2025.10.21

ドイグやアブラモヴィッチら、第36回世界文化賞受賞者ら集う。「美術の重要性増している」

世界の優れた芸術家に贈られる「高松宮殿下記念世界文化賞」。その第36回受賞者がオークラ東京に会し、記者会見が行われた。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

左から、ピーター・ドイグ、マリーナ・アブラモヴィッチ、エドゥアルド・ソウト・デ・モウラ、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル、アンドラーシュ・シフ
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 1988年に設立され、世界の優れた芸術家に贈られる「高松宮殿下記念世界文化賞」。その第36回受賞者たちが一堂に集う記者会見がオークラ東京で行われた。

 世界文化賞は、1887年設立の公益財団法人日本美術協会が設立100年を記念し、前総裁・高松宮殿下の「世界の文化芸術の普及向上に広く寄与したい」という遺志を継いで創設したもの。毎年、世界の芸術家を対象に絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の5部門において受賞者が選ばれ、それぞれに感謝状、メダル、賞金1500万円が贈られる。

 1989年以来、高松宮殿下記念世界文化賞には185名の受賞者が選ばれており、前回はソフィ・カルや坂茂らが受賞した。

 今年の受賞者は、ピーター・ドイグ(絵画部門/イギリス)、マリーナ・アブラモヴィッチ(彫刻部門/セルビア)、エドゥアルド・ソウト・デ・モウラ(建築部門/ポルトガル)、アンドラーシュ・シフ(音楽部門/イギリス)、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル(演劇・映像部門/ベルギー)の5名が受賞。さらに、今年で第28回となる若手芸術家奨励制度の対象団体も同時に発表され、ナショナル・ユース・シアター(イギリス)が選ばれた。

記者会見より、ピーター・ドイグとマリーナ・アブラモヴィッチ

 絵画部門を受賞したピーター・ドイグは1959年スコットランド生まれ。現代美術における絵画の一潮流「新しい具象(ニュー・フィギュラティブ・ペインティング)」の代表的な画家として知られている。「絵を描くためのインスピレーションはいつも過去の記憶のページから生まれてくる」と語るように、写真や絵はがき、映画などから得たイメージや過去の記憶をもとに豊かな色彩と独特な筆致で風景や人物を描くことからも、世界でもっとも重要な画家のひとりであると評価されている。2020年に、東京国立近代美術館において日本初の美術館個展が開催されたことは記憶に新しいだろう。

ピーター・ドイグ スキージャケット 1994 © Peter Doig

 彫刻部門に選ばれたマリーナ・アブラモヴィッチは1946年セルビア(旧ユーゴスラビア)生まれ。自らの身体を使うことを主な表現手法としており、時に観客も作品の一部となるような「パフォーマンス・アート」の先駆者として世界的に知られており、《アーティスト・イン・プレゼント》をはじめとする数々の代表作で世界中の観客を魅了してきた。新潟の十日町には、宿泊できる作品《夢の家》がある。

マリーナ・アブラモヴィッチ アーティスト・イズ・プレゼント 2010 ニューヨーク近代美術館(MoMA) Photo by Marco Anelli
Courtesy of the Marina Abramović Archives

 建築部門に選出されたエドゥアルド・ソウト・デ・モウラは1952年ポルトガル生まれ。モダン建築と自然を融合させた建築を数多く生み出しており、その功績からもポルトガル建築界の第一人者としても知られている。

ブラガ市営競技場「エスタディオ・ムニシパル・デ・ブラガ」 2003 Photo by Shun Kambe
© The Japan Art Association

 音楽部門を受賞したアンドラーシュ・シフは1953年ハンガリー出身。現代ピアニスト最高峰のひとりとして知られ、室内オーケストラの創設やピアノを弾きながらオーケストラを指揮する「弾き振り」を行うなど、多彩な表現活動が注目されてきた。

アンドラーシュ・シフ&カペラ・アンドレア・バルカのコンサート 2025年3月21日
ミューザ川崎シンフォニーホール Photo by Taichi Nishimaki

 演劇・映像部門に選ばれたアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルは1960年ベルギー生まれの振付師/ダンサー。自身のカンパニー「ローザス」の芸術監督として、1980年代以降のコンテンポラリー・ダンス界を牽引してきた人物だ。

ワンス 2002 ©︎ Herman Sorgeloos Courtesy of Rosas

 また若手芸術家奨励制度の対象団体に選ばれたナショナル・ユース・シアター(NYT)は1956年のロンドンにて設立。ダニエル・クレイグやヘレン・ミレン、コリン・ファースなど、のちに有名となる俳優を数多く輩出してきたことでも知られている。

 10月21日に行われた合同記者には、受賞作家のほか、名誉顧問や国際顧問らも出席。国際顧問を務めるヒラリー・ロダム・クリントンは、「分断と戦いの時代のなかで、どれだけ美術が外交としての強さを持っているかを示している。分断が進むなか、美術はより重要性が増している」と語り、世界文化賞が担う役割の重要性を強調。また、デイヴィッド・ロックフェラー・ジュニア名誉顧問は「アーティストは社会の中心にある。人々の理解を助け、他者への洞察を与えるものだ」とし、アーティストたちに対してあらためて敬意を表した。

 ピーター・ドイグとマリーナ・アブラモヴィッチも現在の社会情勢を踏まえ、次のような力強い言葉を残している。

「絵画は孤独な作業だが、同時に多くの人から影響を受けて立ち上がるもの。社会をありのままに見るもの、不正義や暴力を映すものとしても重要だ」(ドイグ)。

「美術の機能とは異なる社会背景をもつ人をつなぐ橋となることだ」(アブラモヴィッチ)。