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2026.3.29

「NHK日曜美術館50年展」(東京藝術大学大学美術館)開幕レポート。120点を超える名品とともにたどる50年の軌跡

東京・上野の東京藝術大学大学美術館で「NHK日曜美術館50年展」が開幕した。会期は6月21日まで。会場の様子をレポートする。

文=三澤麦(編集部) 写真提供=「NHK日曜美術館50年展」広報事務局

「縄文」の展示風景
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 東京・上野の東京藝術大学大学美術館で、「NHK日曜美術館50年展」が開幕した。会期は6月21日まで。担当は、東京藝術大学大学美術館 学芸員の熊澤弘。本展はその後、静岡県立美術館(7月18日~9月27日)、大阪中之島美術館(10月10日~12月20日)へ巡回する。

 NHKの「日曜美術館」は、1976年の放送開始以来、2500回を超える放送を積み重ねてきた長寿番組だ。本展では、番組が50年の歴史のなかで取り上げてきた120点を超える名品を全5章構成で紹介。数多の美術の魅力を、展覧会という形式で改めて提示する試みとなっている。

「日曜美術館」のセットの再現も登場

第1章「語り継ぐ美 ~時を超えて美を語る言葉・語らせる作品」

 同番組は当初、「私と○○」というタイトルで放送を開始した。各界の第一線で活躍するゲストが敬愛する美術家や作品への思いを語り、美の本質や創作の背景にせまる内容であった。

 地下2階から始まる第1章では、小説家・大江健三郎が語るフランシス・ベーコンや、彫刻家・舟越保武が伝える松本竣介などを取り上げている。ゲストが紡いだ言葉とともに、古今東西の美術家とその作品を紹介。また、3階展示室では、同番組をきっかけに広く世に知られることとなった石田徹也について、ロックミュージシャン・大槻ケンヂの視点から語られている。

第1章「語り継ぐ美 ~時を超えて美を語る言葉・語らせる作品」の展示の様子
フランシス・ベーコン《スフィンクス−ミュリエル・ベルチャーの肖像》(1979) 東京国立近代美術館蔵
左から、石田徹也《飛べなくなった人》(1996)、《社長の傘の下》(1996)。壁面に綴られた大槻ケンヂの言葉にも注目

第2章「日本美の再発見 古代から明治まで」

 第2章では、1950年代の岡本太郎による「縄文の美」の再発見から、70年代の辻惟雄による江戸絵画の再評価、さらに現代美術のアーティストによる琳派や浮世絵の再解釈までに焦点を当てる。ここでは日本美術の新たな魅力を掘り起こす契機となった事例を、村上隆、大野一雄、井浦新らの言葉とともに紹介。縄文土器・土偶をはじめ、伊藤若冲、曾我蕭白、葛飾北斎など、日本美術の名品が一堂に会している。

手前は、《縄文土器 深鉢 火焔型土器》 新潟県長岡市 岩野原遺跡出土 縄文時代(中期) 國學院大學博物館蔵
第2章「日本美の再発見 古代から明治まで」の展示の様子

第3章「工芸 伝統と革新」

 同番組が50年間にわたり熱心に取り上げ続けてきたのが「日本の工芸」だ。第3章では、正倉院宝物(模造)から、松田権六、室瀬和美、森口華弘・邦彦、安藤緑山、塩見亮介らの名品を紹介。自然と共生し、職人の手で継承されてきた日本工芸の変遷を展観する。さらに、「超絶技巧」や、若手作家による伝統技法を駆使した新たな表現も見どころのひとつだ。

左から、森田華弘《友禅訪問着「梅園」》(1997)、森口邦彦《友禅着物「新雪」》(1986)
塩見亮介《白銀角鴟面附白絲縅兜袖》(2022) 撮影=編集部

第4章「災いと美」

 2011年の東日本大震災や2020年からのコロナ禍など、社会の転換点において美術は何をなし得たか。パンデミックの影響で番組制作が困難を極めるなか、同番組は「美術を届けることを止めない」という信念のもと、過去のアーカイブを活用し、ステイホーム下の人々へ発信を続けた。なかでも「疫病をこえて人は何を描いてきたか」という特集が大きな反響を呼んだことは記憶に新しい。

 第4章では、香月泰男、靉光、野見山暁治、石内都らの作品を通じ、災いと向き合うために美が果たしてきた役割を再考する。また、パブロ・ピカソの傑作《ゲルニカ》を8K撮影した原寸大高精細映像では、肉眼では捉えきれない筆致までを克明に鑑賞できる。

手前は、香月泰男《青の太陽》(1969)
石内都の「ひろしま」シリーズや香月泰男《北へ西へ》(1959)が並ぶ

第5章「作家の生き様と美 ~アトリエ&創作の現場」

 最終章では、作家のアトリエを、歓喜や葛藤、孤独が交錯する「美術の舞台裏」として捉える。会場では、1980年代から続く「アトリエ訪問」シリーズの貴重なアーカイブ映像を公開。岡本太郎、柚木沙弥郎、志村ふくみ、加山又造、李禹煥、舟越桂、諏訪敦、山口晃ら、巨匠たちの創作の現場を垣間見ることができる。作家たちが制作過程で漏らす本音や苦慮に耳を傾けることで、創造という行為の本質に触れることができるだろう。

岡本太郎《遭遇》(1981)の展示風景
舟越桂による《水に映る月蝕》(2003)とそのドローイング

 50年にわたる放送のなかで、番組の内容はどのように変化したか。担当学芸員の熊澤は次のように語る。「50年前はカラーテレビの本放送が普及し始めた時代。新たな教養番組として産声を上げた本番組は、数多くの文化人をゲストに迎え、社会の移り変わりに寄り添いながら柔軟に姿を変えてきました。3階展示室には、50年分の放送回とゲストを網羅した年表を掲出しています。ぜひ、その軌跡から時代の潮流を感じ取ってください」。

「日曜美術館」放送一覧 撮影=編集部

 また開幕に先立ち、歴代および現任司会者を代表して、井浦新と坂本美雨が登壇。本展について、それぞれ次のように期待を寄せた。「名品が揃っているのはもちろん、本展の真骨頂は、ゲストという『もうひとつの眼差し』が添えられていることです。作品を通じて、その先にいる“人”にもぜひ思いを馳せてみてください」(井浦)。「多種多様な時代やジャンルの作品に出会える場です。作品と共鳴し、時空を超えるような感覚を、ぜひ会場で体感してください」(坂本)。

左から、井浦新、坂本美雨。同番組は3月22日の放送回をもって、「最長放送期間を誇る週刊美術テレビ番組(Longest running weekly fine art television programme)」として、ギネス世界記録™に認定された