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2026.10.8

「パァーッと光が出て、キラキラッていろんなものが見えてくる。」(草間彌生美術館)開幕レポート。草間彌生の創作を「光」から読み解く

東京・新宿の草間彌生美術館で、草間彌生の創作活動を「光」という視点から捉え直す展覧会「パァーッと光が出て、キラキラッていろんなものが見えてくる。」が開幕した。会期は2027年1月31日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=王崇橋(編集部)

展示風景より、手前の作品は日本初公開となる《天国への梯子》(2024)。床の作品は、《ナルシスの庭》(1966/2026) © YAYOI KUSAMA
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 東京・新宿の草間彌生美術館で、展覧会「パァーッと光が出て、キラキラッていろんなものが見えてくる。」が開幕した。会期は2027年1月31日まで。

 本展は、今年8月に逝去した草間彌生の創作活動を「光」という視点から捉え直すもの。1950年代のドローイングから、代表作「無限の網」シリーズ、帰国後のコラージュや版画、晩年の大型絵画、そして鏡を用いたインスタレーションまで、多様な作品を通じて、草間が追求してきた光の表現とその変遷を紹介する。

 草間は幼少期から幻覚や幻聴を経験し、そこで目にしたイメージを絵に描き留めることを創作の原点としてきた。内面から生まれる光は、やがて絵画の表面に広がり、色彩や素材の輝き、さらには空間そのものを構成する要素へと発展していく。

 10月7日に行われた内覧会で、同館学芸員の山野井千晶は、本展について、草間の創作と深い関係を持ちながらも、これまで十分に注目されてこなかった「光」を切り口に、その作品世界を見つめ直す試みだと説明した。

幻覚から生まれた「内なる光」

 展示は1階ギャラリーから始まる。ここでは、金と銀のメタリックカラーを用いた大型絵画《星たちの消滅(金)》《星たちの消滅(銀)》(いずれも2010)と、うねるような形態を持つ立体作品《命》(2023)が鑑賞者を迎える。

展示風景より、手前は《命》(2023)。壁面の作品は《星たちの消滅(金)》、《星たちの消滅(銀)》(いずれも2010) © YAYOI KUSAMA

 《命》の表面には、金銀箔を用いたガラスタイルが施されており、光を受けることで見る位置によって異なる輝きを放つ。草間は1960年代のアメリカ滞在中、ソフトスカルプチャーに金色の塗料を使用して以来、メタリックカラーを好んで用いてきた。同じ金や銀でも、アクリル絵具とガラスタイルでは光の反射の具合が異なり、素材による表現の違いが浮かび上がる。

 2階ギャラリーでは、草間の創作の原点にある「内なる光」に焦点が当てられる。

 草間は自伝『無限の網 草間彌生自伝』のなかで、幼少期に野道を歩いていた際、暗くなり始めた空の山並みの稜線から突然光が現れ、様々なイメージが目に飛び込んできた経験を振り返っている。そして、そうした光景をスケッチブックに描き留めることで、幻覚によって生じた驚きや恐怖を鎮めていたという。山野井は、この体験に触れながら、草間にとって光はたんなる視覚的な効果ではなく、創作の原点そのものと深く結びついていると説明する。

1950年代のドローイング作品群 © YAYOI KUSAMA

 1950年代のドローイング《A SPIRIT》(1956)などには、暗闇のなかからイメージが光を帯びて浮かび上がるような表現が見られる。こうした光の表現は、1957年の渡米を経て大きく変化していく。その転換を示すのが、1958年に制作された《Infinity Nets(2)》だ。キャンバス全体を覆う無数の網目は、見る距離によって異なる視覚効果を生み、画面全体が淡く光を放つかのように見える。

展示風景より、右は《Infinity Nets(2)》(1958) © YAYOI KUSAMA

 山野井によれば、本作は黒い地の上に薄い白の層を重ねてグレーの下地をつくり、さらに白い網目を描いた重層的な構造を持つ。1959年に草間の作品を高く評価したドナルド・ジャッドも、網目の大きさによって画面が前進したり後退したりするように見える視覚効果に注目していた。

 草間は「無限の網」の着想のひとつとして、渡米時に飛行機から見下ろした、太平洋のきらめく海面を挙げている。本展では、1970年代以降に制作された海を主題とする色紙作品なども紹介され、金銀のエナメル塗料やパールを含む絵具によって、海の光が様々なかたちで表現されていることがわかる。

帰国後、1990年代に制作されたコラージュの作品群 © YAYOI KUSAMA

 1973年の帰国後、草間はコラージュや版画、小型立体作品にも表現を広げた。コラージュには、鳥や蝶、魚、植物などの写真が用いられ、見る角度によって色彩や輝きが変化する動植物の構造色にも関心が向けられている。いっぽう、ラメを用いた版画や立体作品では、素材そのものの光沢が表現の重要な要素となっている。

