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2026.6.23

「エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」(アーティゾン美術館)開幕レポート。人々の心を救うためのデザインとは何か

東京・京橋のアーティゾン美術館で、20世紀イタリアデザインを代表するエットレ・ソットサスの大規模回顧展「エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」が開幕した。会期は10月4日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=三澤麦(編集部)

エットレ・ソットサスによる18点の花瓶シリーズ
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 東京・京橋のアーティゾン美術館で、20世紀イタリアデザインを代表するエットレ・ソットサス(1917~2007)の大規模回顧展「エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」が開幕した。会期は10月4日まで。担当は杉本渚(同館学芸員)。

 ソットサスは1917年、オーストリア・インスブルック生まれ。1950年代からオリベッティやポルトロノーヴァのために数々の名作を手がけ、80年代には自身が発起人となって国際的なデザイナー集団「メンフィス」を結成。大胆な色彩と形態によるデザインの数々でセンセーションを巻き起こした。85年頃にメンフィスを離脱して以降も遊び心あふれる挑戦的なデザインをつくり続け、2007年に90歳で没。生誕100周年の2017年には欧米の美術館を中心に大規模な回顧展が開催されるなど、その評価はますます高まっている。

セクション2「1960年代 デザインの実験」より、手前は「スーパーボックス」(デザイン:1966、製作:1968)。本作は台座までがソットサスのデザイン

 近年、石橋財団ではソットサスの作品を重点的に収集。ジャンルは家具、セラミック、機器類、ガラス器、写真、ドローイングなど多岐にわたり、現在100点を超える一大コレクションとなっている。本展は、アーティゾン美術館にとって初のデザイン展であり、ソットサス作品群を一挙に公開する初の機会だ。

 また、会場の空間設計はインテリアデザイナーの五十嵐久枝が担当。環境に配慮した紙管や紙の集積を生かした展示空間のつくりにも注目したい。

セクション4「1980年代 メンフィスの時代」の展示風景

初期から晩年にいたる作品を網羅できるコレクション

 本展では、石橋財団のコレクションから117点が会場に並び、5つのセクションにわたってソットサスの仕事を展望できるものとなっている。

ポルトロノーヴァの家具。ソットサスによるデザインの特徴でもあるストライプ状の家具が並ぶ
オリベッティによるポータブルタイプライター「ヴァレンタイン」(デザイン・製作:1968)

 まずセクション1では、1950年代末のイタリア企業との協働を紹介している。当時革新的な家具デザインを生み出したポルトロノーヴァ(Poltronova)やタイプライターで有名なオリベッティ(Olivetti)での仕事を見ても、ソットサスの大胆かつ斬新なディレクションが反映されていることがうかがえる。とくにオリベッティのポータブルタイプライター「ヴァレンタイン」は日本でも愛され、デザイン史上に残る名作としても知られている。

陶器でつくられた「トーテム」シリーズ
トーテムのためのドローイング

 セクション2で取り上げるのは1960年代の活動だ。世界中で反体制的な社会運動が展開されていたこの時代、ソットサスは「人々の心を救うためのデザインをしなければならない」という考えにたどり着いた。そうして制作されたのが、陶器の輪を積み上げることで生み出された巨大トーテムの数々だ。過剰な消費文化が人々の精神を蝕むと考えたソットサスならではの発想だろう。このオブジェは、ソットサスにとって「人々を救済するための道具」として考えられていた。

ソットサスによる写真シリーズ「メタファー」。各写真の下にはソットサスによる思考の断片として言葉が添えられている

 1970年代に入ると、イタリアでは革新勢力と政府間の暴力を伴う対立が多発する「鉛の時代」を迎えた。この頃、ソットサスは活動の拠点であったミラノを離れ、芸術家の友人とともにスペインのカタルーニャ地方へと放浪の旅に出ることとなる。セクション3では、この時期に撮影された写真シリーズ「メタファー」を紹介。デザインを巡る思索に耽っていたソットサスの、哲学的な部分が垣間見える重要なシリーズと言えるだろう。

ソットサスが率いた「メンフィス」

 ソットサスの活動として広く知られているのが、国際的なデザイン集団「メンフィス」の立ち上げだ。メンフィスという名称は、グループ結成のきっかけとなった会合で偶然流れ続けていたボブ・ディランの曲「メンフィス・ブルース・アゲイン」に由来している。同団体にはマルティーヌ・ブダン(1957〜)やアルド・シビック(1955〜)、ミケーレ・デ・ルッキ(1951〜)、マルコ・ザニーニ(1954〜)といった面々が在籍しており、日本からもインテリアデザイナーの倉俣史朗(1934〜91)や梅田正徳(1941〜)、建築家の磯崎新(1931〜2022)らが参画していた。

左から「ダイニングチェア」(デザイン・製作:1979)、「カールトン」(デザイン・製作:1981)、「カサブランカ」(デザイン・製作:1981)。この空間ではソットサスの遊び心を表現するための照明の演出が採用されている

 彼らによって色彩や形態、素材、装飾パターンなどといった様々なデザイン的実験がなされ、1981年の第1回メンフィス・コレクション展では55点の作品が発表された。会場ではソットサスをはじめとしたメンフィスメンバーらの作品も合わせて展示されている。

セクション4にはメンフィスの活動を示す作品が並ぶ。手前には倉俣史朗やミケーレ・デ・ルッキのテーブルも
手前は「アクロポリス」(デザイン・製作:1988)。壁面にはソットサスが残した言葉が掲載されている

 最終セクションでは、ソットサスがより感覚的な仕事を行うようになっていった1990年代以降の作品から、とくに数多く手がけたガラス器のデザインを並べて展示している。ガラスならではの透明感を活かしつつも、ロープや針金で組み合わせられたこの18点のシリーズ作品は、大胆さと繊細さが共存し、視覚的にも造形的にもソットサスの探究心がうかがえるものだ。

ソットサスによる18点の花瓶シリーズ

 本展の副題に掲げられている「魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」という言葉について改めて考えてみる。デザインにおいて機能性は不可欠なものであるが、それが生活空間に置かれたとき、機能性を超えた先にある「人の心を揺さぶるもの」とは何なのだろうか。それを探求し続けたのがソットサスであり、彼がイタリアデザインを語るうえで欠かせない存在と言われる理由でもある。生活空間という場を心躍る魔法の空間にする。そのために生涯をかけて挑んだソットサスの思想と造形の在り方を、改めて通覧する機会と言えるだろう。