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2026.10.21

「種と根っこ―都市の耕し方」(東京オペラシティアートギャラリー)開幕レポート。都市のなかで、自然とどう生きるか

都市と自然、人間と環境との関係を問い直すグループ展「種と根っこ―都市の耕し方」が、東京オペラシティアートギャラリーで開幕した。現代美術、建築、ファッションなど異なる領域で活動する10名の作家が参加し、植物や土、生命の循環などをテーマに多様な表現を展開する。会期は12月20日まで。

文・撮影=王崇橋(編集部)

展示風景より
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 「種と根っこ―都市の耕し方」が、東京・初台の東京オペラシティアートギャラリーで開幕した。会期は12月20日まで。企画は同館キュレーターの能勢陽子、福島直、瀧上華。

 本展は、都市に暮らす人々と自然環境との関係を問い直すグループ展。現代美術、建築、ファッションなど異なる領域で活動する10名のアーティストが参加し、植物や土、水、生態系、循環などをテーマとした作品を、新作を交えて紹介する。

 開幕に先立つ内覧会で能勢は、「『種と根っこ』というタイトルには、植物や自然環境だけでなく、人間の移動や変容、アイデンティティやルーツ、創造の種が根付き、展開していく過程など、様々な意味を込めた」と説明した。

 また、能勢は本展が自然の美しさだけを扱うものではないことも強調する。参加作家たちは、食べる、排泄する、住むといった身近な営みを出発点に、自然との関係を探っている。そこには、生物同士の捕食関係や、人間によって変えられてきた環境、土地の喪失といった問題も含まれている。

植物を通して見えてくる、都市と人間の営み

 会場では、10名の作家による作品が、都市の共同菜園や様々な植物が共存する庭のように、緩やかにつながる構成となっている。

 浅野友理子は、各地を訪ねて植物と人々の暮らしとの関係を調査し、土地に受け継がれてきた知恵や記憶を絵画にしてきた。本展のために制作した《落果の営み》(2026)では、東京オペラシティ周辺にも植えられているヤマモモを題材としている。都市では地面に落ちた実が地面や衣服を汚すものとして扱われるいっぽう、地域によっては季節の食べ物として親しまれてきた。浅野は、こうした植物に対する人間の異なるまなざしに着目する。

 また、イヌビワと、その受粉を担うイヌビワコバチとの相互依存関係など、植物と昆虫の複雑な生態も描かれている。身近な植物を入り口に、人間だけでは完結しない自然界の関係性を浮かび上がらせる作品だ。

展示風景より、右の壁面は浅野友理子の絵画作品群。奥の壁面は今村文《温かい家》(2015/2026)

 今村文は、水彩で描いた花を切り抜き、コラージュすることで、実在しない花々の世界を生み出す。《温かい家》は2015年に制作した作品を、約10年を経て再構成したもの。赤い花に囲まれることで感じた、身体の内側や母胎のような安心感が制作の出発点となっている。

手前は今村文《裏庭の温かい家》(2026)

 䑓原蓉子は、都市の隙間に生きる植物や動物を観察し、そこから生じる感情をタフティング(電動工具を使って布に毛糸を打ち込み、パイル・毛足をつくって絵や模様を描く技法)によるテキスタイル作品へと展開する。本展では、日々の食事で出たタマネギの皮で染めた糸を編み続ける新作も紹介。編み目の密度や長さ、色の違いには、その日の精神状態や生活の時間が刻まれている。

右から䑓原蓉子《目がまわる》(2024)、《食べました》(2025)
手前は䑓原蓉子《2025年9月》(2025)、《2025年10月》(2025)、《2025年11月》(2025)、《2025年12月》(2025)、《2026年1月》(2026)、《2026年2月》(2026)

 鈴木初音は、植物を育てることと絵画制作を結びつけた。自ら食用に栽培したキクイモの茎から髄を取り出し、粉砕・乾燥させて支持体を制作。そこに熱を加えて焦がしながら描くほか、川砂や牡蠣殻からつくった石灰なども画材として用いている。

鈴木初音の作品展示

 今回の展示では、水辺の生物や植物の姿を思わせる作品によって空間を構成した。自ら育てた植物を絵画の素材へと変える鈴木の実践からは、生きることと制作することが地続きであるという感覚が伝わってくる。

