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2026.10.2

「スウェーデン・テキスタイル 暮らしと自然に息づく北欧デザイン」(世田谷美術館)開幕レポート。デザインに息づくスウェーデンの美学を読み解く

東京の世田谷美術館で、「スウェーデン・テキスタイル 暮らしと自然に息づく北欧デザイン」展が開幕した。会期は11月15日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=三澤麦(編集部)

「第1章 モチーフが織り成す物語」の展示風景
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 東京の世田谷美術館で、「スウェーデン・テキスタイル 暮らしと自然に息づく北欧デザイン」展が開幕した。会期は11月15日まで。担当は加藤絢(同館学芸員)。

 長い冬を過ごす北欧諸国にとって、室内に彩りを与えるインテリアデザインは、日々の生活を心地よく過ごすための大切な手段だ。とりわけ、自然や暮らしに密接したモチーフ、明るく華やかな色彩、親しみやすいパターンをもつテキスタイルは、現地の人々の日常に喜びを与えてきた。

 いっぽうで、日本においてそれらは「北欧デザイン」として一括りにされがちで、注目されるのは「フィンランドのテキスタイル」や「デンマークの家具」であることが多い。

フィンランド・テキスタイルを見上げる。自然や暮らしのモチーフから実験的な幾何学模様まで、同地のデザインの様相をダイジェストで見ることができる

 本展がスポットを当てるのは、これまで深く知られてこなかった「スウェーデンのテキスタイル」だ。企画のキーパーソンとなったのは、同地の個人コレクターであるサラ・アクステイリウス。10代の頃からスウェーデン・テキスタイルの魅力に惹かれ、2000点にも及ぶ膨大なヴィンテージ・コレクションを築いてきた人物であり、書籍の出版などを通じて現地でも大きな話題を呼んでいる。

 会場では、展示作品の総数200点のうち、およそ半数がサラのコレクションで構成。プロローグとエピローグ、そして全3章にわたってその魅力を紐解く内容となっている。

スウェーデン・テキスタイルの夜明け

 スウェーデンにおけるテキスタイル産業の発展は、18世紀頃に遡る。家庭内での手工業から始まった取り組みは、やがて紡績業へと成長し、産業革命へと至った。戦前まではヨーロッパからの輸入が主流であったが、戦時中の国際貿易縮小に伴い、国内デザインの開発へ注力するようにシフトしていく。黄金期を迎えるのは1950〜70年代であり、本展ではこの時代のデザインを数多く紹介している。

プロローグより、エルサ・グルベリのデザインアーカイブなど
暮らしのなかで親しまれてきたことを伝える展示の仕立てにも注目

 プロローグ「変わりゆく気配のなかで」では、20世紀前半の産業発展前夜に活躍した3組の女性たち、エルサ・グルベリ(1886~1984)、エストリッド・エーリクソン(1894~1981)、ゴッケン・ヨブス(1901~61)とリスベット・ヨブス(1909~62)の姉妹を紹介している。彼女たちはデザイナーでありながら起業家としても手腕を振るい、国内のテキスタイル産業を大きく飛躍させた。

 ここでは、スクリーン・プリント工房の設立により表現の幅を広げたエルサの取り組み、色鮮やかで有機的なパターンを展開したエストリッドの作品、そして家族経営の工房でスウェーデンならではのモチーフを繊細に描いたヨブス姉妹の作品群を、当時の写真資料とともに紹介している。

「第1章 モチーフが織り成す物語」の展示風景
動物をモチーフにしたデザインにも、ストーリー性のあるものからシステマチックに構成されたものまで様々

 第1章「モチーフが織り成す物語」では、スウェーデン・テキスタイルに親しんでもらうため、「草花」「果物」「動物」「幾何学」「日本」「暮らし」「物語」「サマーバカンス」という8つのテーマ別にデザインを分類して展示している。身近な自然や生活様式、愛らしい動物といった具象的なモチーフから、抽象パターンや日本的イメージを落とし込んだ作品までじつに多彩であり、視覚的にも楽しませてくれる空間となっている。

