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2026.7.14

特別展「空海と真言の名宝」(東京国立博物館)開幕レポート。空海生誕1250年の祈りと美が集結

弘法大師・空海(774〜835)の生誕1250年を記念する特別展「空海と真言の名宝」が、東京・上野の東京国立博物館 平成館で開幕した。会期は9月6日まで。真言宗十八本山と関係寺院の全面協力のもと、国宝15件、重要文化財60件を含む全88件の寺宝が集結した会場の見どころをお届けする。

文・撮影=橋爪勇介(編集部)

国宝《五智如来坐像》(9世紀)
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 空海が唐から密教をもたらしてから約1200年。その教えは高野山や東寺をはじめ全国各地へ広がり、多様な宗派へと発展しながら現在まで受け継がれてきた。東京・上野の東京国立博物館 平成館で開幕した特別展「空海と真言の名宝」(〜9月6日)は、その歩みを真言宗各派総大本山会(十八本山)と関係寺院が所蔵する至宝によって紹介する大規模展だ。

 展示は「空海と真言密教」「後七日御修法の世界」「真言宗各派の名宝」「真言宗各派の彫刻と秘仏」の4章で構成され、国宝15件・重要文化財60件を含む寺宝88件(会期中展示替えあり)を紹介。宗教史にとどまらず、日本美術史を代表する名品が並ぶ内容となっている。

第1章「空海と真言密教」

 展覧会の幕開けとなる第1章では、空海の生涯と、その思想を支えた密教文化が紹介される。

 本章でもっとも注目したいのは、展示冒頭を飾る高野山・金剛峯寺ゆかりの秘仏《弘法大師坐像》(17世紀)だ。豊臣秀吉が母の菩提を弔うため建立した寺院以来伝わるとされ、幾度もの火災をくぐり抜けてきた由緒ある像が、空海生誕1250年を記念して特別公開された。

国宝《三十帖冊子》(9世紀)のうち第六帖

 若き日の空海は唐へ渡り、師・恵果(けいか)から密教を伝授された。その成果を物語る代表作が、国宝《三十帖冊子》(9世紀)だ。密教経典を書写したこの冊子には、楷書・行書・草書が織り交ぜられ、行書や梵字の多くは空海自身の筆と伝わる。密教を必死に学び取ろうとする姿勢が、その一字一字から伝わってくるようだ。

国宝《三十帖冊子》(9世紀)のうち第十八帖

 また、鮮やかな色彩と立体的な描写が見事な醍醐寺所蔵の国宝《五大尊像》(12〜13世紀)や、空海が中国より持ち帰ったとされる密教法具を代表する国宝《金銅錫杖頭》(8世紀)なども見逃せない。

国宝《五大尊像》(12〜13世紀)のうち、降三世明王と不動明王
国宝《金銅錫杖頭》(8世紀)
国宝《金銅錫杖頭》(8世紀)は細部にも注目

第2章「後七日御修法の世界」

 続く第2章では、一般にはほとんど知られることのない真言宗最高の法会「後七日御修法(ごしちにちみしほ)」の世界に迫る。

 毎年1月8日から7日間、東寺で営まれるこの法会は、国家安泰や五穀豊穣を祈る宮中儀礼として空海が創始を願ったものだ。現在も代々の阿闍梨が執り行う秘儀として受け継がれている。本章では、その荘厳な法会を彩ってきた寺宝が公開される。

《十二天像》(9世紀)

 なかでも圧巻は、現存最古の《十二天像》(9世紀)。密教修法の場を守護する十二天を大画面いっぱいに描いたもので、後七日御修法の草創期に制作され用いられた可能性があるという。鳥獣座に坐す尊像など初期密教図像ならではの特徴を残す極めて貴重な作品だ。

秘仏《聖観音菩薩・梵天・帝釈天立像》(13世紀)

