2026.7.16

エルメス財団「スキル・アカデミー」がSKWATで示す、素材と身体を結び直す実験

エルメス財団による教育・文化プログラム「スキル・アカデミー『金属に学ぶ、五感で考える:夏のオープンクラス』」が、東京・葛飾のSKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)で開幕した。本展は、金属を工業素材としてではなく、身体や自然、技術、芸術を結びつける存在として捉え直す試みだ。会期は8月16日まで。

SKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)での展示風景。床に置かれたのがPlayfoolの《(再)生命の模倣》(2024) 撮影:編集部
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 エルメス財団による教育・文化プログラム「スキル・アカデミー『金属に学ぶ、五感で考える:夏のオープンクラス』」が、東京・葛飾のSKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)で開幕した。会期は8月16日まで。

スキル・アカデミー「金属に学ぶ、五感で考える:夏のオープンクラス」展示風景
© Nacása & Partners Inc./ Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

 エルメス財団は2014年から、自然素材とそれに関わる職人技術をテーマにしたプログラム「スキル・アカデミー」を展開している。日本では2021年より活動を開始し、「木」「土」に続く第3のテーマとして、2025〜26年は「金属(メタル)」を取り上げている。

 その集大成となる「夏のオープンクラス」は、春の5日間に10組の専門家とともに実施された中高生向けワークショップの成果展示と、4組のアーティストによるグループ展「結合」を軸に構成されたもの。さらに会期中にはトークイベントやワークショップも多数開催され、鑑賞だけで終わらない体験型のプログラムとなっている。

会場そのものも「作品」に

 会場となるSKACに足を踏み入れると、まず印象的なのは展示空間そのものだ。ワークショップ参加者とDAIKEI MILLSによって、工事現場で使われる鋼製足場が建築の骨格として組み上げられ、無機質な金属構造が鑑賞者の身体感覚を刺激する。通常は仮設物として役目を終えれば姿を消す足場が、本展では作品と来場者をつなぐ舞台へと転換されている。「金属を学ぶ」というテーマを建築的なスケールで体現したものだ。

足場が特徴的な成果発表の展示 © Nacása & Partners Inc./ Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

 展示の中心となるのは、「結合」と題されたグループ展だ。ここで焦点となるのは、金属という素材そのものではなく、それが生命や身体、テクノロジー、自然とのあいだでどのような関係性を結び直すかという問いである。

 スペインを拠点に活動するレオノール・セラーノ・リヴァスは、植物に電気鋳造を施し、朽ちゆく有機物を金属の結晶が包み込む作品《花が見つかりそうなところ》(2026)を発表。植物は「第二の皮膚」をまとったような姿となり、生と無機物、時間と物質が混ざり合う不思議な存在へと変容する。金属はただの加工素材ではなく、地質学的な時間と生命の循環を可視化する媒体として立ち現れる。

レオノール・セラーノ・リヴァス《花が見つかりそうなところ》(2026) 撮影:編集部

 いっぽう、ダニエル・コッペンとマルヤマ・サキによるアート・デザインユニット・Playfoolは、金属の甲羅を持つカメ型ロボットを展示。周囲の環境や鑑賞者の存在に反応しながら自律的に動くこの作品は、触れようとする人間の身体と電子機器、そして目に見えない金属の働きを結びつける。テクノロジーとの関係性を「あそび」を通して問い直してきた同ユニットらしいアプローチだ。

《(再)生命の模倣》(2024)の展示風景 © Nacása & Partners Inc./ Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

 花火師としても活動する島田清夏は、炎色反応や火薬に含まれる金属元素に着目する。花火は祝祭や鎮魂の象徴として語られることが多いが、その背後には金属元素が発する光や、日本独自の硝石製造の歴史といった物質文化が存在する。島田はその科学的・歴史的背景を掘り起こし、私たちが見上げる光景を別の視点から照らし返す。

島田清夏《フライング・ヒューマノイド:人体図》(2026) 撮影:編集部

 ジュエリー・デザイナーの奥山慎は、鍛金による制作を通して、金属と身体の親密な関係を提示する。空間に吊り下げられたチェーンやフォルムは装飾品という枠を超え、身体性を帯びた彫刻のように展示空間へ広がる。身につけるためのジュエリーが、空間全体へとスケールを拡張したようなインスタレーションは、本展に静かな緊張感をもたらしている。

奥山慎によるセノグラフィーは1本の長いチェーンによって構成 © Nacása & Partners Inc./ Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

トークやワークショップも主役

 なお本展のもうひとつの特徴は、「見る展示」で終わらないことにある。鍛金体験や線香花火づくり、金属製の道具を使った工作、アーティストトークなど、会期中には多彩なイベントが開催される。春のワークショップの成果展示も含め、「知識を得る」だけでなく、「身体を動かし、手を使い、素材と対話する」ことそのものが学びとして位置づけられている。

 金属は、私たちの日常を支えるもっとも身近な素材のひとつでありながら、その存在を意識する機会は少ない。本展は、科学、工芸、現代美術、建築といった異なる領域を横断しながら、その素材が秘める豊かな可能性を五感で体験する場となっている。