風景より、手前は煮綛(ニーガシ)芭蕉布 裂地《九年母地 花織》

 第3章では、1975年に重要無形文化財の保持団体として認定を受けた「芭蕉布織物工房」が、いかにこの技術を守り継承してきたかを近年の作品を通じて紹介している。

展示風景より

 喜如嘉の芭蕉布を未来に伝えていくため、同団体は養成事業の受け皿としての役割を担い、現在も精力的な活動を続けている。展示作品に現代の生活スタイルにあわせてつくられたものや、古典を応用した複雑な文様が見られるのもこの第3章ならではだ。

展示風景より、芭蕉布 琉装着物《藍型 水仙に鶴亀文様》(2024)
展示風景より、能装束《黄地 絽織》(2024)

 ほかにも、芭蕉布の良し悪しにも大きく影響する、糸づくりに関する資料もコラムとして展示されている。展示作品とともに、その工程への理解を深めることで、喜如嘉の芭蕉布がどのように制作され、どのような人たちによって守り伝えられてきたかといったリアルな視点も得ることができるだろう。

 平良敏子というひとりの人物を発端に守り受け継がれ、現代の文脈に沿ってアップデートされていくこの「喜如嘉の芭蕉布」。「芭蕉布とはなにか」「沖縄ならではの気候や文化がどのように反映されているのか」「芭蕉布の現在地はどのようなものか」という観点から、作品を味わうことをおすすめしたい。

展示風景より

 なお、同館では夏季期間中、様々なイベントが開催される。夜間開館や工芸に関する映像資料の上映会など、魅力的な企画が目白押しだ。詳細はぜひ公式ウェブサイトをチェックしてほしい。