2026.9.5

「平子雄一『HUMAN AND NATURE』」(東京ミッドタウン日比谷 ホール)開幕レポート。人間と自然の境界を、日比谷で問う

東京ミッドタウン日比谷で、平子雄一の展覧会「HUMAN AND NATURE」が開幕した。小さなドローイングや立体から、最大約3.5メートルの新作モビールまで約300点を通して、人間と自然、都市と植物の曖昧な境界を問い直す。会期は10月18日まで。

文=王崇橋(編集部)

展示風景より、「The no land」 © Yuichi Hirako photo by Osamu Sakamoto
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 東京ミッドタウン日比谷で、平子雄一の展覧会「HUMAN AND NATURE」が開幕した。会期は10月18日まで。

 本展は、9月1日にオープンした「東京ミッドタウン日比谷 ホール」のこけら落とし第1弾として開催されるもので、監修・企画は秋元雄史とYuichi Hirako Studioが手がける。約1200平米の会場に、新作の絵画や立体、初公開となるシリーズを含む約300点が展開されている。

約1200平米の会場に、新作の絵画や立体、初公開となるシリーズを含む約300点が展開されている © Yuichi Hirako photo by Osamu Sakamoto

都市の中心で問う「人間と自然」

 1982年岡山生まれの平子は、植物や自然と人間との共存、その関係のなかに生じる曖昧さや疑問を一貫して作品の主題としてきた。観葉植物や街路樹、公園の植栽など、人間によって管理された植物を無条件に「自然」と呼ぶことへの違和感を出発点に、絵画を中心としてドローイング、彫刻、インスタレーションなど、多様なメディアへと表現を広げている。

 今回の展覧会タイトルは、その制作の中心にある問いをこれまで以上にストレートに示すものだ。内覧会で平子は、日比谷という街について、芸能文化の集積地であると同時に日比谷公園や皇居に近く、都市と自然、歴史が共存する場所だと語った。

日比谷ステップ広場 屋外展示風景より、手前の作品は《Sacred Tree 01》(2026)

 「僕が人間である限り、人ありきの自然というものしか見られない」。そう語る平子にとって「HUMAN AND NATURE」は、自然を人間から切り離して論じるためのものではない。自身という人間のフィルターを通して自然との関係を提示し、それを鑑賞者とともに考えるための場である。高度に都市化された日比谷の中心でその問いを発することで、「何かが変わるかもしれないし、変わらないかもしれない」。その結果も含めて「観測していきたい」と話した。

 企画監修を務める秋元も、平子が扱う「自然」は、人間と対峙する圧倒的な大自然ではないと説明する。それは花瓶に挿された植物や飼われた動物、公園の緑、街路の植栽といった、日常生活のなかにすでに入り込み、人間によってある程度コントロールされた自然だ。

小さな「箱庭」から、身体を超える自然へ

 展示は、鑑賞者と自然との距離やスケールが徐々に変化するよう構成されている。

 導入部となる空間を、平子は「箱庭」と名づけた。ここには小型の立体や多数のドローイングが並ぶ。自身が両手を広げて扱えるほどのスケールを意識した空間であり、日常のなかで小さな植物を見たときに覚える愛らしさや親しみが、ひとつの手がかりとなっている。

小型の立体や多数のドローイングが並ぶ「箱庭」セッション © Yuichi Hirako photo by Osamu Sakamoto

 そこから進むと、作品のスケールは次第に大きくなっていく。庭や比較的小規模な公園で出会う自然を想定した空間には、植物とともに壺や木箱、本といった日常的なモチーフが置かれる。本について平子は、木から生まれた紙の先に人間が存在するように、こうした物は人間と自然との接点そのものを表すものでもあると説明した。

「箱庭」の展示風景 © Yuichi Hirako photo by Osamu Sakamoto

「地面」を取り去る、新たなモビール

 展覧会後半で大きな見どころとなるのが、本展で初公開されるモビールの新シリーズだ。最大約3.5メートルにおよぶ作品群が、高い天井から宙吊りにされている。

 平子がここで着目したのは、人間と植物の双方が「大地に依存している」という共通点だった。そこであえて両者の足元から地面を取り去り、宙に浮かせることで、人間と自然の関係をいったんフラットな状態から考え直せないか試みたという。

高い天井から宙吊りにされている作品群 © Yuichi Hirako photo by Osamu Sakamoto

 地面に置かれた彫刻が持つ重力や垂直性から解放された作品は、窓の外に広がる都市の風景と重なり合う。会場が6階にあり、時間帯によって自然光が変化していくことも作品の一部として作用する。平子がつくり出した植物、人、物体が宙を漂い、その奥に現実の日比谷の街が見えることで、鑑賞者はいったん絵画的な空想世界へ入り込みながら、最後には再び現実の都市へと送り出される。

「The no land」の展示風景 © Yuichi Hirako photo by Osamu Sakamoto

 こうした構成について秋元は、平子の作品には物語を想像させる人物やモチーフが多数登場するいっぽうで、明確な起承転結を持つ物語が設定されているわけではないと語る。鑑賞者は色やかたち、モチーフ同士の関係を自由に「読み」、そこからそれぞれの風景をつくることができる。

 平子自身も、「現時点でできる最高の展示ができた」としながら、鑑賞者に特定の答えを求めてはいない。作品から何かを発見するのか、これまで感じたことのない感情を持ち帰るのか。それぞれの経験に委ねたいという。

 都市と自然の境界が交差する日比谷という場所で、平子の作品は、私たちが「自然」と呼んでいるものをあらためて見つめ直すきっかけを投げかけている。

展示風景より © Yuichi Hirako photo by Osamu Sakamoto
日比谷公園に設置された平子雄一《Mirror Plant 01》(2026)