2025.7.4

「そのとき、どうする?展 –防災のこれからを見渡す–」(21_21 DESIGN SIGHT)開幕レポート

六本木の21_21 DESIGN SIGHTで、企画展「そのとき、どうする?展 –防災のこれからを見渡す–」がスタートした。会期は11月3日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 六本木の21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2で、企画展「そのとき、どうする?展 –防災のこれからを見渡す–」がスタートした。展覧会ディレクターを務めたのは、ビジュアルデザインスタジオWOW。

 災害大国である日本は、地震や津波など、日常的に自然の脅威と相対している。最近も各所で地震が相次いで発生しており、不安な気持ちを抱いている人も少なくないだろう。しかし、忙しない日々を過ごすなかで、つねに防災の意識を保ち続けるのは容易なことではない。本展では、「そもそも災害とはなにか」という視点から災害のビジュアライズを行うとともに、災害をきっかけとして生み出されたプロジェクトやプロダクトを幅広く紹介。そして、国内における災害の記録や伝承を踏まえながら、これから起こりうる災害への向き合い方についても参加者とともに考え、共有を促していくものとなっている。

21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2 エントランス。展覧会ディレクターは、仙台に拠点を持つデザインスタジオWOW。会場グラフィックは佐々木拓・金井あきが務めており、テーマの「防災」をわかりやすく伝えるため、レスキュー隊などに用いられる蛍光オレンジやシルバー、冷静さを促すゴシック体のフォントが使用されている

10の問いから「防災」を考える

 WOWは本展のディレクションを行うにあたって「21_21 DESIGN SIGHTで展覧会をやる以上、行政や教育機関で発信する内容とは異なるアプローチすべきだと考えた」という。展示室入口・ギャラリー1では、「災害とはなにか」を考えるためにビジュアル化されたコンテンツや、国内における災害の記録、伝承などが紹介されている。

 また、本展の体験として重要なのは、会場内に掲げられた10の問いに対して参加者自らが考えを持ち、自分ごと化していくことにある。これは展覧会タイトルでもある「そのときどうする?」にも呼応しているようだ。

展示風景より

 会場設計を担当したのはトラフ建築設計事務所。5メートルを超えるモノリスのような壁には「防災」にまつわる問いが掲げられており、側面や裏側には問いに対するヒントや答えが記されている。会場の動線や展示什器も迷路のように蛇行しており、参加者が問いについて考える時間が持てるよう仕立てられている。

展示風景より
展示風景より

「災害」をきっかけに生まれたプロジェクト

 ギャラリー2では、「災害」をきっかけに生まれたプロジェクトやプロダクトの数々を紹介している。

展示風景より

 ご存知の方も多いであろう「特務機関NERV防災アプリ」や建築家・坂茂による紙管でできたフレームに布を掛けて完成するシンプルなパーテーション「紙の間仕切りシステム(PPS)」もここでは展示されている。掲げられている問いと呼応したプロジェクトも紹介されており、自身の考えのみならず、他の人たちがどのように「災害」を乗り越えようと試行錯誤してきたのかという視点でも知見を得ることができるだろう。

展示風景より
展示風景より

 10の問いは災害前から被災中、被災後まで時系列に沿った質問を参加者に投げかけ、関連するプロジェクトを紹介している。そのなかでも個人的に気になったのは「備えない防災」グッズの数々だ。毎日生活を続けていくなかで、つねに防災について意識をするのは難しい。しかし、毎日使う日用品が有事には防災グッズとして使うことができたらどうか。ここではそのような視点から生み出されたプロダクトが展示されるとともに、「いったいどのように機能が変わるのか」と想像をうながす仕掛けも設計されている。

展示風景より
展示風景より

「防災」に向き合うそれぞれの意識を共有する

 本展では会場各所にQRコードが設置されており、10の問いに対しての自身の回答をスマートフォンで入力・共有できるようになっている。「防災」に関するパブリックな答えはあるかもしれないが、もし災害が起こってしまった場合の状況や心の在り方は人それぞれだ。住んでいる場所、年齢、立場、などが異なる参加者の様々な視点を知ることで、自身の考え方をとらえ直すきっかけにもなるだろう。

展示風景より
展示風景より。展示室の外では、問いに対する気になった回答をシールとしてプリントすることができる。心に留めておきたものがあった場合は、シールとして持ち帰るのも良いだろう

 「防災」とはポジティブな印象ではあるものの、「災害」にまつわる物事は、恐ろしく無意識に目を背けたくなってしまうものだ。しかし、本展で紹介されているのは災害のその先にある「希望のかたち」でもあるのだ。

 日々生きることと災害が起こることはどうしても切り離すことができない。しかし、「防災」をテーマに「そのとき、どうする?」と改めて考えてみることで、もしものときに柔軟に乗り越えられるよう、静かに備えておくのもよいかもしれない。

展示風景より。会場である21_21 DESIGN SIGHTの防災対策について紹介されている。