2025.8.21

大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)インタビュー。寂しさや孤独から始まる表現者としての仕事

『GQ JAPAN』主催の「GQ クリエイティビティ・アワード」を受賞した、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴。その初の写真展となる「僕が居ようが居まいが」が「GQ JAPAN クリエイティブ・ウィークエンド」(Ginza Sony Park、2025年7月5〜6日)で開催された。本展に際して大森に、音楽以外の表現で見つめた自己や、表現者として意識していることについて語ってもらった。

聞き手・文=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長) 撮影=手塚なつめ

「GQ JAPAN クリエイティブ・ウィークエンド」(Ginza Sony Park、2025)会場にて、大森元貴
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音楽、絵、写真…大森元貴の表現に共通するもの

──大森さんはMrs. GREEN APPLEの活動において、作詞、作曲、編曲のみならず、作品のアートワークやミュージックビデオのアイデアまでを手がけています。さらに俳優としての活動のほか、今回の個展「僕が居ようが居まいが」では写真作品を展開しました。こういった表現活動は幼い頃から行っていたのでしょうか。

 幼稚園の頃は大きいスケッチブックに当時好きだったヒーローや、身の回りの風景を描いていた記憶があります。クレヨンを握りしめながら、一心に描いていた古い記憶が残っています。あとは、見よう見真似で漫画を描いたり、お小遣いでカラーマーカや色鉛筆を買ってより高度な表現に挑戦してみたりといったことも、小学生時代はやっていました。「自分の頭のなかに広がるものをアウトプットしたい」「でも正しい出口はまだ見つからない」といった漠然とした創作への欲望が溢れていたんでしょうね。

大森元貴

──ご自身が表現として意識したのは、音楽よりも絵を描くことの方が先だったんですね。

 じつはそうなんですよね。小さい頃から歌も好きでしたし、人前で披露することも好きでしたが、性格はどちらかというと内気で、自分のなかにフラストレーションを溜めがち。それを発散する手段が絵だったんだと思います。幸いなことに、小学6年生のときにバンドでこういったフラストレーションを表現できるという経験をしたことで、音楽活動へとつながっていきました。

──音楽活動で大きな成功を収め、Mrs. GREEN APPLEは現代の日本を代表するバンドへと成長してきたわけですが、絵や写真といった表現も近年では積極的に行うようになっています。それはなぜでしょうか。

 絵を描くことはずっと好きで、趣味として続けていたのですが、自分のちょっとした絵が挿し絵になる機会もあったりと、趣味の延長線上にある表現として見てくれてる人たちがいるということを実感するようになりました。カメラも僕のなかでは趣味だったのですが、写真作品を好きだと言ってくれる人がたくさんいるということにも気がつき、今回の個展という機会に恵まれました。内気な僕には大きな衝撃でしたね。

──ご自身を「内気」と評していらっしゃいますが、そういった自己認識も表現に影響しているのでしょうか。

 自分がテレビに出ている姿は、本当に虚像だと思っています(笑)。シャイで自信がない自分をどうやって補完するのかということは、ずっと考えてきたことですね。音楽においても、パフォーマンスより技術を上げることにずっと勤しんできましたし。

 その点、絵や写真で表現しているときの自分は、すごくフラットな状態でいられる気がします。プラスでもマイナスでもなく、凪のような気持ちになれる瞬間のような気がしますね。それは自分で表現するときだけでなく、作品を見るときにも感じることです。

写真を通じて見えてきた自己

──今回の個展「僕が居ようが居まいが」を写真作品で構成しようと考えたのはなぜでしょうか?