失われる土地と、循環する生命

 植物や土をめぐる表現は、地域社会の変容や、人間によって改変されてきた環境の問題へとつながっていく。

 三重県伊賀市の島ヶ原を拠点とする岩名泰岳は、人口減少や耕作放棄地の増加、空き家の倒壊など、故郷の風景が変わっていく過程を絵画にしてきた。会場に並ぶ絵画やドローイングには、かつて人が暮らしていた家の柱や道端の石仏、墓石など、土地に残された痕跡が描かれる。

壁面の作品は岩名泰岳《くさば》(2026)、《楽園》(2022)

 《浄土》(2026)は、都市から運ばれた生ごみを発酵させ、堆肥に変える施設での経験をもとに制作された。失われるものをたんなる消滅としてではなく、分解や発酵を経て別のものへと変化する循環のなかで捉えようとしている。

 加藤美佳の作品にも、廃棄物から新たなものを生み出す視点が見られる。2006年に制作活動を中断し、24年に新たな作品群を発表した加藤は、家庭から出る生ごみや廃材を素材として使用。本展では、戦争によって荒廃した世界に取り残された子供が、身近にあるものを使って遊び道具や居場所をつくるという想像から生まれたインスタレーションを展示する。

加藤美佳《A Blanket for All of Us》(2024)、《Grandma, Grandma, I'm Making a Meadow》(2026)の展示風景

 保良雄は、福島をはじめとする各地でのフィールドワークを通じて、人間と土地、物質との関係を探ってきた。本展では、メントールを多く採取するために品種改良されてきたハッカに着目する。

 ハッカは自然に存在する植物であると同時に、人間の生産活動によって形質を変えられてきた存在でもある。また、北海道から運んだ土のブロックの上にガラスを敷き、複数のオブジェクトを配置した展示空間では、入室を制限することで、福島第一原発事故後の帰還困難区域と、一時帰宅という状況を想起させる。植物の品種改良という問題から、土地へのアクセスや、そこに暮らしてきた人々と環境との関係へと問いが広がっていく。

保良雄《distilled #restriction》(2026)

建築、ファッション、身体から考える「都市の耕し方」

 本展では、建築やファッション、パフォーマンスの実践も重要な位置を占めている。建築家の板坂留五は、会場内に茶色いブロックを積み上げ、鑑賞者が腰を下ろしたり、作品を眺めたり、トークイベントを行ったりできる広場のような空間をつくった。ブロックには、以前の展示で使われた発泡スチロールを再利用している。

手前は板坂留五《設え》(2026)

 また、音楽家の櫂快太郎との協働によって、30分ごとに音が響く仕組みも取り入れた。鐘の音や虫を思わせる音、労働歌のような声が、美術館の静かな空間に、共同で働き、暮らす場所のリズムを持ち込む。

 第1回前橋国際芸術祭2026にも参加したファッションデザイナーの山縣良和は、前橋で展開してきた「行列」をテーマとするインスタレーションを本展へとつなげた。子供の成長や教育、戦争といった社会の問題から、衣服や繊維の再生、生命の循環へと展開する作品群が、会場を横断するように配置されている。

山縣良和《Where the story ends –つづくよ つづく–》(2026)
山縣良和《Where the story ends –つづくよ つづく–》(2026)

 西條茜は、身体の内部や臓器を思わせる大きな陶の造形物を展示。作品には水が満たされ、パフォーマンスでは、複数の人々がそれらを動かし、空洞に声や息を響かせ、器から汲んだ水を保良のハッカに与える。異なる作家の作品が、身体的な行為を通じて結びつく試みだ。

西條茜《The Melting Laborers #1-3》(2024)、《The Jar People》(2026)の展示風景

 都市と自然、人間とそれ以外の生物を、対立するものとしてではなく、複雑に関係し合う存在として捉える本展。そこで問われるのは、失われた自然へと単純に回帰することではなく、すでに人間の活動によって変化した環境のなかで、いかに他者や土地との関係を築き直していくかということだ。

 「種と根っこ」というタイトルが示すように、作品を通じて都市の足元に目を向けることは、私たち自身が根を張る場所や、そこで営まれる生活を考え直すことにもつながるだろう。