2025.10.28

木造モダニズム建築の先駆け。国登録有形文化財 三岸好太郎・節子の住宅アトリエが大規模改修へ

洋画家の三岸好太郎・節子夫妻が住宅兼アトリエとして使用していた「三岸家住宅アトリエ」。築91年の国登録有形文化財が、大きく生まれ変わる。

文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

三岸家住宅アトリエ大改修プランイメージ ©建築継承研究所
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木造モダニズム建築の先駆け

 近代を代表する洋画家・三岸好太郎(1903〜1934)・節子(1905〜1999)夫妻。その住居兼アトリエとして1934年に建てられた国の登録有形文化財「三岸家住宅アトリエ」が、生まれ変わろうとしている。

現在の三岸家住宅アトリエ 撮影=筆者

 同建築は、三岸好太郎が自らスケッチを描き、理想のアトリエとして構想したもの。しかし好太郎は完成を待たずにこの世を去り、節子によって引き継がれて完成した。

 設計を手がけたのは建築家・山脇巌(やまわき・いわお、1898〜1987)。ドイツ留学時に学んだバウハウスの理念を背景に設計したものであり、当時の国際様式を日本の木造技術で実現した木造モダニズム建築の先駆けだ。

 外観は水平・垂直を強調したシンプルなフォルム。また南東の角には当初、二層吹き抜けのガラス面「コーナーウィンドウ」が設置され、自然光を最大限に取り込むデザインとなっていた。しかしながら構造的な強度の問題などからこれまで3度の大改修が実施。50年代後半には応接室を増築したことでコーナーウィンドウは覆われ、80年代には連続ガラス面も住宅用アルミサッシへと置き換えられた。そのため、創建時と現在では外観が大きく異なる状態だ。

創建当時の三岸家住宅アトリエ

何がどう変わる?

 今回、この三岸家住宅アトリエが、大規模改修によって生まれ変わる。主体となるのは、インフラ・建物の耐震補強事業に取り組む株式会社キーマンだ。

 24年7月に三岸家住宅アトリエと隣接する集合住宅「カーサビアンカ」を継承したキーマン。同社は21年より「REDO事業」(耐震補強+再生運用プロジェクト)に取り組んでおり、今回のプロジェクトもその一環だ。同社代表の片山寿夫はこう語る。「今回の改修は、国登録有形文化財を“守る”だけでなく、“活かす”ことを目的としています。三岸家住宅アトリエの価値を継承しながら、耐震性能・環境性能を現代レベルに高め、積極的な活用によって収益と循環を生み出す“活きた文化財”へと進化させることにあります。これまで守られてきた築91年を迎える三岸家住宅アトリエを“過去の遺産”ではなく、私たちが継承し、“未来の資産”として新たな運営方法で次の世代へ引き継いでいく、過去・現在・未来をつなぐ建築物として次の50年へ歩み続けられるようにしたいと考えています」。

 改修コンセプトは「シン・木造モダニズム」。創建当時の意匠を現代の技術で再解釈するという方針のもと、様々な改修を行う。

 具体的には、現代の防火・耐震基準に適合した新たなコーナーウィンドウを設置。これにより、この建築が本来持っていた特徴が復活する。コーナーウィンドウを覆っていた応接室は、隣接する集合住宅カーサビアンカの1階に建具・造作・内装を移設。屋根も現在の寄棟屋根を撤去し、本来の直方体形状を復活させるという。

右に見えるのが、本来はコーナーウィンドウだった窓 撮影=筆者
内部空間 撮影=筆者
中庭から見た応接室部分 撮影=筆者
右がカーサビアンカ 撮影=筆者

 改修後の三岸家アトリエ住宅とカーサビアンカ1階は「REDO鷺ノ宮」として、美術や建築関連の書籍を閲覧・展示できる空間となり、企画展示やワークショップ、イベントなどに対応する文化拠点として運用。カーサビアンカの2〜3階の4戸は共同住宅となる。

 たんなる復原ではなく、現在の技術を融合することで、動態保存+積極活用を目指すこのプロジェクト。完成時期は2026年秋頃が予定されている。