 さらに、かつて宮中の仁寿殿と清涼殿の二間で行われた観音供の本尊であったことから「二間観音」と呼ばれる秘仏《聖観音菩薩・梵天・帝釈天立像》(13世紀)や、平安時代の「後七日御修法」の設えを伝える貴重な図面《後七日差図》(12世紀)なども展示され、普段は閉ざされた儀礼空間の一端を垣間見ることができる。

《後七日差図》(12世紀)

第3章「真言宗各派の名宝」

 第3章では、真言宗各派十八本山が受け継いできた名宝が並ぶ。

 真言宗は時代のなかで多くの宗派へ分かれながらも、空海への信仰という共通の精神を受け継いできた。本章では、その歴史を物語る書跡や絵巻、古文書が一堂に会する。

第3章の展示風景
国宝《信貴山縁起絵巻 飛倉巻》(12世紀)

 なかでも国宝《信貴山縁起絵巻 飛倉巻》(12世紀)は、日本絵巻史を代表する名作として知られる、院政期四大絵巻のひとつ。本作は、朝譲孫子寺の中興開山、命蓮の説話を描いた絵巻。命蓮が信貴山から鉢を飛ばして托鉢していたところ、それを渋った長者の蔵を飛行させたというエピソードが、躍動感とともに描かれている。

国宝《一字一仏法華経序品》(11世紀)

 そのほか、『法華経』を経文と仏像を一行おきに表わす「経仏交書経」の形式で書写した国宝《一字一仏法華経序品》(11世紀)や、舎利容器の最高傑作とされる国宝《金銅透彫舎利塔》(13世紀)など、寺院の歴史と信仰を伝える資料が並び、各宗派がいかに文化財を守り伝えてきたかが、その努力の結果を概観することができる。

国宝《金銅透彫舎利塔》(13世紀)

第4章「真言宗各派の彫刻と秘仏」

 最終章では、本展最大の見どころとなる仏教彫刻と秘仏が展開される。とくに秘仏の数は前後期で11件におよぶ。

第4章の展示風景
国宝《薬師如来坐像》(1103)

 京都・仁和寺が所蔵する国宝《薬師如来坐像》(1103)は平安時代後期を代表する仏師・円勢と長円親子によって再興された像。高さわずか25センチというサイズながら、そこに彫り出された端正な姿や、光背や台座に浮き彫りされた仏像など、高い技術力が見てとれる。

重要文化財《十一面観音菩薩立像》(9〜10世紀)

 さらに、三重・観菩提寺の重要文化財《十一面観音菩薩立像》(9〜10世紀)は、33年に一度しか開帳されない秘仏だ。十一面六臂という特異な姿と鋭い眼差しは、秘仏ならではの神秘性を強く印象づける。

《如意輪観音菩薩坐像》(11世紀)

 《如意輪観音菩薩坐像》(11世紀)は大阪・大門寺の秘仏。岩座上に坐す六臂の如意輪観音菩薩は珍しい彫刻作例だという。頭頂から台座までが一木造でつくられており、別材の板光背には筆で文様が描かれている。

国宝《五智如来坐像》(9世紀)

 会場の最後を飾る京都・安祥寺所蔵の国宝《五智如来坐像》(9世紀)は、現存最古の五智如来像として知られる本展を象徴する作品のひとつ。大日如来が備える五種の智慧(法界体性智・大円鏡智・平等性智・妙観察智・成所作智)を象徴するものであり、大日如来を中心に四如来(阿閦・宝生・阿弥陀・不空成就如来)を配することで曼荼羅を立体的に表現している。創建期の安祥寺に由来する初期密教彫刻の最高傑作であり、その静謐な存在感は圧倒的だ。

国宝《五智如来坐像》(9世紀)の背部

 国宝・重要文化財がこれほどまとまって公開される機会は極めて稀であり、とりわけ秘仏や「後七日御修法」に関わる寺宝や秘仏を一度に鑑賞できる点は、本展ならではの醍醐味だろう。宗教史、美術史、文化史が交差する密教文化の奥深さを体感できる、空海生誕1250年の節目にふさわしい大規模展となっている。