「没後80年 小原古邨 ―鳥たちの楽園」(太田記念美術館)レポート。江戸と近代をつなぐ花鳥画の淡彩木版の美
近年人気が高まる近代の絵師・小原古邨の画業を、約130点の作品で追う「没後80年 小原古邨 ―鳥たちの楽園」が太田記念美術館で開催中だ。会場の様子をレポートする。

人気急上昇の小原古邨、ふたたび
明治末から昭和前期にかけて活躍した絵師・小原古邨(おはら・こそん、1877~1945)。花鳥画に優れ、なかでも鳥や花、動物や虫を、江戸時代から続く伝統的な浮世絵の技法で表した版画は、木版画とは思えない柔らかく淡い色彩を特徴とする。その静かでしっとりとした情感は、近年急速に注目され、人気が高まっている。
石川県金沢市に生まれ、日本画家・鈴木華邨(すずき・かそん)に師事した古邨は、画家として22歳の時から日本絵画協会主催の展覧会にも出品し、それなりに評価を受けていたが、明治36年(1903)を境に日本が制作から距離を取るようになる。その後、彼が活躍の場としたのが木版画による花鳥画の制作で、作品は国内向けというよりは、海外からの観光客を中心に売買されたそうだ。このためか、日本ではあまり取り上げられることなく歴史に埋もれた存在となっていた。

太田記念美術館では2019年に古邨の個展を開催しており、長らく日本では忘れられていたこの絵師をいち早く取り上げた美術館のひとつである。その際には予想外の反響があり、同館の1日の入館数の歴代2位を誇る人気だったそうだ。
今年は古邨の没後80年にあたり、それを記念して同館では6年ぶりに改めて小原古邨の個展「没後80年 小原古邨 ―鳥たちの楽園」を開催することとなった。企画担当は主任学芸員の日野原健司。古邨の画業のうち明治末から大正にかけて、松木平吉、秋山武右衛門といった版元から刊行された作品に注目し、前後期で全点展示替えの総数約130点が紹介される。前回の展覧会では出品されていなかった初出品作が4分の1を占め、再訪者にも嬉しい内容となっている。
