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2026.9.19

「愛のカタチ ー幻の春画《稚児草紙》公開ー」(福田美術館)開幕レポート。幻の絵巻が初の一般公開へ

京都・嵐山の福田美術館で「愛のカタチ -幻の春画《稚児草紙》公開-」展が開幕した。会期は2027年1月17日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=大橋ひな子(編集部)

《稚児草紙》(18〜19世紀)紙本着色(一部)
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 京都・嵐山の福田美術館で「愛のカタチ -幻の春画《稚児草紙》公開-」展が開幕した(18歳未満は入場不可)。会期は2027年1月17日まで。監修は京都芸術大学准教授の石上阿希、担当は同館学芸課長の岡田秀之。

 春画とは、男女あるいは同性同士の親密な姿を描いた絵画を指す。江戸時代に木版画技術の発達とともに普及・流行したが、その起源は平安時代にまで遡る。明治時代以降は「わいせつ物」として規制された歴史もあるが、2013年にロンドンの大英博物館で開催された「Shunga: Sex and Pleasure in Japanese Art」展を契機に、江戸の美意識と高い技術を伝える貴重な文化遺産として再評価が進んでいる。

 本展は、画家たちが「春画」で表現してきた愛と欲望、人が人を求める感情の歴史をたどる企画展だ。春画といえば江戸時代の版画が想起されがちだが、会場では14世紀初めに制作されたとされる現存する最古の春画も紹介されている。なかでも、稚児と僧侶らの親密な関係を描いた絵巻《稚児草紙》は、本展が初の一般公開となる。また本作を中心に、谷文晁や月岡雪鼎、葛飾北斎らが手がけた春画の数々が一堂に会する。

 今回出展される全43点は、版画ではなく基本的に1点ものの肉筆画だ。注文主の要望に応じて制作された肉筆画ならではの画風に着目すると、春画の新鮮な側面が見えてくる。

第1章「描かれた愛のカタチ」

 展示は全3章で構成されている。第1章「描かれた愛のカタチ」では、『源氏物語』から浄瑠璃、浮世草子まで、愛にまつわる物語を主題とした作品を展示する。ここではあえて春画を出さず、導入として「かたちのない愛」をいかに表現するかというテーマのもと選ばれた作品が並ぶ。

第1章「描かれた愛のカタチ」の展示風景
上村松園《雪女》(1921) 絹本墨画淡彩

 例えば、室町時代に制作された《源氏物語図扇面屏風》は、左右の隻に計54枚の扇面が貼られた屏風だ。長らく個人コレクションとして保管されていたが、2019年に同館の所蔵となり、27年ぶりに一般公開された。このほか、上村松園や鏑木清方による近代日本画、江戸の遊里を描いた美人画など、時代を超えた多様な「愛の表現」を観賞できる。

第2章「幻の春画《稚児草紙》公開」

 第2章「幻の春画《稚児草紙》公開」では、本展の目玉であり、2025年に同館のコレクションに加わった《稚児草紙》(会期中巻き替えあり)が初公開されている。長らく醍醐寺に保管されてきた14世紀初めの作品で、歴史上極めて重要な「幻の絵巻」だ。なお、江戸時代以前の古春画である《小柴垣草紙》《稚児草紙》《袋法師絵巻》は「三大性愛絵巻」と称される。

《稚児草紙》(18〜19世紀)紙本着色(一部)

 《稚児草紙》は、そのなかでも男色の性愛を描いた最古の絵巻である。全5章の物語からなり、会場では詞書の現代語訳が添えられている。男色を主題とした絵巻の制作は非常に珍しいが、誰がどのような経緯で発注したのかはいまだ解明されていない。

 本作は醍醐寺のなかに長らく保管されていたので、写本もほとんどなく、一般公開されることもほぼなかった。当時から見ることができる者もごく一部に限られており、今回こうして一般公開されたことは大変貴重な機会と言えるだろう。

谷文晁《小柴垣草紙》(1828)絹本着色(一部)

 また、嵐山の野宮神社にゆかりのある《小柴垣草紙》は、男女の営みを描いた日本最古の春画のひとつだ。伊勢神宮へ下向する前に身を清めるため嵯峨の野宮神社に滞在していた斎宮・済子女王と、警護の武士・平致光との密通という、当時のスキャンダルを題材としている。計10部ほど写されたと伝えられており、本展では谷文晁が1828年に写した一品が展示されている。

月岡雪鼎《春画》(18世紀)絹本着色(一部)

 そのほか、公家・武家・町人など様々な身分の人々が登場する月岡雪鼎《春画》も初公開された。春画はそのテーマや構図に目を奪われがちだが、着物の裏地の書き込みや髪・手足の精密な表現など、絵師たちの卓越した技術力も見逃せない。

 あわせて鮮やかな色彩にも注目したい。春画は限られた場所でのみ鑑賞されることが多かったため保存状態が良いものが多い。通常、絵巻は巻き直しの摩擦などで色彩が擦れやすいが、本作には当時の鮮明な絵具がそのままに近い状態で残されている。

第3章「葛飾北斎《浪千鳥》」

 第3章「葛飾北斎《浪千鳥》」では、北斎が70代で手がけた春画の傑作《浪千鳥》全12図が一挙に公開されている。江戸春画の最高峰と称される本作は、輪郭線のみを木版で刷り、そこに手作業で濃密な彩色を施している。背景には雲母(うんも)の粉を用いた「雲母摺り」で光沢を加えた贅沢な作風が特徴だ。画面いっぱいに描かれた身体と、北斎ならではの大胆な構図が印象的だ。

第3章「葛飾北斎《浪千鳥》」の展示風景

 近代以降の一時期には規制の対象となった春画だが、描かれた当時は「笑い絵」とも呼ばれ、ユーモアや滑稽さ、そして高い絵画技術を楽しむ娯楽として人々のあいだで親しまれていた。幻と称された平安期の肉筆画をはじめ、日本古来の豊かな春画文化の奥行きを、京都で体感できる貴重な機会となっている。