2025.4.11

「Study:大阪関西国際芸術祭2025」見どころレポート

大阪・関西万博にあわせ、大阪市内各所で4月11日から「Study:大阪関西国際芸術祭2025」が開幕した。そのハイライトをお届けする。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、トニー・マテッリ《ジョシュ》(2010)
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 2022年より、大阪・関西万博に向けて毎年開催されてきた民間主導のアートイベント「Study:大阪関西国際芸術祭」が、4月11日に開幕を迎えた。今年のテーマは「ソーシャルインパクト」。大阪・関西万博会場でパブリック・アートを展開するほか、大阪文化館・天保山(旧サントリーミュージアム)・ベイエリア 、船場エリア、西成エリア、JR大阪駅エリアなどがその舞台となる。なかでも中心となる4つのエリアのハイライトをお届けしたい。

大阪・関西万博会場

 大阪・関西万博の会場内では、奥中章人、金氏徹平、COOK、SceNEプロジェクト(地球研)、田崎飛鳥(株式会社ヘラルボニー)、DONECY、冨長敦也、中島麦、BAKIBAKI、ハシグチリンタロウ、檜皮一彦ミヤケマイ、森万里子らの作品が随所に展示されている。詳細はこちらの別記事をご覧いただきたい。

会場風景より、森万里子《Cycloid Ⅲ》(2015)
撮影=安原真広

「Re: Human──新しい人間の条件」(船場エクセルビル)

 船場エリアでは、これまで同様、取り壊しが予定されている船場エクセルビルが会場となる。ここでは岸本光大がキュレーターとなる「Re: Human──新しい人間の条件」展にシュウゾウ・アヅチ・ガリバー、金氏徹平、金サジ、吉田桃子、釜ヶ崎芸術大学ら約10組が参加。目まぐるしく変わるの世の中で変化する人間像を提示し、よりよい未来を探るヒントを提示しようとするものだ。

 例えばシュウゾウ・アヅチ・ガリバーは、DNAを構成する塩基ーアデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)を示す4文字をモチーフにした「A.T.C.G.」のシリーズを中心に作品を展開。

展示風景より、シュウゾウ・アヅチ・ガリバー《甘い生活/乙女座》(2005)

 川田和志は、岡本太郎の作品にインスピレーションを得て、2023年に滋賀県立陶芸の森 陶芸館ギャラリーで制作した壁画《太郎の色とカタチ✕パブリック》(2024)をこのビル内に移動させ、部屋いっぱいに展示。

展示風景より、川田和志《太郎の色とカタチ✕パブリック》(2024)

 岡本太郎つながりとして、畑祥雄+江夏正晃+江夏由洋による作品にも注目したい。本作では、AIが未来予測した2070年の「万博の森」の映像をオリジナル楽曲とともに展示。《太陽の塔》ひいては人類の、そう遠くはない未来を想像させる。

展示風景より、畑祥雄+江夏正晃+江夏由洋《奇跡の森 EXPO '70─生成AIによる映像 Ver.2(映像インスタレーション)》(2025)

 金氏は新作・旧作を、「小さなパビリオン」に見立て、SF的なインスタレーションの中に配置した。万博とは無関係ではあるものの、個人的な歴史・時間・流行・観光といったテーマを反映した一つの世界が、小さな空間に展開されている。

展示風景より、金氏徹平の作品群

 𠮷田桃子は、自身の憧憬や欲望、フェティシズムが投影された若者たちの別世界での姿を巨大な平面で見せる。イメージを基にキャラクターの立体模型や背景を制作、動画に収め、そこから抽出した1コマを下絵とする複雑な工程を経て生まれる絵画に注目だ。

展示風景より、𠮷田桃子の作品群

西成エリア

 同芸術祭が立ち上げ当初から会場としてきた西成エリアは、3会場で展示を展開。NPO法人「こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」が運営する釜ヶ崎芸術大学は、西成に住む人々に向けて多数のセミナーを開講し、創作の機会を提供してきた。

釜ヶ崎芸術大学

 kioku 手芸館たんすでは、アーティスト・西尾美也と地域の女性たちがコラボレーションする西成拠点のファッションブランド「NISHINARI YOSHIO」のプロダクトを見て、購入することが可能だ。

kioku 手芸館たんす

 今回は、24軒の長屋が連なるエリアの一角が「喫茶あたりや:まえとうしろ、まんなかとすみっこ」として会場に使われている。ここでは、2013年頃より釜ヶ崎で生活している「からくり博士」、ヤンゴンで活動するアウン・ミャッテー、ミャンマーから初来日して西成で滞在制作しているソーチャン・トゥーサンらが作品を展示する。

