2024.10.1

「GUCCI COSMOS」(京都市京セラ美術館)開幕レポート。広がるグッチの「宇宙」

イタリアを代表する1921年創設のラグジュアリーファッションブランド「グッチ」。その大規模な世界巡回展「GUCCI COSMOS(グッチ・コスモス)」が京都市京セラ美術館で開幕した。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、「ECHOES」セクション。手前のドレスはテイラー・スウィフトが着用したもの
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 1921年にグッチオ・グッチによって創設されたイタリアを代表するラグジュアリーブランド「グッチ」。その大規模展覧会「GUCCI COSMOS(グッチ・コスモス)」が、京都市京セラ美術館で開幕した。

京都市京セラ美術館

 本展は、上海(2022)、ロンドン(2023)に続く世界巡回展。グッチの日本上陸60周年を記念するものであり、日本での開催は京都だけとなる。同ブランドの100年を超える歴史のなかでも、とくにアイコニックなデザインを世界中から集め、没入型インスタレーションとして展開するこの展覧会は、日本においてこれまでにない規模のグッチ展だ。

 キュレーターはイタリアのファッション批評家マリア・ルイーザ・フリーザ。セノグラフィーはエス・デヴリン。展示は新館「東山キューブ」から始まり本館にまたがるという、同館でも滅多にない規模の展示構成だ。

 マリア・ルイーザ・フリーザは本展について次のような言葉を寄せている。「私にとって、グッチの歴史を探求するこのプロジェクトは、毎回それぞれに独自の視点と新たな発見をもたらしてくれます。100年以上にわたりファッションをはじめとする視覚文化のアイコン的な先駆者であり続けたブランドの物語を、衣服、オブジェ、エレメント、人々、時代背景というじつに多様なレンズを通して伝えるだけでなく、会場のスペースや開催する都市の雰囲気によって変化するエキシビションに取り組むことができるのですから。京都市京セラ美術館のような歴史と格式のある舞台で、新しい解釈やエレメントを加え、より豊かな体験へと再構築することは、とてもやりがいのある挑戦でした。Gucci Cosmosは、グッチの起源と未来を思い描くイマジネーションの力で絶えず革新されていくその歴史の物語を、イマーシブに体験するエキシビションです」。

展覧会のエントランス

 象徴的な「赤」で彩られたエントランスをくぐると、グッチと日本の「赤い糸で結ばれた関係性」を示す映像が流れている。映像の終わりとともに、グッチの歴史の始まりへと向かう。

展示風景より

 巨大なキャビネットが同心円状に並ぶ「TIME MAZE 時の迷宮」は時間の迷宮をめぐるような構造。ここでは、グッチ設立の地・フィレンツェにあるアーカイヴから選ばれた様々なプロダクトが年代順にズラリと並ぶ。「バンブー」や「フローラ」「GG(パターン)」など、グッチを象徴する様々なモチーフがいかに生まれ、いまに受け継がれているのかがよくわかるセクションとなっている。

展示風景より、「TIME MAZE」セクション
展示風景より、「TIME MAZE」セクション
展示風景より、「TIME MAZE」セクション

 これを抜けると円形の展示室「ZOETROPE 乗馬の世界」にたどり着く。創設者であるグッチはブランド創設前にサヴォイホテルでポーターとして働いており、そこで富裕層の趣味嗜好を学んだという。そのひとつにあったのが乗馬で、名作「ホースビット」へとつながった。

 ZOETROPEとは回転のぞき絵を指す言葉であり、かつてエドワード・マイブリッジが世界に衝撃を与えた馬の連続写真のように、馬が走り抜ける映像が複数台のプロジェクターによって投影され、乗馬の世界につながるルックが姿を表す。

展示風景より、「ZOETROPE」セクション
展示風景より、「ZOETROPE」セクション

 北回廊に広がる「ECHOES クリエイティビティの系譜」は、創設時から現代に至るまで、30以上の様々なルックが壮大に並ぶ。

 GUCCIを大きく躍進させたトム・フォードから現在のサバト・デ・サルノまで、様々なアーティスティック・ディレクターたちによるユニークな仕事が重なり、いかにグッチの歴史を紡いできたのかが浮かび上がってくる。

 ルックは日本の着物からの強い影響が伺えるトム・フォードによる作品から、レディーガガやテイラー・スウィフトといったセレブリティが着用したものまで多種多様。部屋のBGMには、ミシンやハサミの音などがミックスされている点にも注目してほしい。

展示風景より、「ECHOES」セクション
展示風景より、「ECHOES」セクション
展示風景より、「ECHOES」セクション。手前のドレスがテイラー・スウィフトが着用したもの
展示風景より、「ECHOES」セクション

 続く「LEISURE LEGASY ライフスタイル讃歌」では、乗馬やテニスやスキューバやゴルフなど、グッチによるレジャーアイテムの数々があわせて展示される。いまではもう存在しないアイテムからは、各時代のライフスタイルも想像できるだろう。ここで特筆すべきは、京都市京セラ美術館所蔵品とのコラボレーションだ。

展示風景より、「LEISURE LEGASY」セクション

 例えばゴルフバッグと丹羽阿樹子《ゴルフ》(昭和初期)、スイムウェアと中村研一《瀬戸内海》(1935)、あるいはサドルと菊池契月《紫騮》(1942)など、グッチのアイテムと美術館コレクションのリンクが提示されており、京都市京セラ美術館でしか実現しえなかった展示構成だ。同館館長の青木淳は、このセクションについて「いままでとは違う関係のなかで作品を見る機会となる。これまで当館に来たことがない人にとってもコレクションを示すいい機会だ。このようなコラボレーションはとても望ましいことで嬉しく思う」と語っている。

展示風景より、奥が丹羽阿樹子《ゴルフ》(昭和初期)
展示風景より、左が菊池契月《紫騮》(1942)

 1947年に誕生して以来、グッチのアイコンとなっている「グッチ バンブー 1947」にフォーカスしたセクションが 「BAMBOO バンブーの世界」だ。

 竹林の映像がプロジェクションされた壁には60年代から現在までのバンブーバッグが並ぶ。これらと対面するように、横山奈美森山大道ら日本のアーティストたちがヴィンテージのバンブーバッグとコラボレーションした作品が展示。またバンブーとつながるように、井上流光の日本画《藪》(1940)が空間において大きな存在感を放つ。ここでもグッチと美術館コレクションの共演が実現している。

展示風景より、「BAMBOO」セクション
展示風景より、「BAMBOO」セクション。手前が横山奈美と森山大道による「グッチ バンブー 1947」。奥が井上流光《藪》(1940)

 展覧会の最後を締めくくるのは「RED THREADS グッチの絆」。現クリエイティブディレクター、サバト・デ・サルトの象徴的なカラーである「赤」をモチーフにした部屋で、歴史を超えて様々な赤とリンクするアイテムが並ぶ。またここは展覧会冒頭で示された「赤い糸」へとつながるもので、会場全体が円環をなし、連綿と続くグッチの歴史を体現しているとも言えるだろう。

 100年以上に渡り紡がれてきたグッチの美意識と卓越した技術。そして様々なアーティスティック・ディレクターたちが星座となり構築してきたその「コスモス」を、京都の地で体感してほしい。

展示風景より、「RED THREADS」セクション
展示風景より、「RED THREADS」セクション
展示風景より、「RED THREADS」セクション