2025.5.30

「Osaka Art & Design 2025」(大阪市内)開幕レポート。大阪・関西万博にあわせて過去最大規模で実施

大阪の街を巡りながら、様々なアートやデザインに出会うエリア周遊型イベント「Osaka Art & Design 2025」がスタート。大阪・関西万博も行われている大注目のスポットで行われるアートとデザインの祭典を、キタ、中央、ミナミのエリアごとにピックアップして紹介する。会期は6月24日まで。

YAR《WATARIDORI》(2025)
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 大阪で開催されるアートとデザインのエリア周遊型イベント「Osaka Art & Design 2025」が、今年もスタートした。今年のテーマは「Overlaps 重なる夢中」。大阪・関西万博で世界中から注目を集める大阪で、アートとデザインの祭典が開催されている。会期は6月24日まで。

 今回は梅田・中之島から心斎橋・なんば、そして阿倍野までエリアが拡大され、過去最大級の規模となっている。大阪中心部のパブリックアートを含めた、市内の約60か所を巡りながら、国内外の多彩なクリエイターの作品を見ることができる本企画。キタ、中央、ミナミのエリアごとにピックアップしてその様子をレポートする。

キタエリア(梅田、堂島、中之島、北新地、天満など)

 今回初めての試みとして、大阪梅田ツインタワーズ・ノース1階コンコースと阪急うめだ本店のコンコースウィンドーの共催インスタレーションが展開されている。自然科学と芸術が交差する世界を描き、刺繍という手法で生命の神秘を表現する現代美術家・宮田彩加と、グラフィックデザインと造形領域を精力的に横断する看板屋・デザイナーの廣田碧のコラボレーションによって実現。現代アートとデザインのコラボレーションによって生まれた本作が、人通りの多いコンコース上空にも展開され、まるで博物誌に囲まれているような体験ができる。

大阪梅田ツインタワーズ・ノース1階コンコースの展示風景より

 続いて阪急うめだでは、全15会場が用意され、会期を通して27プログラムが展開される。9階の祝祭広場では、世界的デザイナー・大城健作の「”スーパー・ハンド“ / 超⼿」展が開催されている。大城がアート作品へと昇華させた家具やインスタレーションが並ぶ。実際にプロダクトに座ったり触ったりしながら、テクノロジーと人の手技が融合していくこれからのものづくりの形を想像することができるだろう。

展示風景より

 また同フロアの催場では、画家の真田将太朗の個展「NEXT LANDSCAPE」が開催されている。地元関西での初個展となり、「自分が見せたい風景を描けた」と話す真田の、過去最大サイズの作品を見ることができる。会期中にはライブイベントやトークイベントの開催も予定されている。

展示風景より

 JR大阪駅・大阪ステーションシティ5階の時空の広場では、YOSHIROTTEN率いるYAR(ヤール)と、東京を拠点に活動するビジュアルアーティストKota Nakazonoがタッグを組んで制作した巨大なインスタレーションが現れる。渡り鳥をモチーフとした本作は、万博で盛り上がる大阪という土地に、世界中から人やモノを運んでくる象徴として制作された。全長約25メートルで、会期中常に空気を送り続けそのかたちを保つ。 隣の休憩スペースでくつろぎながら、大阪中心部で風に揺られるカラフルなワタリドリをゆっくり眺めてみてはいかがだろうか。

展示風景より

 ルクアイーレ4F「sPACE」では、本イベント事務局主催の企画が展開。関西を中心に活躍するクリエイターが、ベテラン(60代以上)から中堅(40、50代)、そして若手(20、30代)へ、ひと世代ずつバトンをつなぐように、計15名の注目クリエイターを推薦していく「世代のバトン」の展示を行っている。世代間の交流がさらに活発化することを目指す本企画では、アートやデザインの領域すらも横断してクリエイターがつながる機会となっている。

展示風景より

 そして大丸梅田店では、4〜9階、11階、13階と複数フロアにまたがり展示が開催されている。4〜9階には、エスカレーターすぐの約1坪ほどのスペースに、全13作家がそれぞれの作品を展示する「NEW WAVE GALLERY」という企画が展開。各々の作家によって空間の使い方は異なる。作家によっては制作スペースを設けており、タイミングがあえば作家が制作する姿を見ることもできる。

