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2026.10.17

「テンジシツプロジェクト展 見えないところでも、いつも何かは起こっている」開幕レポート。私たちは世界の何を見落としているのか

東京・調布市文化会館たづくりで「テンジシツプロジェクト展 見えないところでも、いつも何かは起こっている」が開幕した。会期は2027年1月24日まで。2024年に始動した「テンジシツプロジェクト」の3年間の活動の集大成となる本展には、Aokid、飯川雄大、井口美尚、タツルハタヤマの4作家が参加している。

文・撮影=大原愛美(編集部)

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 東京・調布市文化会館たづくりで「テンジシツプロジェクト展 見えないところでも、いつも何かは起こっている」が10月15日に開幕した。会期は2027年1月24日まで。本展は、2024年に始動した「テンジシツプロジェクト」の3年間の活動の集大成として開催されるもの。キュレーターを務めるのは、Art Center Ongoing/Art Center NEW代表の小川希。Aokid、飯川雄大、井口美尚、タツルハタヤマの4作家が参加し、自分自身の経験や認識の外側に広がる「見えないところ」に目を向ける作品を、展示室や調布の街なかで展開する。

 「テンジシツプロジェクト」は、調布市文化会館たづくり1階の展示室を拠点に、2024年から活動を続けてきたアートプロジェクトだ。「知ることで、考えを転じ(テンジ)る」をテーマに、地域での情報収集やワークショップ、トークイベントなどを実施してきた。本展では、こうした活動の記録とともに、4作家による作品を紹介。会期中には市民との共同制作による作品も加わり、展示内容が変化していく。

 内覧会で小川は、「インターネットやスマートフォンを通じて膨大な情報に接することのできる現代において、私たちは世界のすべてを理解しているかのように感じながら、実際には限られた範囲しか把握できていないのではないか」と語った。スマートフォンから目を離し、実際に起こっていることに目を向けてみるとき、自分には見えていない場所でも様々な出来事が同時に起こっていることを想像できるような展覧会を目指したという。

 小川が今回声をかけたのは、それぞれ異なる方法で自身のリアリティを獲得し、表現してきた4人の作家たちだ。作品を通して、自分の想像できる範囲の外側にある世界の手触りに触れることが、本展のひとつの試みとなっている。

タツルハタヤマによる生と再生の循環

 タツルハタヤマは、身近な植物や日常生活のなかで目にするものをモチーフとした作品を発表している。

タツルハタヤマの展示 左床面のパッチワークは事前のワークショップで調布市内の子供たちが手がけたもの

 今回の展示で着目したのは、近所のコンクリートの隙間などに生える雑草だ。春になると芽吹き、冬には枯れる植物の姿を、不死鳥のイメージと重ね合わせている。普段は見過ごしてしまうような雑草の生の循環を、作品のなかに取り込む試みだ。

タツルハタヤマ《発根(Rooting)》(2026)

 また、たづくりのエントランスステージには、同様のコンセプトによる《発根(Rooting)》が展示されている。

 ハタヤマは、自分がこれまで「見ないようにしてきたもの」や「見てはいけないもの」を作品のモチーフとして取り入れることを意識しているという。今回用いられている布や木版画も、かつて取り組みながら制作をやめていた表現方法だ。

 会場には、一般参加者とのワークショップで制作された「私信キルト」も展示されている。個人的なメッセージを布によって表現し、それぞれの手仕事を通じて、他者の経験や思いに触れる機会をつくるものだ。

身体を通して街と出会う。Aokidのリサーチとパフォーマンス

 ダンスやパフォーマンスを軸に活動するAokidは、調布の街でのリサーチにもとづくインスタレーション《ぬ、の、のしらべのみくらべ》(2026)を発表している。

Aokidによる今回の展示の設計図(中央)。実際の会場を見て、内容を設計図から大幅に変更したという
床の高さに映像作品が展示されている。鑑賞者は覗きながら机の脚に設置されたオルゴールを鳴らすことができ、海の映像にBGMを付けることができる

 Aokidはこれまで、身体を動かすことを通して、都市空間やそこに居合わせる人々との関係を探ってきた。本展では、調布という場所で得られた経験をもとに作品を制作。展示室での発表に加え、11月14日、15日には、トリエ京王調布C館北側の「てつみち」で滞在型の即興パフォーマンスを行う。

