2024.12.5

中東アートシーンの台頭。2024年アート界の「Power 100」ランキングが発表

イギリスの現代美術雑誌『ArtReview』が、2024年アート界の「Power 100」ランキングを発表した。中東地域のキュレーターや文化人物の台頭が顕著であり、同時に西洋のメガギャラリーの影響力が低下している。

フール・アル・カシミ © SEBASTIAN BÖTTCHER

 イギリスの現代美術雑誌『ArtReview』が毎年発表している、アート界でもっとも影響力のある100組のランキング「Power 100」。その2024年版が公開された。

 このランキングは、世界中のアート専門家40名からなる審査委員会の意見をもとに選出されるもので、審査委員会は「過去12ヶ月間に活躍した人物であること」「彼らの活動が現在のアート界を形成していること」「彼らの影響力がローカルなものではなく、グローバルなものであること」という3つの基準を設けているという。

 今年のランキングで首位に輝いたのは、シャルジャ美術財団の理事長で2003年からシャルジャ・ビエンナーレのディレクターを務めているフール・アル・カシミ。彼女のリーダーシップの下、同財団とこのビエンナーレは海湾地域のアーティストにとって重要なリソースとなり、地域と国際的な現代アートの発展をつなぐ架け橋となった。また、彼女は毎年開催される「マーチ・ミーティング」カンファレンスの運営にも携わり、これがアート業界の重要なイベントのひとつとなっている。

 『ArtReview』はアル・カシミを1位に選んだ理由として、「アル・カシミはエミレートのリーダーの娘としての影響力を活かし、財団を通じて、グローバル・マジョリティ(発展途上国や非西洋地域)のアーティストや文化団体を前面に押し出し、西洋中心の物語からの転換を実現している」としている。また、アル・カシミは2025年に開催される国際芸術祭「あいち2025」の芸術監督にも任命されており、外国人として初めてその役割を担うこととなった。

 今年のランキングには、ほかにも中東地域のキュレーターや文化人物が目立つ位置を占めており、同地域の影響力が増していることがわかる。アル・カシミに加えて、カタール・ミュージアムズの会長であるシェイカ・アル=マヤッサ・ビン・ハマド・ビン・ハリーファ・アル=サーニーも9年ぶりにランキングに登場し、2015年の87位から21位と大きく順位を上げた。

 また、サウジアラビアの文化大臣であるバドル・ビン・アブドラ・ビン・ファルハン・アール・サウード王子は41位にランクイン。さらに、パレスチナ出身のキュレーター、リーム・ファッダは56位にランクインしており、彼女の現在の役職であるアブダビの文化プログラムの責任者として、地域の文化シーンへの積極的な関与として評価されている。

 いっぽうで、今年のランキングには、伝統的な西洋ギャラリーの影響力が低下しているという顕著な傾向が見られる。昨年高順位を記録していたメガギャラリーのオーナーたちが今年は大幅に順位を落としており、その変化はアートマーケットの構造的な変動を反映している。例えば、ハウザー&ワースの共同設立者であるアイワン・ワースとマニュエラ・ワース、パートナー兼社長のマーク・パイヨは、昨年の14位から28位へと順位が後退した。さらに、ラリー・ガゴシアンは12位から35位、デイヴィッド・ツヴィルナーは19位から38位、エマニュエル・ペロタンは23位から42位、マーク・グリムシャーは20位から51位と、いずれも順位を大きく下げた。

 また、今年上位10人のうち7人/組はアーティストまたはアーティストコレクティブとなった。今年2位にランクインしたリクリット・ティラヴァーニャは、伝統的なアートの枠を超え、参加型の食事やゲームを通じて観客との対話を重視するアプローチで高く評価された。彼は2022年の「岡山芸術交流」のアーティスティック・ディレクターも務めた。スティーヴ・マックイーン(4位)は、映画とアートの境界を越えて活動を続け、昨年1位だったナン・ゴールディン(7位)は、アートとアクティヴィズムを見事に融合させるアーティストとしてその地位を確立している。

 さらに、ランキングに登場する多くのアーティストは、「たんに展示や機関のために作品を制作するのではなく、彼らの地位を利用して新しいインフラやネットワークを築き、仲間との連携を強化し、社会的な文脈にも影響を与える」こととしても評価されている。イブラヒム・マハマ(14位)は、自身が手掛けた彫刻インスタレーションの売上から得た資金を、ガーナ北部タマレにある3つの文化機関の運営に充てている。サミー・バロジ(17位)、マーク・ブラッドフォード(19位)、シアスター・ゲイツ(32位)、インカ・ショニバレ(36位)、ダルトン・パウラ(87位)らも同様に、社会的な意義を重視した活動を行っており、アートを通じて社会変革を目指している。

 日本からは、昨年に引き続き、2名の人物がランキングに登場している。森美術館の館長である片岡真実は、昨年の64位から62位へとランクアップし、Take Ninagawaの代表でアートウィーク東京の共同創設者である蜷川敦子も、昨年の93位から85位へと順位を上げた。