展示風景より

 11階のART GALLERY UMEDAでは「⽊下晃希どうぶつ画展」が実施されている。西宮出身のパラアーティストである木下の、深い動物愛にあふれた作品が35点出展されている。高校生の時に新聞紙を支持体に描いた大作は、今回初公開となっている。

木下晃希《こうきのせかい》(2015)

 続いて無印良品 グランフロント大阪では、日常芸術をテーマにアートを広げるプロジェクトである「Life in Art」のなかで、食をテーマにしたアートイベント「OSAKA ART SCAPE」を開催している。大阪は食への関心が強い土地柄であることからこのテーマが設定されたが、「食」自体を様々な切り口から見つめ、美意識を日常に取り入れるきっかけを提案している。

 2~4階にかけて企画展開されているが、とくに4階では「食の記憶、くらしの余韻」と題された10名のアーティストによる作品発表の場が設けられている。

展示風景より

 また4階では、krankの「MOTHER -空想と現実のあいだにあるもの-」展が開催されている。過去ATELIER MUJI GINZAで開催された展覧会の巡回展となる。本展のために、母親の心臓の鼓動と同じ拍の音楽をつくり、そこからインスピレーションを得て、複数のアーティストの作品を用いたインスタレーションが制作された。

展示風景より

 なお、クリエイティブユニットgrafによって2020年に設立された、ギャラリー兼宿泊施設にもなるオルタナティブスペース「graf porch」では、無印良品 グランフロント大阪で開催されている「Life in Art OSAKA ARTSCAPES 2025」のサテライト会場として「食の輪郭」展が開催されている。食をキーワードとして13名の作家が作品を展開。陶器、ガラス以外にも、写真やフレグランスなど広く食の解釈を広げるような作品が並んでいる。

展示風景より

  続いて京都・北白川にもビューイングルームを持つアートコートギャラリーでは、東島毅と末松由華利の抽象ペインティングを紹介する「Early Summer Show」が開催中。東島は真っ白の空間のための新作を展示。深いブルーを使った作品が代表的だが、今回はグレーやシルバーのイメージを定着させた作品が並ぶ。「あいまいの美学」をテーマに制作を行う東島は、今回「Infinity sky」というシリーズを、空に向かって泳いでいくイメージで制作。天高約7~8メートルの大きな展示空間に、高さ約4メートル、幅2メートルといった大作が並ぶ。下から上に作品を見上げる行為によって、自然と目線は空を追いかけることになる。

展示風景より

 末松は、生の体験や感情を起点に、色やかたちを滲みやぼかしのタッチで描いていく。水にうすく溶かしたアクリルを何層にも重ねて制作する方法を用いており、なにものにも縛られないスタンスを表現する末松の軽やかさを感じさせる。

展示風景より

 翠波画廊 大阪店では、オランダの作家ハンス・イヌメの展示が行われている。イヌメは1951年生まれで、動物たちを独自の技法で描く作品が特徴的。作品には、ニワトリやブタ、ネズミなどの身近な生き物たちが登場するが、イヌメはそういった同じ地球上の生き物でありながら、誰からも敬意を払われない動物も、等しく価値のある存在であると考え描き出す。可愛らしい印象の生き物たちの奥に込められたメッセージも含め、イヌメの作品はヨーロッパ各国でも人気を集めている。なお同時に同画廊の契約作家のグループ展も開催中だ。

展示風景より

中央エリア(京町堀、本町、南船場)

 中央エリアに位置するWA.Galleryでは、藤井桃子 個展 「シリクメナワ 2025」が開催中。藤井は京都出身の藁細工の作家で、稲作した後の稲藁を使って作品を制作する。地元の人に藁細工を習い、その造形美や工夫に魅せられたのが制作のきっかけだという。作品制作以外では、神事で使うしめ縄や草履も作っており、和紙を壁紙に使うWA.galleryでの展示空間は、作家の考える藁の神聖さに満ちているように感じられる。改めて、元来日本人が当たり前のようにしてきた、日常の中で様々なことに感謝の気持ちを抱く習慣を思い出すきっかけになるだろう。

