2026.9.9

第37回世界文化賞、ジェニー・ホルツァー、アンディ・ゴールズワージーらが受賞

世界の優れた芸術家に贈られる「高松宮殿下記念世界文化賞」。その第37回受賞者が発表された。

写真提供=公益財団法人日本美術協会

ジェニー・ホルツァー Photo: Beatrice Moritz © The Japan Art Association
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 1988年に設立され、世界の優れた芸術家に贈られる「高松宮殿下記念世界文化賞」。その第37回受賞者が発表された。

 同賞は、1887年に設立された公益財団法人日本美術協会の設立100年を記念し、前総裁・高松宮宣仁親王(1905〜1987)の「世界の文化芸術の普及向上に広く寄与したい」という遺志を継いで創設されたもの。毎年、世界の芸術家を対象に絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の5部門において受賞者が選ばれ、それぞれに感謝状、メダル、賞金1500万円が贈られる。

 これまで高松宮殿下記念世界文化賞では35ヶ国180名の受賞者が選ばれており、オラファー・エリアソンアイ・ウェイウェイ、妹島和世+西沢立衛/SANAAウィレム・デ・クーニングデイヴィッド・ホックニー李禹煥草間彌生杉本博司三宅一生アントニー・ゴームリージェームズ・タレルなどが名を連ねている。昨年は、ピーター・ドイグ、マリーナ・アブラモヴィッチら5名が選出された

 第37回となる今年は、ジェニー・ホルツァー(絵画部門/アメリカ)、アンディ・ゴールズワージー(彫刻部門/イギリス)、ダニエル・リベスキンド(建築部門/アメリカ)、ヘルベルト・ブロムシュテット(音楽部門/スウェーデン)、ケイト・ブランシェット(演劇・映像部門/オーストラリア)の5名が受賞。さらに、今年で第29回となる若手芸術家奨励制度の対象団体も同時に発表され、ラ・スルス・ガルースト協会(フランス)が選ばれた。

絵画部門

 絵画部門を受賞したジェニー・ホルツァーは1950年アメリカ生まれ。米国の現代アートシーンを代表するコンセプチュアル・アーティストのひとりであり、電光掲示板やLED、ビルボードなどを媒体としたテキストを用いた作品で知られている。1990年にはヴェネチア・ビエンナーレでアメリカ代表として女性で初めて個展を開催。最高賞である金獅子賞を受賞している。2016年にフランス芸術文化勲章オフィシエ受章。24年には米タイム誌で「世界で最も影響力のある100人」にも選出された。

ジェニー・ホルツァー ニューヨークのスタジオにて(2026年5月) Photo: Beatrice Moritz © The Japan Art Association

 初期の代表作には、東西の重要な思想が記された膨大な書籍の要点を短文にする過程で誕生した《Truisms(自明の理)》(1977〜79)がある。2001年には自身でテキストを書くことをやめ、詩人や政治家などの他者のフレーズを使用。05年以降は「レダクション・ペインティングス」シリーズを手がけるほか、18年のフロリダ州の高校で銃乱射事件が起こった際には、銃暴力反対をメッセージで訴えるLEDトラックを走らせた。近年は、「ユートピア的でありながら陶酔的であるにはどうすればよいか」という問いかけに、AIが言葉でどのように回答するかを探る試みも行っている。

ジェニー・ホルツァー《ヴェネツィア・インスタレーション:第一前室》(1990) 第44回ヴェネツィア・ビエンナーレ Photo: Salvatore Licitra
展覧会「ジェニー・ホルツァー:ライトライン」でのインスタレーション(2024) ソロモン・R・グッゲンハイム美術館(ニューヨーク) Photo: Filip Wolak

彫刻部門

 彫刻部門に選ばれたアンディ・ゴールズワージーは1956年イギリス出身。自然から得た素材を用いて、作品が置かれる場のもつ特性を活かして制作する「ランド・アート」の第一人者だ。少年期から青年期にかけてヨークシャーで過ごし、美術学校に学ぶ。同地の農場で働いた経験が、のちの政策の基盤になった。野外インスタレーションを主な表現の場としながら、スコットランド国立美術館やメトロポリタン美術館など各国の主要な美術館でも作品を展示。2000年には大英帝国勲章(OBE)を受章した。