 まず、僕の見ている景色や世界を垣間見たいという声があり、写真による個展のお話をいただいきました。改めて、自分がこれまで趣味として撮ってきた写真を見返したり、作品として意識してみると、自分がどういったフィルターを通してこの世界を見ているのかということを客観的に考えることができたと思います。展示作品を選ぶときも、自分のなかで直感的にセレクトしていくことで、僕の価値観が立ち上がっていくような経験ができて、とても新鮮でした。

「GQ JAPAN クリエイティブ・ウィークエンド」(Ginza Sony Park、2025)会場にて、大森元貴「僕が居ようが居まいが」展示風景

──直感で写真を選んだとのことですが、その選定の基準をあえて言葉にすると、どのような感情に結びついているのでしょう。

 僕のなかでは「寂しさ」を感じることが大切だと思っています。自分が撮影した写真を見ながら、胸がキュッとなる感じを探していたり。例えば今回は、ハンガリーの抜けるような空が印象的な風景を撮った作品を出展していますが、広い空の下に1本の大きい木が立っていて、勇ましく見えるはずなのに広すぎる空との対比で、そこに孤独を感じたりする。そういった寂しい感覚を大切にして作品を選んでいると思います。

 表現をすることって、僕はすごく孤独なことだと思うんです。自分の孤独な気持ちを紛らわす作業だとも思っていて、今回作品を発表することも「その孤独な感情を自分は大事にしているんだ」ということを確かめるような試みだったと思います。

「GQ JAPAN クリエイティブ・ウィークエンド」(Ginza Sony Park、2025)会場にて、大森元貴「僕が居ようが居まいが」展示風景

──それは大森さんが自身の楽曲の歌詞をつくるときにも共通する感覚でしょうか。

 共通点はあると思います。ポピュラー・ミュージックをつくっているという自覚があるので、多くの人に音楽を届けるうえで僕が大事にしているのは、自分が先導者ではないという意識です。価値観を定めたりだとか、何かの答え合わせをするために歌詞を書いてるという感覚はありません。あくまでも、そのときに生まれた心情や情景を書きつづり、それをどう読むかは受け取るみなさんに任せる、という姿勢が大切なのではないかと思っています。

 Mrs. GREEN APPLEは、前向きなメッセージを届けていると思われることも多いのですが、僕自身はそういう気持ちで歌詞を書いたことはないんです。 読む人によって、感じ方がまったく違なるような歌詞をつくることができたら いいと思っています。その人が、生きてきた経験を投影しながら感じてもらうものだと思うので、そこの余白を残すということは意識しています。

表現者の使命とは

──ご自身が絵や写真を見たり感じたりするときに、大事にしていることはありますか。

 日常の延長線という感覚でしょうか。普段の生活のなかで目に入る写真やデザインから、たくさんのインプットをしています。そういった日常のなかでのインプットの蓄積が、自分が表現活動をするうえで大切なことではないでしょうか。寝室やスタジオにアートやデザイン性の高い家具を置いたりするなど、アートは毎日の生活のなかで様々な影響を与えてくれます。

──今回の「僕が居ようが居まいが」は「GQ クリエイティビティ・アワード」受賞者による作品展示イベント「GQ JAPAN クリエイティブ・ウィークエンド」内で開催されました。ほかの様々な表現分野での受賞者といっしょに展示される機会になりましたが、ご自身の刺激にもなるのではないでしょうか。

 自分も表現の仕事に携わってはいるものの、陶芸や建築、現代美術といった分野の方とはなかなか触れ合う機会がなく、作品を見ながらそういったジャンルの方々とお話をすることで、表現を支える人間性を垣間見ることができてとても楽しかったです。

──最後に、音楽、絵画、写真といったジャンルに共通する「ものをつくる」という行為について、大森さんの考えを教えて下さい。

 誰かを慰める装置としてちゃんと機能し、そこに嘘がないようにする、というのは、つね日頃考えていることですね。芸術は豊かなものですが、同時に衣食住のように生活に必要不可欠なものではない、しかし、だからこその彩りを生むことができるということは忘れたくないなと思っています。そういった余剰をつくりだせるからこそ、誰かの日常のなかの孤独感に寄り添うことができる。そんな表現を続けていければと思っています。