2026.10.18

大友良英+YCAM 新作展「即興!」(山口情報芸術センター[YCAM])開幕レポート。予測不能な「即興」が繰り広げられる136日間

山口市の山口情報芸術センター[YCAM]で、音楽家・大友良英とYCAMによる大規模な新作展「即興!」が開幕した。会期は2027年3月1日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=大橋ひな子(編集部)

大友良英+持田敦子+伊藤隆之+YCAM《Dance》(2026)
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 山口市の山口情報芸術センター[YCAM]で、音楽家・大友良英とYCAMによる大規模な新作展「即興!」が開幕した。会期は2027年3月1日まで。担当は同館キュレーターの西翼。

大友良英、18年ぶりのYCAMでの展覧会

 大友良英は1959年横浜生まれ。フリージャズ、即興演奏、ノイズ音楽、映画音楽など国内外の多様な音楽シーンで活動し、つねに表現の可能性を拡張し続けてきた。近年は「アンサンブルズ」の名のもと、様々な人々との協働を軸とした展示作品や特殊形態のコンサートを手がけるほか、一般参加型プロジェクトにも注力。2005年からは「アジアン・ミーティング」を始動し、音楽を通じたアジアのネットワーク構築も試みている。

 2008年にはYCAMで「大友良英/ENSEMBLES」展を開催。同展を契機として、東日本大震災以降は被災地での市民協働を多角的に模索し、2012年に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。さらに1990年代から数多くの映画・テレビのサウンドトラックを手がけており、2013年にはNHK連続テレビ小説『あまちゃん』の音楽で日本レコード大賞作曲賞を受賞している。

 本展は、大友の創作の基軸でありアンサンブルの根底にある「即興」をテーマに掲げ、大友とYCAM、そして異なるジャンルのアーティスト5名とのコラボレーションによって構築された新作展である。制作にはYCAMの研究開発チーム「YCAM InterLab」が共同参画。前回の個展から18年のときを経て、建築家・磯崎新が設計したYCAMの建築や周辺環境と呼応しながら、「二度と同じ瞬間が訪れない仕組み」のなかで多彩な音や存在が響き合う、即興的な作品世界を繰り広げている。

共同制作の原点

 大友は作品制作において、他者と協働するというプロセスを重視している。その姿勢が色濃く表れた2つの作品が、館内入ってすぐのホワイエで鑑賞者を迎える。この空間には、本展に先駆けて公開されていた《without records》が展示されている。大友、美術家の青山泰知、エンジニアの伊藤隆之による本作は、1970年代前後に流通し、すでに役目を終えた使用済みのポータブル・レコードプレイヤーで構成されている。2005年に大友が初めて手がけた展示作品であり、国内外での発表を重ね、2008年のYCAMでも大規模に展開された代表作だ。

大友良英+青山泰知+伊藤隆之《without records》(2008〜26)、大風呂敷
レコードなしのレコードプレイヤー

 巡回する会場ごとにレコードプレイヤーの使用台数は変わり、今回は約80台で構成される。回を重ねるごとに増えるレコードプレイヤーには、多くの人々の手によってレコードなしで独自の音を発するよう様々な改造が施されている。100ボルトの電流によって音が奏でられる仕組みとなっており、プログラミングされた電源のオン/オフによって空間に響く音が変化する。一見「アナログ」な手法でありながら、二度と同じアンサンブルを生み出さない緻密な仕組みが構築されている。

 その頭上には、カラフルな布をつなぎ合わせた「大風呂敷」が広がる。これは東日本大震災後、福島の現状と未来を世界へ発信することを目的に発足した「プロジェクトFUKUSHIMA!」から誕生した作品だ。現在は全国各地の協働プロジェクトとして広がっており、会場には札幌、多治見、愛知、福島、猪苗代、池袋から集められた大風呂敷とともに、山口で新たに制作された大風呂敷が展開されている。

坂本龍一へのトリビュートとなる新作

 中庭に面したスタジオBでは、坂本龍一が生前に残したピアノ演奏の打鍵データ(MIDI)を用い、大友の自動演奏ギターと共演させる新作サウンド・インスタレーション《Duo》が展示されている。本展の企画当初、大友から坂本への「トリビュート作品をつくりたい」という提案がなされた。本作では、坂本が2004〜05年に演奏した即興演奏の打鍵データを分析、自動演奏化。使用されているピアノは、1999年に坂本が特注で作製した実物である。

大友良英+坂本龍一《DUO》(2026)
坂本が生前に残したピアノ演奏の打鍵データを用いた自動演奏ピアノ
大友のギター即興演奏の特徴を抽出し再現した自動演奏装置

 いっぽう、YCAM InterLabは大友のギター即興演奏の特徴を抽出し、再現する自動演奏装置を独自開発した。ギターの自動演奏装置は極めて稀な装置である。InterLabは大友の演奏姿を録画して解析し、奏法の癖を含めたロジックを分析。設計、制御、モーターの組み合わせに至るまで緻密に構築することで、大友の演奏特有のニュアンスを再現した。

 ひとつの空間に配置された坂本のピアノと大友のギターは、それぞれ独立して駆動する。これは生前、2人が実際に即興セッションを行っていた際、その場の音に反応しながら掛け合っていたアプローチの再現でもある。本人たちが不在でありながら、その瞬間にしか生まれない「即興的」な演奏を生成し続ける作品となっている。

