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2025.12.20

「国松希根太 連鎖する息吹」(十和田市現代美術館)開幕レポート。自然と向き合い連鎖する創作の息吹

十和田市現代美術館で、北海道を拠点とする彫刻家・国松希根太(くにまつ・きねた)の美術館での初個展「国松希根太 連鎖する息吹」が開催されている。会期は2026年5月10日まで。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、国松希根太《WORMHOLE》(2025)
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 青森県十和田市にある十和田市現代美術館で、北海道を拠点とする彫刻家・国松希根太の美術館での初個展「国松希根太 連鎖する息吹」が開催されている。会期は2026年5月10日まで。

 国松は1977年北海道生まれ。多摩美術大学美術学部彫刻科を卒業後、2002年より北海道中南部の白老から内陸に位置する飛生の旧小学校を改造した「飛生アートコミュニティー」を拠点に制作活動を行っている。長い年月を経て独自のフォルムを形成した木々を使用し作品を制作しており、近年は地平線や水平線、山脈、洞窟などの風景のなかに存在する輪郭(境界)を題材に彫刻や絵画、インスタレーションなどを発表している。

 十和田が位置する北東北と北海道のつながりに目を向けることが企画背景のひとつとなっている本展では、国松の代表作に加え、十和田の自然に出会うことで生まれた新作も披露される。さらに飛生アートコミュニティーやAyoro Laboratoryの活動や、国松の父の國松明日香(彫刻家)や祖父の国松登(画家)へと連なる作家の系譜も紹介される。

 会場は大きく4つのパートにわかれている。会場を入ってすぐの空間は「WORMHOLE 一時空をつなぐ森ー」と題され、巨木を用いた高さ2メートルを超える彫刻作品が6点並ぶ。「WORMHOLE」とは、「虫食い穴」という意味を指すのと同時に、時空を超えてワープする穴もしくは経路も意味している。まるで森を散策するように作品間を回遊できる構成であるため、作品を様々な角度から観察することができる。

 木材の特徴にあわせてそれぞれ形状が異なるが、手前に展示されている作品のみ青森産のヒバを、ほか5点は国松が活動拠点を置く北海道の木材を使用している。国松が使用する巨木たちは、どれも長い年月のなかで歪み、うねり、こぶを生み、穴が空き、腐食が進んでいるものである。ひとつとして同じ様子のものはなく、さらにそこに国松がチェーンソーや火を入れることで、各作品はさらに固有のものへと進化していく。

「WORMHOLE 一時空をつなぐ森ー」の展示風景より

 手前に展示されているヒバでできた《WORMHOLE》(2025)は、十和田にある木材店で選んだものを使用しているという。ヒバという青森の人にとっては馴染み深い素材を使った作品から、国松にとって青森ではじめての個展が広がっていく。

展示風景より、国松希根太《WORMHOLE》(2025)

 北海道のミズナラを使用した《WORMHOLE》(2023)は、滑らかな曲線を目で追いながらぐるりと作品を周回すると、ぎょっとするような大きなこぶが出現する。巨木の内側からまるで湧き出てくるようなその様子に圧倒されそうになるが、国松はこのこぶを生かすことで、巨木との対峙を試みる。

展示風景より、国松希根太《WORMHOLE》(2023)

 シナノキを用いた《WORMHOLE》(2025)は中が空洞で、その内側は光を吸収しそうなほど真っ黒になっている。これは腐食が進んでしまっていた木材の内側を削り、その表面を火で炙ったことによるものだ。国松の作品には黒色の部分がたびたび出現するが、これらはすべて着色ではなく、火で炙ることで実現している。

展示風景より、国松希根太《WORMHOLE》(2025)

 会場奥のイチイを使用した《WORMHOLE》(2023)は、一際不思議な模様が目を引く。明るいベージュのような、いわゆる木材と聞いて想像する色味のなかに、オレンジ色がまだらに混ざっている。これは自然がつくり出した模様であり、削るまでわからなかったものだという。また作品のところどころに穴が空いているが、それを覗き込むと巨木の内側がよく見えるように照明が工夫されている。普段見ることのない木の内側を覗き込む貴重な体験ができる。

展示風景より、国松希根太《WORMHOLE》(2023)
展示風景より、国松希根太《WORMHOLE》(2023)の穴を覗いたときの様子

 本展の鑑賞体験で印象的なのは、展覧会でよく見る、作品保護のための結界が張られていないという点だ。つまりぎりぎりまで作品に近寄ることができ、穴を覗くことも、作品を間近で見上げることも、その木材特有の香りに気づくこともできる。作品への接触は控えながらも、ぜひ近づいたり離れたりしながら、様々な距離感で作品と向き合ってほしい。また会場には外光が差し込むため、時間や季節によって変化する作品の表情の違いにも要注目だ。