展示風景より

 続いて、幅広いインテリアアイテムによって様々なライフスタイルを体感できるカッシーナ・イクスシー大阪店では、シャルロット・ペリアンコレクションの20周年を記念して、オマージュを捧げた新しいモデルが登場。改装にあたって本国チームが空間づくりにも関わり、よりブランドの世界観が伝わるような場所となっている。フロアに壁をいくつか建てることで、1階だけでも20シーンをディスプレイできるようになった。一人ひとりのライフスタイルにあわせた空間を提案しており、美学が宿った心踊るスペースを見つけることができるだろう。

展示風景より

 アーバンネット御堂筋ビルの1階にあるマルニ木工も会場の一つだ。マル二木工は創業1928年、今年で97年目を迎える老舗木工家具メーカー。工芸の工業化をモットーに、100年経っても世界の定番として愛されるデザインの家具をつくり続けている。会場には、モザイクアーティストの永井友紀子と協業した作品も展示。ルイ15世時代のロココ様式を取り入れた「マドレーヌ」という椅子が、当時の生地のモチーフを模してつくられた美しいモザイクを纏い、「Poltrona Madeleine」として生まれ変わった。

展示風景より

 グラフィックデザイン会社としてスタートしたCEMENT Designがプロデュースする会場もある。現在は中小企業と協業し、様々なブランドづくりを行っている同社。長野県塩尻にあるエレキギターの塗装を手がける「三泰」とは、木目を美しく引き出す専門的な塗装技術をアクセサリーや贈答品に活用し、技術を新たなプロダクトに活かしている。

展示風景より

 そして、2021年に日本初上陸した、アメリカのマリオット・インターナショナル系列のラグジュアリー・ライフスタイルホテル「W大阪」。ここも昨年同様、今回の展示会場のひとつとなっている。安藤忠雄が監修を務め、日本で唯一の”Wブランド”ホテルであるこの場所では2名の作家の作品を楽しむことができる。

 W階 LIVING ROOMでは熊⾕卓哉「Play Sculpture(ガチャガチャマシン:Type-Atlas)」が展示されている。熊谷は、万博効果も相まって外国人宿泊者が多いこのホテルで、日本独自の文化であるカプセルトイに着想を得た作品を展開することを決めた。照明と円形の台座のみだった空間に、現在大阪・関西万博のイタリア館に展示されている「ファルネーゼのアトラス」がモデルとなった作品がたたずむ。3Dプリンターで制作をしており、作品の一部を回すとガチャガチャが出てくる遊び心も詰まった作品だ。

展示風景より

 1階 Arrival Hallでは松井照太の「“relite”(rewrite/relight)」が展開。人工的でラグジュアリーな空間の中に自然な石があるギャップによって、石の魅力が一層引き立つと松井はいう。またあえて石を浮かせて、通常当たるはずのない下からのライティングに挑戦し、石そのものの見え方を変えている。

展示風景より

ミナミエリア(心斎橋、難波、道頓堀など)

 ミナミエリアにある髙島屋大阪店では、1〜7階の各フロアに作品が展示されており、会期中に約50個のプログラムが展開される。

 「CAPS2025」と題された展示では、「京都芸術大学大学院芸術専攻芸術実践領域」に関わりつつ、アーティストとして活躍する教員や修了生、在学生の作品を見ることができる。7階で開催された、名和公平とブルノ・ボテラによる「ドリンクアンドドロー」というイベントは、美大生が学内で行うクロッキーを百貨店の中で実施するということを実現させた。20分間描き、その後同じ題材を描いた人同士でドリンクを飲みながら歓談する。モデルはコンテンポラリーダンサーが行い、改めて身体に注目する機会の創出も狙いのひとつ。名和曰く、「クロッキーには本来正解がないもの。描き方をアドバイスすることはできるが、思い思いに描くのも醍醐味」。そんな名和と、鬼頭健吾の作品は同館1階にも展示されている。