 会場となるスタジオBはガラス窓に囲まれている。音響コントロールには不向きな環境だが、外の景色の変化とともに作品の表情が変わるよう、あえてガラス張りのまま公開されている(床にカーペットを敷くことで吸音処理を施している)。設置されたベンチに腰掛け、変化する外光や景色とともに生み出される音に耳を傾けたい。

1年以上にわたる対話によって生み出された大型インスタレーション

 劇場スペースとして設計されたスタジオAでは、暗い空間のなかに、木造住宅の解体現場から引き取られた柱や梁を組み上げた巨大な構造体が出現する。頭上には約330個におよぶバケツや鉛筆削り、扇風機など家にあるものが吊り下げられ、異様な存在感を放っている。本作は、美術家・持田敦子、エンジニア・伊藤隆之、そして大友の共作による新作《Dance》である。

大友良英+持田敦子+伊藤隆之+YCAM《Dance》(2026)
コンピューター制御によってかたちを変える部材

 本作は、持田が継続して取り組むテーマ「踊る家」を起点としながらも、大友やYCAMチームとの1年以上にわたる対話を経て、まったく新しいかたちの作品として実現した。4ヶ所から吊り上げられた部材は、空中で家のかたちを形成するが、コンピューター制御によって動かされることで構造自体が変容していく。部材同士が擦れ合う音が空間に鳴り響く。

 会場に立つ3本の柱が刻む一定のリズムのなかで、構造体の動きが不規則な音を生み出し、さらに頭上の物体一つひとつから直接音が発せられる。スピーカーを介さず各物体から発せられる音が空間全体で立体的に混ざり合い、物理的な振動となって鑑賞者の身体に届く。

ライブパフォーマンス「Play with 《Dance》」の様子。自動制御ではなく人力で措置を動かしている
市民やミュージシャンがともに即興パフォーマンスを繰り広げる

 通常はシステムにより自動稼働しているが、毎週土曜日に開催されるライブパフォーマンス「Play with 《Dance》」では、一般公募の市民やゲストミュージシャンなどのパフォーマーが集い、装置を手動で操作しながら即興のパフォーマンスを繰り広げる。会期中は大友の参加も予定されている。自動稼働のときとは作品の見え方もまったく異なるため、両方を見比べてその違いを体感したい。

「開かれた耳」で微かな音に注目する

 併設された芝生広場(山口市中央公園)と館内をつなぐ中庭では、Sachiko Mと大友によるユニット「Filament」が手がける野外サウンド・インスタレーション《Filaments Outside》が展開されている。

Filament(Sachiko M &大友良英)+YCAM《Filaments Outside》(2026)
公園の側溝にガジェットが付けられている

 芝生広場には一見すると変わったところのない風景が広がっており、作品の存在には気づきにくい。しかし耳を澄ますと、微かな電子音や金属音が聞こえてくる。公園周辺の側溝に16個のガジェットが設置されており、風の音や人々の声といった環境音と混ざり合いながら独特な音響体験を生み出す。

 大友は本作について「気づかない人はそのまま通り過ぎてもいい。しかし一度気づけば耳を傾けたくなるような仕かけになっている。館内の作品を体感し、耳が『開いた』状態で楽しんでほしい」と語る。鑑賞者は周囲の環境音に対して耳を澄まし、音を探す体験をすることができる。

地域との関わりを深める

 2003年11月に開館したYCAMは、間もなく24年目を迎える。地域における認知度は高いいっぽうで、周辺の飲食店や市民からは「YCAMへ入館することにハードルを感じる」という声も聞かれる。専門的な領域に見えたり、どのような活動が行われているかが伝わりにくいことがその要因だという。隣接する市立図書館には多くの人々が訪れるものの、YCAMへの導線が十分に機能しているとは言い難い状況も垣間見えた。「市民や様々な分野の専門家と共につくり、共に学ぶ」を理念に掲げる同館にとって、地域との関わりをいかに深めるかは継続的な課題である。今回の大友による市民巻き込み型のプロジェクトは、その課題に対する重要な手がかりとなりそうだ。

 その足がかりとなる取り組みとして、10月24日には近隣の山口市中心商店街にて特別企画「やまぐち秋の盆踊り2026」が開催される。これは昨年のプログラムで市民有志や大友、現代音頭作曲家の山中カメラ、ダンサーの福留麻里らが共同制作した新作盆踊り「やまぐち盆唄」を原点とするもので、地元商店街と協働して2年連続での開催となる。同展の開会式には、商店街の運営メンバーも駆けつけ、YCAMと地域が連携して街を盛り上げる意気込みが語られた。

 専門スタッフが常駐し、作家とともに作品をつくり上げていくYCAMの環境は全国的にも稀有だと言える。市民にとっても敷居の低い開かれた場として関係性が再構築されていくことで、館のあり方もまた変化していくのではないだろうか。

常栄寺で開催されている「Yamaguchi Seasonal 2026 坂本龍一+YCAM《Forest Symphony》」

 なお、本展と同時開催で「Yamaguchi Seasonal 2026 坂本龍一+YCAM《Forest Symphony》」(7月24日〜12月6日)が、YCAMから車で10分ほどの距離にある常栄寺(雪舟庭)で開催されている。各地の樹木から得られた生体データをもとに音を生成する本作は、メディア・テクノロジーを応用したYCAM発の代表的プロジェクトのひとつだ。静寂に包まれた寺の境内に設置された8個のスピーカーから、世界の樹木のデータから生成された音と庭園の環境音が混ざり合う唯一無二の音響空間がつくり出されている。YCAMでの本展とあわせて、ぜひ足を運んでほしい。