アンディ・ゴールズワージー Dumfriesshire, Scotland, U.K., 2024 Photo: Andy Goldsworthy Studio

 世界各地で採集した自然物や気象条件そして自身の身体を制作に活用し、残された作品は写真に収めたあと、自然とともに朽ちるのを任せるというのがゴールズワージーのスタイルだ。

 1987年には初来日し、三重県の大内山村(現・大紀町)で滞在制作を実施。その活動は「アンディ・ゴールズワージー展:ふたつの秋」(1993〜94、栃木県立美術館・世田谷美術館)に結実した。モニュメンタルなプロジェクトも手がけており、《ストーム・キング・ウォール》(ストーム・キング・アートセンター、ニューヨーク、1997〜98)はその代表作と言える。

アンディ・ゴールズワージー《ストーム・キング・ウォール》(1997–98) Photo: Andy Goldsworthy Courtesy of Andy Goldsworthy
アンディ・ゴールズワージー《水で留められた楡の葉》(2010) Photo: Andy Goldsworthy Courtesy of Andy Goldsworthy

建築部門

 建築部門に選出されたダニエル・リベスキンドは1946年ポーランド生まれ。建築を通じて文化的記憶を喚起する卓越した表現力で知られ、建築・都市デザインの国際的な第一人者でもある。ホロコースト生存者の両親のもと誕生したという過酷な出自もあわせもつ。主な受賞歴に、ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞(1985)、ドイツ建築賞(1999)、ゲーテ・メダル(2000)、ヒロシマ賞(2001)、ドレスデン平和賞(2023)。フランス芸術文化勲章シュヴァリエも受章している。

ダニエル・リベスキンド 自作の素描とともに「ベルリン・ユダヤ博物館」(2026年5月) Photo: Roland Horn © The Japan Art Association

 代表作には、ドイツ・オスナブリュックの「フェリックス・ヌスバウム・ハウス」(1998)の《出口のない空間》や、「ベルリン・ユダヤ博物館」(2001)があり、造形の中心に配された何も展示できない「ヴォイド(空虚)」など、均質的な秩序から来館者を「ずらす」ことで歴史の裂け目を体感させる。2003年には、米ニューヨーク同時多発テロ跡地の再開発コンペでマスタープランを勝ち取り、タワーの跡地を「聖なる空虚」として保存。過去の重みを引き受けながら「建築は沈黙が支配する場所で語らねばならない」と説いている。

「ベルリン・ユダヤ博物館」(2001)ドイツ Photo: Roland Horn © The Japan Art Association
「連邦軍軍事史博物館」(2011)ドイツ・ドレスデン Photo: Roland Horn © The Japan Art Association

音楽部門

 音楽部門を受賞したヘルベルト・ブロムシュテットはアメリカ出身。現代のクラシック音楽界において70年以上にわたって第一線で活躍し続けており、もっとも尊敬を集める指揮者のひとりだ。作曲家が譜面に書き込んだ意図を緻密に具現化し、重厚でありながら透明で引き締まった音を生み出す。

ヘルベルト・ブロムシュテット Photo: Paul Yates

 1954年にプロの指揮者としてデビュー後、北欧の名門オーケストラの指揮を歴任。75年からは当時の東ドイツの名門オーケストラ、シュターツカペレ・ドレスデン(SSD)で首席指揮者を務め、国際的な名声を高める。以降、様々な場所で指揮や音楽監督を務め、米グラミー賞を複数受賞した。

 日本とも縁深く、1981年の初共演以来、NHK交響楽団とは45年にわたる信頼関係を築き、同楽団の「桂冠名誉指揮者」を務めている。2018年には外国人叙勲として「旭日中綬章」を受章した。

