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2026.9.17

特別展「月と星と―美術がつなぐとき」(千葉市美術館)開幕レポート。歴史、天文、アートを通じて新たな未来を想像する

千葉市美術館で、千葉開府900年記念特別展「月と星と―美術がつなぐとき」が開幕した。会期は11月23日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=三澤麦(編集部)

1階のさや堂ホールに展示された三沢厚彦による《Animal 2023-01》(2023)
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 千葉市美術館で、千葉開府900年を記念した特別展「月と星と―美術がつなぐとき」が開幕した。会期は11月23日まで。担当は松尾知子(同館副館長)、森啓輔(同館学芸員)。

 千葉の街の歴史は平安時代まで遡る。大治元年(1126)、武将・平常重が現在の千葉市中央区亥鼻付近に本拠地を移し、「千葉」を名乗ったことに始まる。2026年はその節目から数えて、ちょうど900周年に当たるのだ。

 千葉開府900年を記念する展覧会で、なぜ「月と星」が題材に選ばれたのか。その背景には、この地を治めた千葉氏が北極星や北斗七星を神格化した「妙見(みょうけん)」を厚く信仰し、一族の結集軸に据えていた史実がある。現在も市内には妙見を祀る神社が数多く点在し、街のアイデンティティをかたちづくる要素として語り継がれてきた。

 本展は、この地域に根ざした歴史と天文学の視点をアートの文脈へとつなぎ、現在、そして未来を見つめ直す試みだ。会場は全3部の構成。第1部では千葉と妙見信仰にまつわる歴史資料を、第2部では東西の天文資料を公開。そして第3部では、「宇宙」「月星」「地球」をテーマに表現を展開する現代作家9組の作品やコレクションの一部を展示し、総数180点におよぶ豊かな世界を立ち上げている。

 第3部への出展作家は、青木野枝、植松琢麿、川内理香子、髙田安規子・政子、三沢厚彦、宮内由梨、宮島達男、渡辺望、渡辺泰子。

妙見信仰と千葉の成り立ち

 第1部「『千葉開府900年』から『月と星と』へ──千葉妙見と千葉のまち」は、本展の導入にあたる。今日に至る街の発展において、武家・千葉氏や妙見信仰がどのように息づいてきたかを多彩な資料から紐解いていく。1889年の市制町村制の施行後、街の繁栄を願う人々は1126年の開府に着目し、1926年には「千葉開府八百年祭」を盛大に執り行った。2026年の900周年に至る道筋は、すでにこのときから始まっていたことがうかがえる。

第1部「『千葉開府900年』から『月と星と』へ──千葉妙見と千葉のまち」の展示風景
「千葉開府八百年祭」に関する資料

 また本章では、千葉氏と妙見菩薩との出会いや関係性を描いた《千葉妙見大縁起絵巻》(室町~江戸時代)が28年ぶりに公開されているほか、千葉市立郷土博物館が所蔵する日本画家・田岡春径による旧壁画《妙見尊出現之図》(1947)も修復を経て初お披露目となった。郷土博物館の奥深くに眠っていた貴重な文化財が一堂に会する点も見逃せない。

《千葉妙見大縁起絵巻》(室町~江戸時代)
田岡春径《妙見尊出現之図》(1947)

 続く第2部「星の信仰とかたち──”お城のプラネタリウム”の知られざるコレクションを起点として」では、同館から600メートルほど離れた亥鼻城跡に位置する千葉市立郷土博物館の所蔵品に着目する。同館の最上階には、開館当時よりプラネタリウムが設置され、老朽化に伴い千葉市科学館の新プラネタリウムに役目を譲るまでの約40年間、「お城のプラネタリウム」として市民に親しまれてきた。その一環として、東西の天文資料およそ100点も大切に保管されていたが、これまで全貌が明かされる機会は少なかった。

第2部「星の信仰とかたち──”お城のプラネタリウム”の知られざるコレクションを起点として」の展示風景
東洋の天文資料を展示するエリア

 ここでは、東洋と西洋における天文観の成り立ちや、星々への関心の移り変わりを検証する。江戸時代まで用いられた中国初の天文図をはじめ、西洋の天文書、そして絵師/蘭学者として知られる司馬江漢(1738~1818)が東西の知見を融合させて描いた《天球図・天球全図》(寛政8年、1796頃)など、稀少な資料が並ぶ。