 また、10月23日からは、Aokidを講師に迎えた連続ワークショップ「すぐ調布チーム×ダンスプロジェクト 布の調べ風ダンス」が実施される。参加者は「布の調べ」をテーマにパフォーマンス作品を制作し、11月14日、15日に「てつみち」で発表する予定だ。展示室で完結するのではなく、街を歩き、身体を動かし、他者とともに表現を生み出すAokidの活動は、展覧会の舞台を日常の空間へと広げていく。

井口美尚が多摩川の砂利からたどる、調布の知られざる歴史

 井口美尚が目を向けたのは、調布を流れる多摩川と、その周辺に刻まれた土地の歴史だ。1923年の関東大震災以降、コンクリート建築の増加に伴い、多摩川の砂利は建築資材として大量に採掘されてきた。井口は、こうした砂利採掘の歴史を手がかりに、かつてこの地域で営まれていた人々の生活や労働の痕跡をたどっている。

井口美尚《ロウドウのパフォーマンス》(2026)より

 展示されているのは、そうした歴史や労働の輪郭を身体によってなぞるパフォーマンスを撮影した映像作品《ロウドウのパフォーマンス》(2026)だ。現在の風景からは容易に読み取ることのできない土地の記憶に、身体的な行為を通して接近する。

 井口の作品は、11月13日〜15日に実施される屋外プログラム「ソト」でも上映される予定だ。調布駅前広場に面したビックカメラ京王調布店の壁面を使い、17時〜20時30分に映像が投影される。

飯川雄大が仕掛ける、見えない場所で起こる出来事

 飯川雄大は、鑑賞者が作品に気づくことや、作品の存在を知らないまま何かを経験することに着目したインスタレーションを発表してきた。飯川がこれまで取り組んできたのは、展示空間や鑑賞の仕組みそのものに働きかける作品だ。本展でも、作品のすべてが鑑賞者の目の前に提示されるわけではない。

中央が、ロープを引きながら《デコレータークラブ─0人もしくは1人以上の観客に向けて「調布の森はどこ?」》(2026)について解説する飯川

 そのひとつが、たづくり2階のくすのきホール前に設置されたロープを用いた作品《デコレータークラブ─0人もしくは1人以上の観客に向けて「調布の森はどこ?」》(2026)だ。

 鑑賞者がロープを引くと、何かが動く音が響く。しかし、何がどこで動いているのか、その場からは確認できない。内覧会で飯川が明かしたところによれば、ロープは建物内の別の場所につながっており、そこに「仕掛け」が設けられているという。だが、鑑賞者自身によってその構造を把握する、それが本作の根幹となっている。

 行為の結果が見えない場所での変化を引き起こす。その事象を直接確かめることはできない。鑑賞者の認識の外側に作品の一部が存在するという構造が、本展のテーマとも重なっている。

飯川雄大《デコレータークラブ─ベリーヘビーバッグ》(2026)

 また、会場では各所で《デコレータークラブ─ベリーヘビーバッグ》(2026)も展開されている。置かれているバッグに触れたり、持ち上げたりすることができるという。

 飯川の作品には、そこにあるものが作品であることを明示する情報が必ずしも添えられているわけではない。その存在に気づくこと自体が、鑑賞体験の始まりとなる。普段は意識を向けないものに目を留めること、あるいは自分の知らない場所で起こる出来事を想像することが、作品との関わりを生み出していく。

3年間の活動を振り返り、展示室の外へ

 会場には、2024年から続く「テンジシツプロジェクト」の活動を紹介するアーカイブも設けられている。

調布市のアートに関する情報を募るアンケート用紙
L字型の展示室のかたちに合わせ、ロゴマークやステートメントもL字になっている

 本プロジェクトでは、地域に関する情報収集や市民参加型のワークショップなどを通して、異なる経験や考え方を持つ人々が出会う機会をつくってきた。今回の展覧会は、その成果を振り返ると同時に、これまでの活動を街へと展開する機会でもある。

 また、11月13日〜15日に開催される「ソト」では、調布駅前広場や「てつみち」を舞台に、パフォーマンスや映像上映、ワークショップなどを実施。さらに、アーティストが屋外で公開制作を行う「アウトドア・アトリエ」も予定されている。

 展覧会のテーマである「見えないところ」は、必ずしも遠く離れた場所を意味するわけではない。日常的に通り過ぎている場所や、見慣れた風景のなかにも、まだ知らない歴史や人々の営みが存在している。4作家の作品と、3年間にわたるプロジェクトの活動は、そうした身近な世界をあらためて見つめるきっかけを提示している。