2025.5.24

「ジャネット・カーディフ 40声のモテット」(金沢21世紀美術館)開幕レポート。彫刻のように構築された音を空間とともに楽しむ

金沢21世紀美術館の展示室13で、空間を彫刻のように構築するサウンドインスタレーション、ジャネット・カーディフ《40声のモテット》が公開されている。会期は9月15日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、ジャネット・カーディフ《40声のモテット》
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 石川・金沢の金沢21世紀美術館の展示室13で「ジャネット・カーディフ 40声のモテット」が開幕した。会期は9月15日まで。会場の様子をレポートする。

 本展は同館コレクション作家のジャネット・カーディフによる《40声のモテット》(2001)を巡回展示するもの。これまでに原美術館ARC(3月15日〜5月11日)で公開され、今後も長崎県美術館(10月17日〜11月16日)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(12月13日〜2026年2月15日)での巡回が予定されている。

展示風景より、ジャネット・カーディフ《40声のモテット》(2001)

 ジャネット・カーディフは1957年生まれ。カナダのブリティッシュ・コロンビア州の田園地帯を拠点に、映画、ビデオ、写真などのメディアを用いた作品を制作している。2001年にジョージ・ビュレス・ミラーとともにヴェネツィア・ビエンナーレでカナダ館代表として参加。その後も17年には金沢21世紀美術館で展覧会「ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー」を開催するなど、ミラーとともに、サウンド、彫刻、テクノロジーを融合させ、「聴く」、「見る」といった複合的な知覚体験を伴う、革新的で没入感のあるインスタレーションを制作し、国際的に高く評価されてきた。

 本作は16世紀イングランドの作曲家、トマス・タリスによる「40声のモテット」(Spem in Alium)をもとに、40台のスピーカーから再生される聖歌隊の40人の声が、空間を彫刻のように構築するサウンド・インスタレーションとなっている。

 本作は音声が共鳴するため、建築空間の特性も反映されるという。妹島和世と西沢立衛による建築ユニット・SANAAの名作のひとつに挙げられる本館において本作がどのような響きをみせるのかということも、見どころのひとつといえるだろう。

展示風景より、ジャネット・カーディフ《40声のモテット》(2001)

 展示室内には黒いスピーカーが40台、中央に向かって円陣を組むように並んでいる。演奏が始まれば、スピーカー一つひとつがまるで演技をするかのように歌い始める。

展示風景より、ジャネット・カーディフ《40声のモテット》(2001)

 中央部にはイスが置かれており、ここがもっとも立体的に音響を楽しむことができるように設計されているとのことだが、展示室を歩き回りながら本作の響きを様々な角度で楽しむことも鑑賞の醍醐味といえるだろう。

 いつ訪れてもいいし、いつ立ち去ってもいい。無料のスペースだからこそできる、開かれた演奏会が始まった。