喫茶あたりや:まえとうしろ、まんなかとすみっこ

「Reshaped Reality〜ハイパー・リアリスティック彫刻の50年〜」(大阪文化館・天保山(旧サントリーミュージアム)

 安藤忠雄建築の大阪文化館・天保山(旧サントリーミュージアム天保山)では、ドイツの研究機関であるInstitut für Kulturaustauschとともに「Reshaped Reality〜ハイパー・リアリスティック彫刻の50年〜」を見ておきたい。

 同展はこれまでグッゲンハイム・ビルバオ(2016)をはじめ、世界各地で開催されてきたもので、日本での開催はこれが初めて。過去50年におけるハイパー・リアリスティック彫刻における人間像の発展を展示することで、「人間とは何か」を考察するものだ。キュレーターはレナ・ポールマン。アレン・ジョーンズ、ジョージ・シーガル、パトリシア・ピッチニーニ、マウリツィオ・カテラン、ロン・ミュエク、トニー・マテッリら26組の約40点が並ぶ会場から、とくに注目したい作品をピックアップして紹介する。

 巨大なアンディ・ウォーホルの頭部は、カズ・ヒロによる代表作。ハリウッドの特殊メイクで培った技術を利用して生み出されたリアルな頭部を金属が溶けていくような台座を組み合わせることで、フラジャイルな人体の姿が提示されている。

展示風景より、カズ・ヒロ《アンディ・ウォーホル》(2013)

 壁から斜め上に向かって伸びる3本の男性の腕。《アヴェ・マリア》(2007)はマウリツィオ・カテランの代表作のひとつだ。ナチス式の敬礼をする3本の腕に、「アヴェ・マリア」という大天使ガブリエルが聖母マリアに呼びかけた言葉を添え、宗教的な主題と政治的な主題をひとつにすることで、挑発的かつ皮肉な態度を示す。

 ジャルコ・バシェスキは人間が持つ複雑な感情を強調させるようなサイズで作品を制作。《平凡な男》(2009)というタイトルとは矛盾するように、その圧倒的な巨大さは強いインパクトを与えている。

展示風景より、左からジャルコ・バシェスキ《平凡な男》(2009)、マウリツィオ・カテラン《アヴェ・マリア》(2007)

 トニー・マテッリの《ジョシュ》(2010)は重力と時間を無視したような、空中浮遊する青年の姿をハイパーリアリスティックに表現することで、非現実的な姿が現実味を帯びる。

展示風景より、トニー・マテッリ《ジョシュ》(2010)

 70年代にポップ・アートのアーティストとして活躍したアレン・ジョーンズは、女性の姿を家具や椅子などのオブジェへと変貌させる彫刻を手がけてきた。《冷蔵庫》(2002)は実際に冷蔵庫として使用できるものであり、男女に割り振られた既存の役割に疑問符を投げかけるものでもある。

展示風景より、アレン・ジョーンズ《冷蔵庫》(2002)

 パトリシア・ピッチニーニは、異種交配された存在を作品に用いることで、人間、動物、人工物と分類してしまう私たちの考え方に異議を申し立てるアーティスト。多毛症の少女と異様な姿の生物を慈しむ《慰める人》(2010)は、「安寧と愛に満ちた家族の情景」を打ち砕き、美しさ/醜さ、人間/動物、自然/怪物という判別がどこからやってくるのかを問いかける。

展示風景より、パトリシア・ピッチニーニ《慰める人》(2010)

 サンティッスイミは、サラ・レンツェッティとアントネッロ・セラのアーティスト・デュオ。タイトル 《IN VIVO(M1)》(2013)はラテン語で「生きていること」を意味するとともに、生体観察や生体実験も指す言葉。プレキシガラスの箱に収められている等身大シリコーン製の彫刻は動かず直立しているが、その呼吸によってガラスに霧がかかっているようにも見える。

展示風景より、サンティッスイミ《IN VIVO(M1)》(2013)

 このほか同芸術祭では万博記念公園にある国立民族学博物館で俳優・のんのリボンアートと、東北の伝統工芸「こけし灯篭」がコラボした作品を展示。また大阪国際会議場では7月21日~23日の会期で国際アートフェア「Study × PLAS : Asia Arts Fair」を開催する。