 ここから伺えるのは、スウェーデンの風土に根差す「自然への敬意」「伝統的な装飾性の継承」「モダニズムに基づく機能美への志向」といったものづくりの姿勢だ。グラフィックな意匠の奥には、つくり手が暮らす土地の思想や哲学が息づいている。

「第2章 デザインを紡ぐ人々」の展示風景
手前のアストリッド・サンペによる《パーションス・クリッドスコープ》(1955)は、いまなお愛され続けているテキスタイルデザイン。陶芸家シグネ・パーション=メリーン(1925〜2022)によるスパイスボトルが着想源となっている
中央はヴィオラ・グローステン《ウーンプ(魅力)》(1952)。近似色を隣り合わせにする配色は、同地においてタブー視されていた。本作は非常に実験的なデザインであると加藤学芸員は語る

 続く第2章「デザインを紡ぐ人々」では、戦時下で国内テキスタイルデザインを牽引した重要デザイナー6名に注目し、イェータ・トレーゴード(1904〜84)、アストリッド・サンペ(1909〜2002)、ヴィオラ・グローステン(1910〜94)、イーネス・スヴェンソン(1932〜2005)、スヴェン・フリステット(1940〜2025)、チキ・マットソン(1947〜)の個性あふれる作品を資料とともに取り上げる。それぞれの独創性を堪能できる、見応えのある章だ。

 マリメッコに代表されるフィンランドのデザインと比べると、スウェーデンのデザインにはどこかシステマチックな構造美が際立つ。そのいっぽうで、従来の配置や配色のルールを飛び越えた実験的な作品が見受けられる点も興味深い。

黄金期を迎えるスウェーデン・テキスタイル

 スウェーデンで近代的なインテリア様式への関心が高まったきっかけは、1930年のストックホルム博覧会とされる。さらに50年代に入ると、紡績会社が「アートディレクター」としてデザイナーを起用する事例が増加し、高品質なテキスタイルデザインが次々と生み出された。以降、スウェーデンは厳密な機能主義から脱却し、より鮮やかで洗練された様式へと進化を遂げていく。

「第3章 暮らしのなかのテキスタイル」の展示風景

 第3章「暮らしのなかのテキスタイル」では、こうして花開いたテキスタイルデザインがインテリアやファッションへと展開していく様子を紹介。北海道東川町が所蔵する同時代の家具や陶磁器に加え、サラが収集したカラフルな衣服も展示されている。

「エピローグ 未来へ受け継ぐ」の展示風景
宇都宮琴音によるデザイン

 エピローグ「未来へ受け継ぐ」では、テキスタイル文化の保存・普及と未来へ向けた取り組みを紹介。各地方の染織工業における技術の向上・継承を目指す「ハンドアルベーテス・ヴェンネル(手工業友好協会)」(1874年設立)や、テキスタイル産業の黄金期に数々のデザイナーを輩出した教育機関「アンダース・ベックマン・スクール」(現 ベックマン・デザインスクール、1939年開校)、テキスタイル文化の発信拠点である「テキスタイル・ファッション・センター」(2014年設立)、老舗インテリア・ブランド「スヴェンスク・テン」(1924年創業)などの活動をたどる。さらに同章では、スヴェンスク・テンで2018年に商品化された日本人アーティスト・宇都宮琴音のアイテムも展示されている。

 長い冬を過ごす北欧において、室内の暮らしがいかに重要であったかが感じられるとともに、テキスタイルを通じてスウェーデンの文化や生活美学を読み解くことができる展覧会となっている。

 なお、展示室外の長い廊下には、本展のプレワークショップ「みんなで描こう きぬたの森の夏休み(ソンマルロヴ)」で宇都宮と子供たちが制作した巨大な壁画が展示されており、こちらも見逃せない。

宇都宮と子供たちとのワークショップで制作された壁画作品