ラメを用いた版画や立体作品 © YAYOI KUSAMA

色彩が生み出す光

 3階ギャラリーでは、1980年代から近年までに制作されたアクリル絵画を通じて、草間作品における色彩と光の関係を紹介する。

 渡米初期の「無限の網」シリーズが白と黒を中心とする禁欲的な色彩を特徴としていたのに対し、1980年代以降の作品には、鮮烈な色彩が登場する。

3階ギャラリーでは、1980年代から近年までに制作されたアクリル絵画が並ぶ © YAYOI KUSAMA

 その一例が、1988年に制作された《銀河系》だ。網目を背景に、水玉状のモチーフが画面全体に広がる本作では、青と黄色、ピンクと紫などの組み合わせによって、色彩の境界が明滅するような視覚効果が生み出されている。

 山野井は、青と黄色のような補色関係にある色を組み合わせることで、それぞれの色が互いを強く引き立て、画面そのものが発光しているように見えると説明する。光源を用いることなく、色彩の相互作用によって鑑賞者の視覚のなかに光を生み出す表現だ。

補色関係にある色を組み合わせることで、画面そのものが発光しているように見えるのが、この時代の作品の特徴だ © YAYOI KUSAMA

 こうした色彩への探求は、2009年に制作が始まった大型絵画シリーズ「わが永遠の魂」へと受け継がれていく。約900点に及ぶ同シリーズでは、水玉や網目といった草間を代表するモチーフに加え、細胞のような抽象形態や、目、顔、宇宙人を思わせるイメージなどが画面を埋め尽くす。

 本展のメインビジュアルにも使用されている《命の消滅》(2011)では、黄色を基調とする画面に、目や靴、横顔、水玉、ジグザグ模様などが複雑に重なり合う。赤と緑、青と黄色といった補色の組み合わせが、画面に強い視覚的なエネルギーを与えている。

「わが永遠の魂」シリーズ。水玉や網目といった草間を代表するモチーフに加え、細胞のような抽象形態や、目、顔、宇宙人を思わせるイメージなどが画面を埋め尽くす © YAYOI KUSAMA

 また、このシリーズには、金色や銀色、銅色のアクリル絵具を下地に用いた作品もある。見る角度によって変化する金属的な光沢と、鮮烈な色彩による視覚効果が重なり合うことで、草間独自の絵画空間が生み出されている。

鏡と光が生み出す無限の空間

 4階ギャラリーでは、電飾を用いたミラールームのインスタレーション《無限なる天国への憧れ》(2020)が展示されている。草間が初めてミラールームを発表したのは1965年。その翌年には電飾を取り入れた作品も制作され、以来、鏡と光を用いた空間表現は草間の代表的なシリーズのひとつとなった。

《無限なる天国への憧れ》(2020)の内部 © YAYOI KUSAMA

 《無限なる天国への憧れ》では、色とりどりの電飾が鏡面に反射し、光がどこまでも続いていくような空間が生み出される。2階で紹介された「無限の網」が絵画の表面に奥行きを生み出していたのに対し、ここでは光が画面を離れ、鑑賞者を取り囲む空間そのものを構成する要素となっている。鏡に映り込む無数の光は、自己と周囲の境界が曖昧になるような感覚をもたらす。草間が長年にわたって追求してきた「自己消滅」という主題とも結びつく表現だ。

 さらに5階の屋上ギャラリーでは、《ナルシスの庭》(1966/2026)と、日本初公開となる《天国への梯子》(2024)が紹介される。

《ナルシスの庭》(1966/2026、部分) © YAYOI KUSAMA

 《ナルシスの庭》は、1966年の第33回ヴェネチア・ビエンナーレで発表された作品で、無数の鏡面球が周囲の風景や鑑賞者の姿を映し出す。鏡面に反射した像が互いに重なり合い、現実の空間を作品の内部へと取り込んでいく。いっぽう、《天国への梯子》では、梯子の上下に配置された鏡が互いを反射し合うことで、梯子が果てしなく上下に伸びていくような視覚効果を生み出す。

《天国への梯子》(2024) © YAYOI KUSAMA

 こうした作品において、光はもはや絵画に描かれる対象でも、素材の表面に生じる効果でもない。周囲の環境や鑑賞者の存在を巻き込みながら、作品空間そのものを成立させる要素となっている。

 幼少期の幻覚に由来する内面的な光から、網目による絵画空間、鮮烈な色彩、素材の反射、そして鏡を用いた無限の空間へ。草間の全画業を貫く「光」という主題を通じて、その表現がいかに変化し、拡張してきたのかを振り返る展覧会となっている。