サンフランシスコ交響楽団のアジア演奏旅行にて 1992年
Music Director Herbert Blomstedt and the San Francisco Symphony in performance during the Asian Tour, 1992
Photo: Steve J. Sherman
Courtesy of San Francisco Symphony
NHK交響楽団 第2021回定期公演Cプログラムから 2024年10月
NHKホール
The NHK Symphony Orchestra, Subscription Concert No. 2021 (Program C) October, 2024
NHK Hall, Tokyo
©NHKSO

演劇・映像部門

 演劇・映像部門に選ばれたケイト・ブランシェットは1969年オーストラリア出身。ハリウッドでも活躍している国際的な俳優、プロデューサーだ。舞台俳優から出発して磨き上げた演技と、幅広い社会的活動で知られている。2012年フランス芸術文化勲章シュバリエを受章。17年にはオーストラリア勲章で現在最高位の「コンパニオン」に任命されている。

ケイト・ブランシェット ©The Japan Art Association

 オーストラリア国立演劇学院を卒業後、舞台俳優として注目を集め、1993年にシドニー劇場批評家協会賞の新人賞と最優秀女優賞を受賞。その後は映画界にも進出し、『エリザベス』(1998)のエリザベス一世役でゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞するとともに、アカデミー主演女優賞にもノミネートされ、評価を確立した。そのほかの代表作として、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズや『アビエイター』(2004)、『アイム・ノット・ゼア』(2007)、『ブルージャスミン』(2013)、『TAR/ター』(2022)などに出演し、様々な賞を受賞した。

 また、映画・テレビ制作会社「ダーティ・フィルムズ」の共同設立者や、オーストラリアの劇団「シドニー・シアター・カンパニー」の共同芸術監督・CEOを務める。そのいっぽうで社会的活動にも熱心に取り組み、世界の難民や移民、トランスジェンダー支援も行っている。

『TAR/ター』(2022) Credit: Courtesy of Focus Features © 2022 Focus Features, LLC.
Displacement Film Fund(難民映画基金)による作品が上映された第55回ロッテルダム国際映画祭にて(後列左から3人目、2026年1月) オランダ・ロッテダム Photo: Anne Reitsma

若手芸術家奨励制度

 若手芸術家奨励制度の対象団体に選ばれたラ・スルス・ガルースト協会は、フランスの現代美術家ジェラール・ガルーストと妻でインテリア・デザイナーのエリザベート・ガルーストによって1991年に設立された。アートを通じた子供たちの支援と社会変革を目指して活動を続けている。

パリの自宅兼アトリエにて 共同創設者の妻エリザベートさんと、息子で事務局長のギヨームさんと(2026年4月) Photo: Shun Kambe © The Japan Art Association

 活動の柱となるのは、第一線で活躍するプロのアーティストらによるワークショップだ。主に6歳から18歳の子供たちを対象に学校の休暇中に行われ、午後には保護者を招いた発表の場も設けられている。ほかにもプログラムは多岐にわたり、デッサンや油彩、粘土細工といった伝統的な美術にとどまらず、写真、映像制作、デジタル・イラストレーション、演劇、執筆まで網羅しているのも特徴だ。

 現在、協会はフランス全土に10ヶ所の拠点をもち、約200名のアーティストらの協力のもと、1万人近い子供たちの支援を行っている。

「不思議の国のアリス」を題材とした衣装作りとパフォーマンス(2026年4月) パリ 
Photo: Shun Kambe © The Japan Art Association
マリオネットのワークショップ(2026年4月) オワーズ県 Photo: Shun Kambe © The Japan Art Association

 なお、今回の選考委員は、建畠晢(美術評論家/絵画・彫刻部門)、三宅理一(谷口吉郎・吉生記念金沢建築館館長/建築部門)、井上道義(指揮者/音楽部門)、渡辺祥子(映画評論家/演劇・映像部門)が務めた。10月28日には、東京・元赤坂の明治記念館で授賞式典が開催される予定となっている。