司馬江漢《天球図・天球全図》(寛政8年、1796頃)

9組の作家が紡ぐ、未来の星図

 第3部「月星をめぐるアートの現在、そして未来──現代美術コレクションと9名(組)のアーティストが描く星座」では、20世紀以降の同館コレクションと現代作家による新作・近作を交え、展示室や館内各所に広大なアートの星図を描き出す。

 出展作家の作品群は、「芸術と科学技術の交差」「神話、伝承の現代的表現」「光、エネルギーの彫刻」「宇宙への想像と創造」という4つの軸で構成されている。

宮島達男《地の天》(1996)
宮島達男《地の天》(部分、1996)

 例えば「芸術と科学技術の交差」では、1996年に同館に収蔵され、「星をさがして」展(千葉市美術館、2007)に出品された宮島達男の《地の天》(1996)が修復を経て約30年ぶりに再展示された。また、身近な素材を用いて空間や時間の「スケール(尺度)の変換」を試みる髙田安規子・政子による作品群も登場。「人類にとって宇宙を見つめること」の意義について問いかける。

髙田安規子・政子による作品群。壁面に投影されるのは初期の映像作品《A Monthly Moon》(2006)、望遠鏡の作品は《The tiers of spacetime》(2026)
髙田安規子・政子《A story of Polaris across 25,772 years》(2026)

 「神話、伝承の現代的表現」においては、三沢厚彦、宮内由梨、川内理香子らの表現を見ることができる。三沢による空想上の生物「キメラ」をモチーフにした新収蔵作品をはじめとした、星座や人の想像力にまつわる作品が展示室や1階のさや堂ホールに並ぶ。

1階のさや堂ホールに展示された三沢厚彦による《Animal 2023-01》(2023)。このホールは1927年に川崎銀行千葉支店として建設され、95年の美術館開館に伴い館の中核として保存。現在も展示やイベントなどで使用されている
三沢厚彦の作品群が並ぶ展示室

 宮内は本展のための新作を出展。妙見信仰と、近年自身が滞在したインドネシアでの知見を重ね合わせ、星々への信仰に透ける人々の欲望や歴史の陰影をすくい取る。川内はかつて人類が夜空という暗闇に星座を見出したように、キャンバスの上に像を立ち上げていく。空間に点在する絵画やネオン管は、あたかも夜空の星々のようであった。

宮内由梨《星と領土》(2026)
宮内由梨《星と領土》(部分、2026)
川内理香子による作品群

 「光、エネルギーの彫刻」では、鉄を主な素材とする青木野枝による新作彫刻《光体》(2026)が存在感を放つ。重量のある構造体が宙に浮かぶその姿は、巨大なエネルギーを宿して漂う惑星を想起させる。植松琢麿はポップコーンを模した陶の彫刻を通じ、宇宙のもつ膨大なエネルギーをユーモラスに表現した。また、草間彌生や野村仁などの20世紀を代表する作家らの作品との共鳴も試みている。

展示空間の床に配置されるのは植松琢麿による《SCULPTOR'S SNACK - GROUND》(2026)

 「宇宙への想像と創造」では、渡辺泰子と渡辺望を取り上げる。SFに強い関心を寄せる渡辺泰子は、地球外知的生命体探査(SETI)に着想を得たフェルト作品や、北極星信仰にまつわる映像作品を発表。渡辺望は、北斗七星になぞらえて選んだ7つの石を館内各所に配置するインスタレーションを構築した。5階エレベーターホールにある巨大写真《Can a mere stone be the moon?(たんなる石ころは月になり得るのか?)》(2026)も見逃せない。館内を巡りながら星々としての石に出会う体験を楽しんでほしい。

渡辺泰子の展示風景。左から《Dear outside》(2017)、《A uncertain star》(2026)
渡辺望による「Seven Stones」シリーズのうちのひとつ
渡辺望《Can a mere stone be the moon?》(2026)

 地域が培ってきた歴史や信仰、天文資料、そして現代における最前線の表現が織りなす風景は、鑑賞者にとって現在地を示すとともに、過去から未来へとつながる大きな視線の広がりを提示してくれる。千葉開府900年というスケールを表現する密度の高い展覧会であった。