2026.9.4

皇居三の丸尚蔵館が11月3日にグランドオープン。展示面積8倍、若冲《動植綵絵》全30幅も一堂に

皇居東御苑内にある皇居三の丸尚蔵館が、長年にわたる整備を終え、11月3日にグランドオープンを迎える。皇室に受け継がれてきた約6300件の文化財を守り、研究し、公開する同館。全面開館によって何が変わったのか。オープンに先立つ報道内覧会から、その全貌をレポートする。

文=橋爪勇介(編集部)

皇居三の丸尚蔵館
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 皇居・大手門を抜けてすぐ、皇居東御苑の緑のなかに建つ皇居三の丸尚蔵館。2019年から続いてきた新施設の整備が完了し、いよいよ今年11月3日にグランドオープンを迎える。

皇室の至宝を受け継ぐ国立施設

 三の丸尚蔵館の歴史は、1989年、当時の天皇陛下(現・上皇陛下)と香淳皇后によって、皇室に代々受け継がれてきた絵画や書、工芸品、歴史資料などが国に寄贈されたことに始まる。その保存、研究、公開を目的として1993年11月に「宮内庁三の丸尚蔵館」が開館。その後も旧秩父宮家や旧高松宮家、三笠宮家などからの寄贈品が加わり、現在では約6300件(うち国宝10件、重要文化財13件)を収蔵するまでになった。

 収蔵品には、日本美術史を代表する作品が少なくない。王羲之の書を伝える国宝《喪乱帖》(7〜8世紀)、高階隆兼による国宝《春日権現験記絵》、国宝《蒙古襲来絵詞》(13世紀)、狩野永徳の国宝《唐獅子図屏風》(17世紀)、そして伊藤若冲の代表作である国宝《動植綵絵》(18世紀)など、まさに日本美術の「至宝」と呼ぶべき作品群である。

 いっぽう、旧施設は展示室が約160平米と小さく、膨大なコレクションを公開・保存するうえでスペースの制約を抱えていた。そこで19年から新施設の建設が開始され、23年10月には管理・運営が宮内庁から独立行政法人国立文化財機構に移管。同年11月には完成したⅠ期部分が「皇居三の丸尚蔵館」として一部開館した。東京、京都、奈良、九州の国立博物館に続き、国立文化財機構が運営する、5番目の国立施設だ。

 25年5月からは、Ⅱ期部分との接続工事などのため再び休館。今回、すべての整備を終えて全面開館を迎えることになった。新施設の総工費は約155億円。これは国際観光旅客税を充当することで賄われた。

大幅に拡張された展示・収蔵空間

 大手門側から館内へ入ると、その巨大な姿が現れる。外壁や内部には皇居建築にも用いられる緑青色の銅板屋根やひし形紋様があしらわれ、現代的でありながら、日本の伝統を感じさせる意匠となった。建築そのものにも、皇居という場所との連続性が意識されている。

皇居三の丸尚蔵館

 内部は吹き抜けの巨大なエントランスホールから、講堂や3つの展示室へとつながる設計。展示室は旧来の160平方メートルから1280平方メートルへと、約8倍の広さに拡張された。

展示室へ向かう通路。右手にショップ、左手に講堂が位置する 撮影:編集部

 今回初めて公開された展示室3は、もっとも巨大な空間となっており、3面が巨大なガラスケースで覆われている。掛軸から屏風、工芸、書跡まで、多様な形態を持つ皇室コレクションに対応できる空間となっている。

展示室3 撮影:編集部

 さらに全面開館にあわせ、展示室だけでなく、映像上映や講演会、ワークショップなどに対応する講堂のほか、ミュージアムショップも新たに誕生。収蔵品をただ「見せる」施設から、皇室と文化との関係を多角的に伝えるミュージアムへと、機能が広げられた。

講堂 撮影:編集部
ミュージアムショップが入る部屋 撮影:編集部

グランドオープンを飾る3つの特別展

 全面開館後には、読売新聞社・NHKとの共催となる3つのグランドオープン記念特別展が予定されている。

 第1弾となる特別展「皇室の至宝―美いづるところ」(11月3日〜27年1月24日)では、皇室が守り、受け継いできた日本美術の至宝190件を3期にわたり紹介。正倉院宝物を皇居内で初めて一般公開するほか、明治時代に皇室所有となった法隆寺献納宝物が一堂に会する。

 続く特別展「国宝 動植綵絵 いろどりの世界」(27年2月4日〜3月14日)では、伊藤若冲の《動植綵絵》全30幅が2021年の国宝指定後、初めて一斉に展示される予定だ。同作は、若冲が40歳を過ぎたころから10年程度をかけて描き継ぎ、数度にわたって京都・相国寺に寄進した30幅の花鳥画で、1889年に相国寺から皇室へ献上された。植物や鳥、魚、昆虫などを驚くほど緻密に描いた若冲の代表作として知られている。同作の一斉展示は三の丸では1993年以来であり、国内では2016年以来。本展では、全30幅が季節の順に展示される初の試みとなる。

 そして第3弾の特別展「日本の書の美1300年」(27年3月25日〜5月16日)では、同館が誇る約100件の書の名品を前後期にわけて展示。中国の書聖・王羲之の書を起点に、奈良時代から現代まで、書の流れを著名な作品によってたどるものとなる。

 なお、同館では今後もメディアと共催する特別展と、収蔵品を中心とした企画展を織り交ぜて開催していくという。

皇室と国民の架け橋となるミュージアムへ

 記者会見で島谷弘幸館長は、「私たちの使命は、悠久の時を経て伝えられた美術工芸品を次の世代に確実に継承すること。それらの品々を受け継いでいくことは大変なこと。今後も皇室と国民の架け橋として日本の文化芸術の発信地としての役割を担いたい」と意気込みを語った。

 皇居三の丸尚蔵館にとって、今回のグランドオープンはたんなる施設拡張ではない。皇室に受け継がれてきた文化財を、より広く社会へとひらかれた文化資産として保存し、調査研究し、公開していく同館の新たな段階の始まりであるとも言える。

 展示面積だけを見ても、旧館時代とはまったく異なる規模になった皇居三の丸尚蔵館。しかし、その真価が問われるのは、これまで公開の機会が限られてきた膨大なコレクションを、今後どのように社会へとひらいていくのかという点だろう。

 皇室によって長い時間をかけて守り継がれてきた美術工芸品。その歴史を次の時代へと手渡すための新たな拠点が、皇居東御苑にいよいよ完成する。