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2025.4.17

大阪・関西万博 フランス館はなぜロダンの彫刻を展示するのか?

ついに開幕を迎えた大阪・関西万博。数あるナショナルパビリオンのなかでも見るべきは、ルイ•ヴィトンやディオールなど5つのメゾンとロダンの彫刻が共演するフランス館だ。

文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

フランス館の内部で展開されるルイ•ヴィトンの展示。中央にあるのがロダン《カテドラル》(1908) ©️LOUIS VUITTON
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 「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、160 を超える国・国際機関が参加する大阪・関西万博。会場内に並ぶ多彩なパビリオンのなかでも、強い存在感を放つのがフランス館だ。

 Coldefy & Associés Architectes UrbanistesエージェンシーとCRA-Carlo Ratti Associati事務所により設計されたフランス館は、劇場の舞台を思わせる巨大なカーテンで覆われた外観が特徴。その周囲には、グラン・パレ-国立美術館連合の鋳造工房によって特別に制作された等身大の彫刻4点が並ぶ。象徴的なピンクの銅で覆われたスロープは、来館者の気持ちを昂らせながら内部へと導くレッドカーペットのようだ。

フランス館
撮影=筆者

 このフランス館は4つの主要パートナーがサポートしており、メインパートナーを世界的なラグジュアリーコングロマリットであるLVMHが務める。

 40年前に来日し、大阪で仕事を始めたというLVMHジャパンのノルベール・ルレ社長は、「LVMHグループと日本とのつながりは長い。ぜひ子供たちと一緒に来ていただき、フランスの伝統だけでなく、LVMHグループの手づくりの仕事を見ていただきたい。このパビリオンを通じて、少しでも日仏の縁がより良いものになれば」と期待を寄せる。

 パビリオン内は「鼓動」をテーマに、ひとつの旅路のように展示が構成されている。旅の始まりを迎えてくれるのが、ノートルダム大聖堂の「キマイラ像」と、『もののけ姫』の主人公アシタカをあしらった巨大なタペストリーだ。

 このキマイラ像はノートルダム大聖堂を襲った火災において奇跡的に難を免れたもの。キマイラ像は深い森のなかで傷を癒すアシタカを見守るように佇み、建築遺産の脆弱さと自然遺産の脆弱さの両方を象徴するかのようだ。

ノートルダム大聖堂の「キマイラ像」とタペストリー
Photo by Justine Emard

 続く部屋は没入感あるルイ・ヴィトンの展示に圧倒されるだろう。オーギュスト・ロダンの彫刻《カテドラル》(1908)を中心に、84個ものルイ•ヴィトンのトランクが囲む空間を手がけたのは建築家・重松象平(OMA)。「日本への愛」と「時を超えるクラフツマンシップへの愛」にオマージュを捧げた展示となっており、フランス国立音響音楽研究所(IRCAM)との共同制作により、アトリエの音を再解釈してリズムで表現したサウンドドラックが響き渡る。

 また隣接する空間では、アーティスト・真鍋大度が手がける映像作品によって命を吹き込まれた「トランクのスフィア」が、幻想的な五感の旅へと誘う。 

ルイ・ヴィトンの展示。中央にあるのがロダン《カテドラル》(1908)
©️LOUIS VUITTON
ルイ・ヴィトンの展示
©️LOUIS VUITTON
真鍋が映像を手がけたトランクのスフィア
©️LOUIS VUITTON

 ディオールの展示は、大きな話題を呼んだ「クリスチャン・ディオール 夢のクチュリエ」展(東京都現代美術館)を思わせる空間となっている。

ディオールの展示
Photo by Victor Marvillet

 ディオールのエレガンスを象徴するタイムレスな「バー」スーツがブルー、ホワイト、レッドという3つのバリエーションで展示され、クリスチャン・ディオールがデザインした伝説的なトリコロールカラーの「アンフォラ ボトル」と呼応する。

「バー」スーツ
Photo by Victor Marvillet

 この空間をもっとも象徴する約400点もの白いトワルは、3Dプリントで再解釈されたディオールのアイコニックなフレグランスボトルとともに、インスタレーションの中心となっている。

ディオールの展示
Photo by Victor Marvillet

 「クリスチャン・ディオール 夢のクチュリエ」展でメインビジュアルを手がけた高木由利子による写真作品も空間をより魅力的なものにしていると言えるだろう。このほか、デザイナー・吉岡徳仁によるメダリオンチェアや、 “LADY DIOR AS SEEN BY”プロジェクトのために建築家・妹島和世が昨年手がけた「レディ ディオール」が空間を彩る。 

 この展示空間でもロダンの作品を見ることができる。石膏によってつくられた《ふたつの左手(ハンズ No.2)》(1900-1910)は、ディオールと日本の深いつながり、そして両者の手仕事を讃えるようだ。

ディオールの展示
Photo by Victor Marvillet
展示風景より、オーギュスト・ロダン《ふたつの左手(ハンズ No.2)》(1900-1910)
撮影=筆者

 ルイ•ヴィトンとディオールの部屋のみならず、ロダンの彫刻はフランス館の随所に展示されている。フランス館の展示部分をディレクションしたジャスティーヌ・エマールはこの意図について、「フランス館での展示の依頼を受けたとき、GSMプロジェクトとともに、体験を導くパターンとしての『手のアイデア』を提案しました」と語る。

「手は人間の最初の道具であり、職人技とノウハウの象徴。また、人間と自然との関係を通して人間同士をつなぐものでもあります。ロダンの作品はどれも、『創造する手』『形づくる手』といったコンセプトのもと、新しい「サヴォアフェール」を紹介する役割を担っており、リフレインのように様々な部屋に展示されているのです」。

 ロダンの手の彫刻は、日仏を結ぶ象徴的存在のようでもあり、旅人を導く道標のようでもある。巨大なパビリオン全体をひとつの旅路として、巡ってみてはいかがだろうか。

展示風景より、オーギュスト・ロダン《ピエールとジャック・ド・ウィサン、左手》(1865-66)
Photo bu Justine Emard
展示風景より、オーギュスト・ロダン《左手と右手のアッサンブラージュ》(1900頃)
Photo bu Justine Emard
フランス館の最後を飾るセクション。日本とフランスの絆などが表現されている
(C)Justine Emard •ADAGP Paris, Studios GSM Project
Photo by Julien Lanoo