2026.10.2

イギリスの15の国立博物館・美術館、今後も入館無料に。海外観光客も対象

イギリス政府が、大英博物館やテート、ナショナル・ギャラリーなど15の国立博物館・美術館について、今後も入館無料を維持すると発表した。この25年間で対象施設の年間来館者数は約2倍に増加し、海外からの観光客も引き続き無料となる。

ナショナル・ギャラリーの様子 Photo © David Levene; Art Fund 2026
前へ
次へ

 イギリス政府が、国内15の国立博物館・美術館について、今後もすべての来館者を対象に入館無料を維持する方針を発表した。海外からの観光客に対する入館料も導入しない。2001年に始まった国立博物館の無料化政策が今年12月に25周年を迎えるのを前に、その継続を明確にしたかたちだ。

 デジタル・文化・メディア・スポーツ相のリサ・ナンディが9月28日、Art FundとThe Cultural Policy Unitがテート・リバプールで開催したイベントで発表した。対象となるのは、大英博物館、ナショナル・ギャラリー、テート、ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)、ナショナル・ポートレート・ギャラリー、自然史博物館、ウォレス・コレクションなど15の国立博物館・美術館だ。

25年間で来館者数は約2倍に

 イギリスでは2001年12月1日、当時の労働党政権のもとで国立博物館・美術館への無料入館制度が導入された。その後も歴代政権によって維持され、文化へのアクセスを広く保障する同国の代表的な文化政策のひとつとなっている。

 Art Fundなどが今回発表したデータからは、25年間で同制度が来館者数の拡大に大きく寄与してきたことがうかがえる。15の国立博物館・美術館への年間来館者数は、1999〜2000年度の2277万人から2025〜26年度には4467万人へと96パーセント増加。25年には、イギリスの主要観光施設団体ALVA(Association of Leading Visitor Attractions)加盟施設の来館者数トップ10のうち、6施設を無料の国立博物館が占めた。

 無料入館は、インバウンド観光においても重要な役割を担っている。24年にイギリスを訪れた海外旅行者のうち、1182万人が旅程に博物館または美術館への訪問を含めており、これは訪英旅行全体の30.3パーセントに相当する。ロンドンを休暇目的で訪れた旅行者に限れば、その割合は57.9パーセントに達した。

 いっぽう、無料化は必ずしも博物館の収益機会を減らしているわけではない。高い来館者数を背景に、各館は企画展、ショップ、飲食、寄付などから収益を確保しており、2024〜25年度の15館の自己収入は計5億6300万ポンドに達したという。

「すべての人に、永遠に無料で」

 ナンディは今回の発表に際し、博物館は人々に共有された歴史を伝え、日常の枠組みを超えて世界を見る機会を与える場所だとしたうえで、「だからこそ、すべての人がアクセスできるよう、永遠に無料でなければならない」とコメントした。

 文化界からも決定を歓迎する声が相次いでいる。テート暫定館長のカリン・ヒンズボーは、誰もが国の文化的コレクションにアクセスできるイギリスの制度は世界から「羨望と称賛」を集めていると指摘。大英博物館館長のニコラス・カリナンも、1753年の設立時から同館が「あらゆる人」に無料で開かれることを理念としてきた歴史に触れ、今回の決定を歓迎した。

テート・モダン 2015 © Tate Modern Photography

 アーティストからも、ブリジット・ライリーやレイチェル・ホワイトリードらが支持を表明。ライリーは、気軽に美術館へ立ち寄って絵画を見ることのできる環境について、「心と精神をリフレッシュできることの計り知れない価値」を強調している。

日本では国立美術館が所蔵作品展を値上げ

 こうしたイギリスの動きとは対照的に、日本では国立美術館が所蔵作品展および上映会の観覧料金を改定する。2026年10月以降に東京国立近代美術館、国立工芸館、京都国立近代美術館、国立映画アーカイブ、国立西洋美術館、国立国際美術館の6施設で開始となる展示会期が対象となる。一般料金では、東京国立近代美術館や国立西洋美術館の所蔵作品展が500円から1000円へ、国立国際美術館が430円から1000円へ、国立映画アーカイブが250円から500円へと改定される。なお、高校生以下、18歳未満、65歳以上、障がい者手帳所持者と付添者1名の無料措置は継続される。

 国立美術館は値上げの理由として、所蔵作品の展示・上映の充実に加え、デジタル対応やアクセシビリティ向上などに必要な投資を挙げる。また近年、物価高騰やエネルギー価格の上昇、展示にかかわる輸送・警備・造作などの経費が増加していることも背景にあるとしている。

 文化施設の運営コストが上昇するなか、公共コレクションへのアクセスをどのように維持し、その費用を誰が負担するのか。イギリスが無料入館制度の継続をあらためて打ち出したいっぽう、日本では観覧料が上昇傾向にあり、両国で異なる対応が示されている。