 巨木の彫刻によるWORMHOLEの空間を抜けると、通路に小さな木の彫刻が7つ並ぶ。「7 sculpture sketches」と題されたこれらは、国松が奥入瀬(おいらせ)の上流に向かう途中で出会った石や岩壁などの形態を、木材を用いながらチェンソーとバーナーでスケッチするかのように制作されたものである。サイズは小さめなものの、ごつごつしたような形状からは、奥入瀬のダイナミックな自然が想像できる。これら7つの作品はすべて、同じヒバの木からつくられている。

 また、奥に進むにつれ展示台が3センチずつ高くなるよう設置されている点にも言及したい。この先にある展示室に向かって、まるで奥入瀬の自然のなかを上っていくような感覚を生み出す工夫がなされている。

「7 sculpture sketches」の展示風景より

 廊下の先に現れる「WORMHOLE一堆積する時間ー」と題された空間には、樹齢151年の奥入瀬のブナを削った作品《WORMHOLE》(2025)が展示されている。本作は国松が十和田で滞在制作したもので、本展のための新作である。このブナは昨年の12月に伐採されたものだが、通常すぐ木材のチップにされてしまうところ、まるで国松との出会いを待っていたかのように十和田の木材屋に残されていたという。

 どの角度から見ても異なる表情が見られる作品だが、会場正面から見える丸くえぐれた形状はカルデラをイメージしている。火山爆発でできた二重カルデラである十和田湖の、雄大な自然へ向き合った国松だからこそできた表現だと言えるだろう。

展示風景より、国松希根太《WORMHOLE》(2025)

 同じ空間には、本展唯一の平面作品《HORIZON》(2025)が展示されている。国松が2009年から展開する「HORIZON」シリーズは、地平線や水平線という地球の輪郭でわかれ、同時につながった世界を描いた平面作品だ。画材の一部に地元の自然素材を使う特徴のあるシリーズだが、十和田湖の風景や地層を念頭にした本作では、奥入瀬川経由で十和田に流れ着いた軽石や土が用いられている。

展示風景より、国松希根太《HORIZON》(2025)

 奥入瀬を下るように廊下を戻る途中の左手に、青い壁面で囲われた小さな展示空間がある。ここでは、国松希根太が、画家であった祖父・登、彫刻家の父・明日香につらなる系譜として紹介されている。3人はいずれも北海道を代表する芸術家で、制作方法や素材は異なれど、移ろいゆく北の自然や風土に寄り添う姿勢、そしてそれらを抽象化し独自の解釈で表現する制作スタイルが共通している。ここで紹介されている国松の作品は、木材を使った即興的な制作スタイルにいたるきっかけの作品となっている。

 さらに曽祖父の美登里は秋田県本荘(由利本荘市)を拠点に、本荘こけしの工人(職人)として活動した後、北海道で古美術商を開業している。国松は、2025年秋の十和田滞在中に、由利本荘をはじめルーツをたどる秋田の旅に出た。そんな背景から、国松家のルーツに着目した企画が展開されている。

展示風景より
展示風景より、国松希根太《シズクノオドリ》(2003)

 同館内にあるカフェ&ショップ「cube」でも、国松の活動が紹介されている。国松が拠点とする北海道白老町にある「飛生アートコミュニティー」は、2026年に設立40年を迎える。このスペースでは、「飛生アートコミュニティー」の40年の歩みを知ることができる。またその活動のなかで展開されている、近隣のアヨロと呼ばれる地域を中心に土地を探索するフィールドワーク「Ayoro Laboratory」についても紹介があり、多岐に渡る活動の様子を知ることができる機会となっている。

カフェ&ショップ「cube」で展開されている「飛生息吹|TOBIU IBUKIーー飛生アートコミュニティーの40年」の様子

 国松にとって美術館での初個展となった本展は、国松が自然やその土地に深く向き合い、創作を続ける姿勢が強く伝わるものであった。またその姿勢が、本展をサポートした地域の人々にも波及しており、本展を見るために美術館を訪れ、アートに触れる機会が持てたという声もあるという。北海道で活動を続けながら、青森という土地での挑戦を経て新たな創作の息吹を連鎖させている国松が、今後どのように活動を展開させるか要注目である。2026年度に設立40周年を迎える「飛生アートコミュニティー」の活動にも、あわせて注目したい。