髙島屋大阪店1階 展示風景より

 4階のローズパティオでは、京都美術工芸大学の特任教授で「ニッポン画家」でもある山本太郎が、「Re: Classic 古くて新しい暮らしの提案」を展開。今年2月に行われた卒業制作展のなかから学生の作品を選び、自身の作品と一緒に展示した。

展示風景より

 本企画では、競技ダンスのプロダンサーとしての経歴をもつアーティスト高遠まきの作品を、昨年に引き続き見ることができる。なかでも南海なんば駅には、こわいものをあえてポップに表された巨大なYOKAIが登場する。その中でも今回は、差別のない世界や慈愛の象徴である「法界定印」を結んだ、奈良の三松禅寺副住職の手をモデルにした新作も登場。作品とのインタラクティブな関わりを大事にする高遠の作品は、触わることも可能だ(6月11日以降は、6階ローズパティオに移動される予定)。

展示風景より

 心斎橋PARCOの9階では、関西ゆかりの若手アーティストの発表と鑑賞の場として「Kansai Art Annual 2025」が開催されている。本展は「ART OSAKA」を運営してきた一般社団法人日本現代美術振興協会が主催している。心斎橋エリアにある4ギャラリーから、計7名の作家が選出されている。本展のテーマはコラボレーションを意味する「CO」。クリエイターとの共創を軸に展開してきた心斎橋PARCOだからこそ、訪れる様々な人との現代アートのつながりを生みだせるのかもしれない。

展示風景より

 あべのハルカス近鉄本店でも各フロアに作品が点在する。2階では、町工場の端材などの静物を、生物のモチーフに変換し改めて価値を吹き込む実験プロジェクトの作品が展示される。作家に向けて端材ツアーを行い、素材を持て余している人と素材を欲している人をマッチングする試みもしている。また町工場に作品を置いて展示場所にし、街にアートを浸透させていく機会創出にも挑戦している。

展示風景より

 9階では、食品サンプルのパイオニア企業いわさきの技術者たちがつくった作品を展示する「シン・食品サンプル展」が展開されている。本展では、「新しい表現への挑戦」をテーマにつくられた食品サンプルのコンクール出品作を見ることができる。どんな食品サンプルがあったら面白いかを追求したものとなっており、料理をアートに展開させていく新しい試みを見ることができる。なお会期中には食品サンプルづくりのワークショップも開催される予定だ。

展示風景より

 続いて、吉本興業がプロデュースしているアートギャラリーLaugh & Peace Art Galleryでは、神戸出身のアーティストalanの個展「Re: Re: 」が開催中。既存の芸術作品やキャラクターなどの大衆文化を使用し、2つ以上の素材を1つのキャンバスにアプロプリエーション(流用)する[Under50%+point]シリーズが代表作となる。素材のナンパーセント以上/未満がオリジナルと模倣のボーダーラインになるのか、など長年論点となってきた「オリジナル」存在についての問いを投げかける。アート領域にもAIの影響が大きくなるなか、改めてオリジナル/コピーの差異や、それに付随して展開される著作権問題についていま一度考える機会となるだろう。

alan《That's why the lady is tramp》

 そして大丸心斎橋の8階では、ポーランドで活躍中のファッションデザイナー兼アーティストの、ヨアンナ・ハヴロットによる「ウェアラブルアートー見えざる系」が展示中。十二単にインスパイアされた作品を展開し、作品を通じて女性の内面を表すことを意図している。期間内に館内14ヶ所でハヴロットの作品が展開されていく。

展示風景より

 8階のArtglorieux GALLERY OF OSAKAでは、「ダイアナ妃が愛した画家 ロバート・ハインデル展」を開催中。バレエダンサーの一瞬を捉える作品で有名なロバート・ハインデルは、もともとイラストレーターから画家に転身した経歴を持つ。現代のドガと称されたハインデルの没後20年を記念した展示となっている。

展示風景より

 昨年からさらにエリアを拡大させた「Osaka art & design」。大阪・関西万博での盛り上がりも後押しとなり、大阪というエリアがアートとデザインの発信拠点としてさらに勢いを増していくことが感じられる。6月に入ってから開始する企画もあるため、約1か月の会期内ですべて見回ることは難しいかもしれないが、街を周遊しつつ、その熱気を体感してほしい。